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魔王ちゃんと地下迷宮 ~姫様と魔王ちゃん外伝~

 序章 まあ人生なんてそんなもんだよ



 目が覚めると、私は石の床で横になっていた。

 まず私の体が感じたのは全身の痛みだった。

 優しさの欠片もない床は、まるで悪意を持って私に苦痛を与えているみたいだ。

 何となく頭に来たので心の中で呟いてやった。

 地獄に堕ちろ、硬い床め。

 ああ、でもここで床が地獄に落ちたら、私も一緒に真っ逆さまだな。やっぱり堕ちないでください。

「………………」

 私は自分の体温でほんのり温まった床に手を付き、立ち上がって周囲を見回した。

「……あれ? ここは?」 そこは見覚えがない部屋だったんだ。

 結構な広さのあるその部屋は、壁も天井も全てが石材で組まれている。 何だか重苦しい雰囲気を放出していて、まるで監獄のようだった。

 明かりはないけど、石材自体が淡く発光しているらしく視界に不自由はない。

 ふと、部屋の一角に木箱があることに気が付いた。 蓋のないその木箱を覗き込んでみると、入っていたのは乱雑に詰められた何かの道具と、一冊の書物。

 その分厚い書物を取り出してみる。表紙には豪華な装飾があるものの、そこには題名などは刻まれていなかった。発行物ではなさそうなので、多分個人の手記の類なのかもしれない。

 そこには一体、何が書かれているのか。

 ――と、そんなことを考えていたら、私は自分の状況に初めて気が付いた。

「え? 私って…………………誰だっけ?」

 考えてみる。

 えっと、確か……確か……、夜、眠って……眠って? 眠ったよね?

 目覚めたということは眠ったと言うことで、それは大概が夜なわけで。っていうか今は朝なのか?

 どうやら目覚める前の記憶は一切覚えていないみたいだった。幸い冷静さと思考能力は残っているようなので、色々と考えてみることにした。

 窓がないので外の状況を確認することはできない。部屋の壁に一つだけ木製の扉があったので開けて外を覗いてみると、部屋と同じ石の通路が左右と前方に続いていた。

 どう考えても喜んで住むような建物ではないね。 どちらかというと犯罪者の隠れ家とか、誘拐してきた子供の監禁場所とか、そういった類の場所だ。

「って、まさか拉致監禁!? 私、誘拐されちゃったの!?」

 鈍器のような物で頭を強く叩かれて記憶を失ってしまったとか?

 いやいや、特に頭は痛くないし、もし監禁されているのなら扉に鍵がかかっていないのは妙だ。幾らなんでも建物全体を使った監禁など豪快過ぎる。

 つまり、出入りは自由だからいつでも出て行って構わない、ということかな。

 だとしたら記憶障害の患者を治療する病院……。

「もないよねー。こんな場所だと逆に気が滅入って病気が悪化しちゃうもの」 まず病院ではない。そして多分監禁でもない。でも私が自分で来たとは考えにくいから、誰かに拉致されたという可能性は高い。拉致しておいて監禁しない理由とは。

……知人の悪戯?

 もしくは記憶のない小娘など監禁するまでもないと思ったのか?

 とにかく情報が必要なので、私は部屋に戻って本を開いてみることにした。文字を読めるのかすらわからないけど、ヒントになりそうなものがそれしかないのだから仕方がない。

 最初のページを開くと、そこに走り書きのような文字が描かれていた。

 幸い読むことはできそうだ。



 はぁい、ルーナ! 貴女の愛するお母さんですよー。

 今日は貴女の十歳のお誕生日。 そこで私はとっても素敵なプレゼントを用意したの。

 それがコレ! (パララパッパラー)

(濁声で)ちーかーめーきゅーうー。

 なんと総階数が10にも及ぶ特別ディープな物件よ!

 罠と魔物はないから、貴女が自由に用意してね。

 地下迷宮が好きに造れるなんて、とっても素敵でしょう?

