信じること
巫女の衣装を着た佐藤さんに着いていきながら、先ほどの騒がしい音は彼女たちのものだったのだと、近くで自分のこれまでのざわめきを聞かれていたかもしれず、心が騒ぎだす。
「はい、どうぞ。」
「失礼します。」
そのまま、タロを連れて巫女はバスルームに行き
「リビングにソファーがあるから、少しくつろいでいて。喉乾いたら自由に飲んでいいからね。」
言葉通りに進むと、ご丁寧に扉に”リビング”と可愛く飾られていて、開けるとどこにでもある静かなリビングに過ぎなかった。
「(霊媒師というのは、嘘なのかな。)」
そう思いつつも、深い赤と茶色が混ざった太々しいソファーに腰を預ける。山のように積み上げて作った自作ソファーとは違って、製品にしか表現できない設計の美学のようなものを味わう。
目をつぶって大きく息を吐けば、そのまま時が進んで佐藤が戻ってくる。
「よかった、気に入ってくれたようで。香織ちゃんでいいわよね。麦茶でかまわないかしら?」
「はい、なんでも。」
どこにでもいる普通のおばさんの姿で、やっと心が落ち着くようである。互いにまだ気を使っている状態で、麦茶に口をつける。
「まさか、こんなに近いとはね……。」
「あの動画は。」
「ちょっと、二階でも見る?」
その二階には、風変わりな装飾のされた扉があって、自作の弊物のようなものが天井から下へ垂れている。
扉を開くと、見慣れたセットがそこにあって、スタンドとカメラとその後ろ側に衣装が置かれている。
「あの、ここで聞くのもなんですが、霊媒師というのは。」
「まぁ、昔占い師みたいなことはやっていてね、中々評判でよく当たっていたのよ。それからフリーのお祓いをするようになって、かな。」
統計や感情をうまく利用したようなもので、霊を実際に祓うというものではない。しかしながら、彼女が口にするように、明確に当てるということは実際に経験している。
「それって、千里眼をして当てるってことですか?」
「千里眼ではないね。まぁ、香織ちゃんには申し訳ないことをしてしまって、ごめんなさいね。」
私は、この最近の様々な経験をしている身であっても、忘れられない強烈な光景を覚えている。タロちゃんを見つけて帰してあげた日、夕焼けが佐藤さんの顔を影で覆って、鼻血が突然出てきた光景を。それは、単なる疲れでは表現できないような奇妙なものとして、深く心に根を張っている。
「あの日、タロちゃんを連れて帰った時、鼻血が出ましたよね。あれって・・・。」
「何か、呪いのようなものを受けたり、その呪いに打ち勝った代償であったり、そんなことはないわよ。ただ、不思議と悪い気を外に出すような感覚というか、言葉にするのは難しいけれど、清々しくはあったのよ。だから心配しなくても大丈夫。」
私はまだ、佐藤さんという名の霊媒師清宮を、嘘つき呼ばわりできる自信がなかった。まだ、彼女が知らないだけで力が隠されているのではないか、と。




