違う方見てて ごめん
ギュゥゥゥン。
オレの肩に急激にGがかけられ、視野が暗くなる。
「M高裏マドンナランキング一位種場美月になにか御用ですか?」
口調は丁寧ながら、オレの肩に回した手には隠しようのない悪意が含まれている。
嫌だ嫌だと思いつつ、少しずつ顔を左方向に向けて相手を確認する。
なんとなく見覚えのある、トサカギョロ目男だ。学年は知らない。
不良グループと話しているのを見たことがあるような気がする。
「い、いえ、彼女に用があるわけではなく……」
とっさにゴマ化そうとしたが、オレの視界の先には緑の魔物を背負った美少女――種場美月しかいない。校庭を歩く彼女の近くに人影はなく、彼女を見ていたのはバレバレだ。
「あぁん?」
隣の不良があからさまに不機嫌な声を出す。こちらを脅す意図はありありとしている。
もしかしてこのギョロ目男は種場美月の彼氏なんだろうか? いや、もしもそうだとしたら種場美月がソウを呼びだした時点で、そういう彼氏がいるという話も付随していたはずだ。
「ほ、本当に彼女を見ていたわけではなくて」
見ていたのは魔物の方だ。
どうしたらあの魔物を『タスケ』られるのかを考えていたのだ。
「ああん!? テメェくだらねぇ嘘ついてるんじゃねーよ!」
「いや、だから本当にオレが見ていたのは緑のヤツの方で――」
振り上げた不良の手が止まっていた。ギョロ目がこぼれ落ちそうなほど見開かれている。
「……お前もしかして見える系?」
「俺と美月は小学校からの同級なんだけど、あの緑色のヤツが取り憑いてから美月がおかしくなりだしたんだ」
芝生に腰を下ろした不良、こと、下河原が言う。
「でも、俺じゃどうしようもできないからとりあえず悪い噂が立たないように、あいつに男が近づかないように今みたいに脅してきたんだけど」
ギョロ目が大きくクルリと回る。
「でも、それだけじゃダメなんだよなぁ。あの緑色のヤツをなんとかしないと――」
下河原の視線を追うと、種場美月に女生徒が駆け寄るところだった。千奈美だ。きっと、一緒に帰ろうと誘うところなんだろう。
「んなっ!」
千奈美の背中にあるものを見つけ、オレは絶句した。
「ああ」
下河原が言う。
「あの子、もしかして知り合い? 俺も何度か見たことあるんだけど、美月と親しくなった子には別の緑色のヤツが取り憑きやすいんだよね。そして、その取り憑かれた子には悪いことが起こる、らしい」
下河原が気の毒そうにこちらを見た。
「自殺した子も何人かいたよ」




