ごめん 見てた
図書室の窓際の席。千奈美の座っていたキャスター付きの椅子がツツツと前に動いた。
「出てきた」
窓から見下ろすと、ちょうど如月ソウが体育館裏から中庭へ出てきたところだ。長い両腕をもてあますようにポケットに突っ込んで猫背で歩いている。
不意に背後の図書室のドアがガラガラと開いた。
そちらに目を向けると如月ソウが立っていた。
「お待たせ」
「え?!」
千奈美が悲鳴に近い声を発した。
幸いにして蔵書の少ない図書室はいつも人気が無いので、千奈美の声を咎める者はいない。
「なんで? 今さっきまで下を歩いてたのに……」
「え……?」
ソウは窓際に千奈美とオレが並んで座っていたのを確認して、再度
「え……」
とつぶやいた。
どうやら自分が見られていたとは思っていなかったらしい。目が泳いでいる。
「あ、あのさ。如月ってじつは占いが得意なんだよね」
自分でも不自然な話の振り方だな、と思いつつ、助け舟を出す。
ソウが
「そうなんだよね」
と言いつつ、千奈美に歩み寄る。千奈美は催眠術にかかったかのように右手を出して、でも、
「変よ。そういえば、アーちゃんもこの前電話で『オレん家が魔界になった』とか変なこと言ってたし」
あー、それも忘れてほしいなぁ。
ソウが千奈美の手首をつかんで、千奈美の右手に自分の右手をかざすと、金色の光が跳ねた。
千奈美は感情を抱かない瞳で、
「用事を思い出したから先に帰る」
と言って、図書室をあとにした。
「体育館裏の呼びだしは何だったの?」
「うん」
と、ソウは自分のあごを人さし指でかいて、
「さっきのアレ見た?」
と逆に聞いてきた。
オレは頷く。
ソウの背後から出てきた女の子には、遠目でもわかるぐらい大きな緑色の魔物が憑いていた。
「ボクを呼びだしたのは、あの魔物の方みたいで」
ソウはため息をついた。
「緑の悪魔はキケンってやつですな」




