1章 その3
取り敢えずもう一つ目的である、召喚した魔物の一部を使って魔法生物を作ってみようということになった。
畑の広場に戻った私たちは、まず畑の脇に杭を打ってシロを繋いでから、その抜け毛を一本だけ拝借させていただいた。
「うん、シロちゃんの毛ゲットっと。
それにしてもペットが一匹いるだけで人が暮らす場所っぽくなってきたわねぇ。このまま牧場とか作れたら楽しそうだな」
ちなみに畑には怪しげな名前の植物たちが、既に芽を出して順調に成長を始めている。
この分ならば明日には実が生るのかもしれない。果たして食べても大丈夫なのか、実に不安と興味が尽きない。
「まず、適当な場所の土を池の水で濡らしてください。
それを捏ねて形にすれば、それだけで元になる本体の出来上がりです。要は、泥遊びと同じようなものですね」
「泥遊びねぇ? 私はやったことがあるのかな?」
私はコーネリアに言われた手順で泥を捏ね始めた。
この辺りの土や水は質がかなり良いらしく、製造品の絶好の素材になるらしい。さすが地下迷宮の最下層。ここなら強力な魔法生物が量産も可能なのだとコーネリアは語った。
「よし、できた! シロちゃん二号! 完成!」
「……………」
私はシロちゃんをモデルにした自作の泥人形を掲げて悦に入った。
うん、我ながら悪くない出来だ。
こうして無事に本体が完成したんだけど、何故かコーネリアからの賛美の言葉はなかった。
確かに私のオリジナリティーを発揮した結果、なんか超重量の草食動物みたいな造形になっているけど、その程度ならご愛嬌のはずだ。
地面にしっかり立たせるために胴体から四本の太い足を生やし、バランスが取りづらかったという理由で尻尾を小さくした。面白かったので耳を巨大にしていたら、何だか顔が寂しくなってきたので鼻を思いっきり長くしてみた。
可愛さを差し引いたとしても、世界に通用する芸術性を持っていることだろう。
私が自分の才能に打ち震えていると、何故かコーネリアが不思議そうな表情をしていた。
「それは……象ですか?」
「何言ってんの。シロちゃん二号だってば」
「でも、その形はどう見ても……象、ですよね?」
「もう、象、象、言わないでよ。私、女の子だからわからないわよ」
「それこそ何を言いたいのかさっぱりわかりませんが」
奇遇だね、わたしもさっぱりだよ。
「まあ、ご本人がそれでよろしいのでしたら構いませんよ。胴体の部分にあの小動物の毛を埋め込んでください。そうして魔力を込めれば完成です」
なんて説明されている最中、ふと私はあることが気になった。
「そう言えば、これって私の髪の毛じゃ駄目なの?」
「いえ、駄目ではありませんが、製造物が倒されたときにダメージが返ってきますからね。
普通はこのような代行を用います。
この作業はいわゆる呪法の一種で、倒されたという因果が媒体にされた本体にも分配されるのですよ」
「それって、シロちゃんにダメージが来るってこと?」
「その通りです。複雑な行動をできるようにするには、そのようなリスクが必要ということですね」
「なんか可哀そうね。他人を犠牲にするっていうのが嫌だな」
「では一度、試しにご自身の髪を使ってみますか?
他人の痛みを知ることで、それがどういったものなのか――」
「いや、そういうのはいいから。媒体を使わないヤツは私には無理なんだっけ?」「それは術式を施したものを埋め込むという方法ですね。
それには基本的な理論から、応用を複合的に施す方法まで、大量の勉強が必要となります」
「うっ、勉強……」
よくわからないが拒否反応が。記憶を失う前の私に心的外傷後ストレス障害でもあるんだろうか。
「まあ、それは少しずつお教えいたしますから、今回は妥協して動物の毛を使用してください。
それとも媒体なしで製造してみますか? 一応は可能ですよ?」
「……え? できるの?」
「その場合、魔力という原動力だけなので、意思のない単純な物体になってしまいますが」
「ゴーレムってこと?」
「それよりも下位のものですね。とにかくやってみたらわかりますよ」
「うん。やってみる」
「では、先程の要領でルーナ様の魔力を注いでください」
「あの結晶じゃ駄目なの? 召喚に使ったヤツ」
「それは高い魔力が備わっていますから、正式な魔法生物を造るときにとっておきましょうね」
「なるほど」
私は泥人形を地面に置いて手をかざした。そして手の熱で人形を温めるように集中する。
うん、これが動き出したら可愛いだろうな。手乗り象とは、夢のような話だ。
なんて考えていたら強く集中はできていなかったけど、それでも人形に魔力を宿らせることには成功したようだ。
「……お?」
私の目の前で、人形は微かに振動を始めた。そのまま状況を見守っていると、不意に人形は振動に耐えきれず横転してしまった。
「あ、倒れちゃった。……あれ?」
起こそうとした私の手が止まった。
人形が動いている。しかし、足が動いているのではない。なんかこう、全身が波打つように動いているのである。
「う、うわぁ!?」
それは、横転したまま体の表面だけを動かすことでズルズルと移動していた。その姿を表現するならば……ナメクジ?
なまじ横転した象の姿をしているだけに、その不気味さは生物の領域を超えた。
しかもそれがご主人様にすり寄る――否、獲物を求めるように近づいて来るのである。
さすがの私も、これには鳥肌を立てずにはいられなかった。
「ひ、ひぇぇ!?」
予想以上に、何か早い!
私は思わず、叫び声を上げながら泥人形に拳を叩きこんでいた。
グシャリという泥の感触。
人形は大した抵抗もなく潰れ、そのまま地面と同化して消えてしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ……。怖かったぁ」
「あら、おめでとうございます」
「はあ?」
少しイラッとして反応する。何故自分の人形を壊して祝福されるのか。
「パンパカパーン」
「何故ファンファーレ?」
「どうやら今の攻撃で特殊技能を覚えたようですよ?」
「………………へ?」
今の攻撃って、人形を潰したこと?
「非生物を拳で粉砕する能力。貴女の属性に適応した立派な力ですね」
「え、え〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
まさか暴力に訴えるだけで特技を覚えてしまうとは。
ひょっとしてソレ、私が覚えたくないって言っていたヤツじゃない?
女の子が破壊の力を持っていても、ちっとも可愛くないじゃないか。
未来の自分は馬鹿だな、とか思っていたら、まさかこんな近未来だったとは。
運命って怖いね!
こうして魔法生物の製造と、可愛い特殊技能を覚えるという夢。
その両方が同時に失敗に終わったのであった。
やっぱり野望実現に近道はないんだな。
人生の厳しさは抵抗できないものであるらしい。