 魔物を作ったり、魔物の餌を育てたり、魔法の研究をしたり、人を誘き寄せる財宝の用意をしたり。やれることはたくさんあるんだから。

 でも急ぐ必要はないのよ。のんびり楽しく、一つ一つやっていけばいいの。

 これぞ流行のスローライフってヤツね。

 あ、新鮮な気持ちで迷宮造りをしてもらうために、貴女の記憶を消しておいたから。

 何か困ったことがあったらこの書物を読みなさい。 大切なことは大体書いておくから。

 さて、私は所用があって少し旅に出ます。

 戻るまでに迷宮が完成していたらママとっても嬉しいなぁ。

 きっと、そのときの貴女はさぞ立派な魔王になっていることでしょう。

 未来の魔王を祝して。

 じゃあねぇ〜。



 私はがっくりと崩れ落ちて膝をついた。

「えぇ〜〜〜?」

 私魔王になるの? とか、お前は何者なんだよ。

 とか思う前に、記されていた文章の適当さに脱力してしまった。

「……これ、強制なの?」

 まったく、妙な理由で人の記憶を奪わないで欲しいわよ。変態の催眠術師だってもう少し良心的だわ。 っていうか『新鮮な気持ちで迷宮造り』ってことは、以前にも同じ経験があるのだろうか。

 既に何ヵ所も製造していて、もうそれで商売できる領域だとか?

 だとしたら魔王と言うより職人だ。迷宮造りの専門家だよ。

 齢十歳にして迷宮造りの職人。うん、別の意味で世界が狙える。

 世界征服よりもよっぽど平和。うん、平和万歳。

 自称母親が本物の魔王なのかだとか一切不明だけど、この記述で私に望んでいるのは世界征服よりも迷宮の完成みたい。

 もし完成したら戻ってきてくれるのか?

 次は世界征服とか言い出さないのか? 

……不安は尽きない。

 取り敢えず本の続きを見てみると、何やら色々と細かい記述があった。 全て読むのは面倒なので軽く目を通すだけでページを捲っていく。

 でもそれでも数分だけで飽きてしまった。

「あ、わかった。

 私『取扱説明書は読まない』派だ」

 そんなどうでも良い発見は置いておくとして、適当に捲った書物の後ろの方に迷宮の地図を発見した。

 現在地がどこなのかと目で追っていくと、地下十階の一室に赤い丸印があり『ここが現在地よん』と書かれていた。

「って最下層!」

 地図の一番最後のページである。歩いて脱出するのは難しいそうだ。

 これは要するに監禁だと言えた。建物全体を使った豪快な監禁である。

 よもや、そんなことを実際に実行する人間(?)がいるとは。

 世界の広さを痛感した。

 あのですね。僭越ながら一つ言わせていただきますとですね。

 ――十歳の子供の記憶を消して迷宮に置き去りって、アンタ本当に人の親ですかぁぁぁぁぁっっっ!!??

 ここまでの絶望が他にあるだろうか。

 まあ良く考えれば、子供の将来の職業に魔王とか選択するような人間ならそれくらいするのかもしれないが。

 取り敢えず母親のことは忘れることにして、自分の今後を考えることにした。

 地図があるので頑張れば脱出は可能であるだろう。

 しかし水も食料もないので、途中で迷ったりしたら野垂れ死ぬのは火を見るより明らかだ。

 というか食糧問題は現在進行形でもある。

 箱の中に何か食料は――と探してみると、『種』と書かれた紙袋を発見した。

 何の種だよ、とか思う前に自然と口から言葉が出た。

「今から育てろ……と?」 まあ直接食べるよりなんぼか建設的だとは思うけど、水も土も陽光もない地下迷宮でこれが育つのか?  そして育つまで何も食べるなと?

 うん、無理ゲー過ぎる。

 しかし地図をよく見ると、どうやら水と土の心配はなさそうだ。

 この部屋から少し進んだ場所に池と畑らしきものが隣接して描かれている。

 これが本当に畑なら食料は何とかなるのかもしれない。

 取り敢えず私は本に目を通しながら畑に向かうことにした。 本の最初にもまず畑の行き方が書かれていたので、まず間違いなくそこは重要な場所なんだろう。

 部屋から出て真っ直ぐの道を進むと、すぐに広い空間に到着した。

「おお〜。自然の匂いだぁ」

 その空間だけ他とは違い石の床ではなかった。全体的に土がむき出しになった地面となっていて、右側に池、左側に畑があった。

 本によると、見つけた種は地下迷宮でも問題なく育つらしい。しかも物によっては一日ほどで実を付けるものもあるそうだ。

 ご丁寧にも、その種類の名前も書かれていた。

 ――デスフラワー。ポイズングレープ。エビルベリー。ダークアップル。

「って、全部劇物ぽい!」 よくわからないけど、多分食べられない。っていうか食べたくない。

 あるいは魔王とかいう存在なら普通に食べられるのかもしれないけど、私がそれを試すにはかなりの勇気が必要だった。

 このまま順調にいけば監禁されて毒殺。

 なんて素敵な人生だろう。

 私は誰もいない迷宮で叫び声を上げた。

「くたばっちまえ、この自称母親めぇぇぇぇぇぇ!」

まったく、虚しすぎるわよ。




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