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第一章 河川編 三話

 夕海とヤナが奇妙な友人関係を成立させていると、撫子が会話を区切るようにパンパンと手を叩いた。

「さて、もういいかね? 

 そろそろ仕事を済ませて帰りたいんだが」

「あ、そうだった。すっかり忘れていた」

 仕事とは関係ない話をしていたことで記憶から抜け落ちていたらしい。

「なるほど、完全に頭の片隅から消えていたと。

 キミがここに来たのは遠足か何かかね?」

 撫子がニヤニヤと笑いながら辛辣なことを言ってきた。

 そりゃあ、本分を忘れていたのは悪かったが、会話が脱線しがちな撫子に言われたくない。

「もう、ただちょっと失念していただけじゃない」

「そうかい。それは失礼したね。てっきり職員としての自覚がないのかと思ってね」

「う……」

 図星であるため反論はできなかった。

 撫子が言う通り、あまり真剣ではなかったのかもしれない。働き出した経緯が唐突であったため、まだ実感というものが乏しいのだろうか。

 などと夕海たちが話していると、申し訳なさそうにヤナが口を挿んできた。

 何やら言いたいことがあったようで、話しかける機会を見計らっていたようだ。

「あの、みなさん。みなさんもここには仕事できただか?」

「そうだけど……も?」

「実はオラも仕事で来ただ。この辺りの住人から苦情があってなぁ」

「へぇ、奇遇。私たちも仕事だよ」

 夕海たちは困っている人の依頼で来たわけだが、ヤナは職業斡旋の仕事をしているというので、あるいはその関係なのかもしれない。

 と、ふと夕海は気が付いた。ヤナも要するに公務員に近い立場なのだろうが、彼女は川などを管理する存在だ。そんなヤナが地域の不満を聞いてきたということは、それは夕海たちが訪れた原因と近い可能性がある。

 ここは情報を共有するのも悪くないのかもしれない。

「私たちはこの川で獲れた魚の異変を調べに来たんだけど、ひょっとしてヤナさんも?」

「恐らくは同じだなぁ。オラが聞いた話ではぁ、この先で有害物質を垂れ流しているもんがおるんだというだけんど」

「有害物質? 何かそれっぽいなぁ」

「ああ。ここでヤナさんと出会えたのは幸運だったな。水関係に詳しいヤナさんなら我々では気づけない情報を得られるかもしれないかならな」

「オラの方も心強いだ。この先にいる人が怖い人だったら、オラあ困っちまうかんなぁ」

 何百年も生きている有力者が、まだ見ぬ不審者を怖がっていた。

 夕海は不覚にも和んでしまった。こんなに人間っぽいのに竜神の御使いだというのだから微笑ましい。

 そうしてヤナを加えた一同は、原因を究明するため川上に向かって木陰の中を進んで行った。

「それにしても、日吉くん。

 自分から友人になろうと言い出すとは、キミも随分と人外に慣れてきたじゃないか」

 唐突に、撫子が夕海をからかうように私見を述べてきた。

 彼女には積極的な夕海が珍しく見えたのだろうか。

「ん? いや、なんていうかさ。慣れたというより親しみやすかったから、かな。

 ヤナさんは外見が普通だし、態度も喋り方も気さくだから、私の中の異形のイメージとは重ならなかったんだよね」

「ほう。ではキミは、異形のイメージと重なれば例え可愛らし少女でも殴り殺そうとするわけだな?」

「は?」

 何の話だと考えて、どうも夕海と撫子が出会ったときのことを揶揄されていると気が付いた。

「あのね……。自分で異形だって言ったんじゃない」


 引き籠る夕海の関心を引くため、撫子が自分の身を挺して挑発したのである。

 夕海は憮然としつつも弁明した。

「言わせてもらうと、弓菜さんのその角はまさに異形っぽいんだよね。

 異形の変化は上半身、特に頭から始まるからさ」

 今思うと、まさにそれが原因だったのである。

 基本、感染した異形のウィルスは脳を侵食して肉体を変貌させる。その兆候は頭部から現れるため、その頭部に特徴のあるこの町の人外は勘違いしやすいのである。

「まさに異形の生態を熟知しているからこその勘違いだな。

 確かに異形の変化は下半身が最後だ。

 だからこそ、下半身が竜の姿であるヤナさんは大丈夫だったのだろうな」

「あれ? 弓菜さんって異形のことに詳しいの? 町の外に出たりはしないんでしょう?」

「いいや。よく母に連れられて異形退治をしたものさ。キミたちと同程度の知識はある」

「へえ、異形退治を」

「我々鬼は異分子である異形とは相反するのさ。そうした者と戦うのは世の常だ。

 私は混血だから人に近いが、元々ここの鬼は土地の霊脈から発生した、その地を守る霊的な存在なんだよ」

「ん? どういうこと?」

「要するに元を糺せば土地の精霊なんだ、我々はな。

 大樹や大岩などのように、その土地に長く存在すると霊気が宿り意思を持つようになる。

 我々はその具現化した存在で、古くから土地を見守ってきたのさ」

「へぇ、精霊さんだったんだ」

 精霊と言われてもよくわからないが、イメージ的には妖精のような姿形である。小さくて羽があって愛くるしい、あの物語に出てくるような姿が思い浮かぶのだが――。

 ……うん、幻想はいつか壊れるものだ。

「ただ、全ての鬼がそういった存在だという訳でもない。

 悪い気が集まって鬼に転ずることもあれば、人でもその気に汚染されることによって鬼に転じることがある。

 そうした者たちは額に一本の角が生え、悪鬼羅刹として暴力と疫病を撒き散らすようになるのだ」

「普通の鬼のイメージな訳か」

 純粋な悪と力。破壊の限りを尽くし、人間を苦しめる。それが、夕海が知っている鬼という存在だが、それは撫子が言うところの鬼は悪い気が関与した存在らしい。

「その外見の違いって何かあるの? 角の数とか」

「特に外見に違いはないな。

 この角の数は霊力の差だといわれている。

 故に人から転じても、長い年月霊力を蓄積すれば角の数が増える。

 まだ出会ったことはないが、あるいは人から転じて複数の角がある大妖怪も存在しているのかもしれない」

「ふ〜ん? じゃあ見分けられないのか」

「ああ。しかし角の数は滅多に変貌することはないので、人から転じれば一本、それ以外は二本と考えて問題はない。

 山姥の黒塚さんも人から転じた鬼だが、高齢でも角が一本だったろ?」

「ああ、さっきの店の女将さんか」

 優しそうな人物だったが、人から鬼になったということは悪い気に取り憑かれたということだ。

 彼女の人生に一体何があったのだろうか。

「他の鬼のことはともかく、この地で生まれた鬼としては異形が跋扈する状況が見過ごせないのさ。

 故に私は子供の頃から異形と戦ってきたし、母は今もなお戦い続けているんだ」

「へ〜」

 そういえば彼女の母親の話は初めて聞いたが、随分と活動的な生活を送っているらしい。

 この人の母親がどのような人なのか、興味が尽きないところである。




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