偽兄弟商人の楽しい旅⑥
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商業都市であるジャスミンは、早々に帝国に下ったせいか軍に街を荒らされることもなく、王国時代と全く同じ、いや、それ以上の活気に満ちていた。
帝国の商人たちが堂々と行き交い、帝国兵と王国兵が混在して見回りをしている。
「兄さん、王国兵はそのままなんですか?」
シルフィーリは、負けた側の王国兵まで一緒になって治安維持をしていることを不思議に思ってシリウスに聞いた。
「現地採用というやつですよ。ラージェン王国は確かに負けましたが、上の命令に従って戦っていた一般兵に罪はありませんからね。それに、領土が増えたので、兵士の数が足りません。帝国に思うところがある者でも、自分たちが生まれた街を守るくらいはします」
「裏切ったりしないのですか?」
「その可能性はありますが、裏切りは重罪です。年齢性別問わず一族郎党にまで害が及ぶと告知してありますから、よほどラージェンの王族に忠誠を誓っている者でなければ、何か事を起こすこともないでしょう。私の見た感じでは、そこまでして忠誠を誓っているような人間はいませんでしたよ」
むしろ、上位貴族ほど我先にと帝国に下って、少しでもいい条件を取り付けようと必死だった。
ヒューゴが鼻で笑っていた。
爵位を相当下げた上で家門を残すことは許されたが、何かあればおそらくすぐに潰される。
王国を本当の意味で支えていた優良な人材は、とっくの昔に保護してある。
「そういえば、腐っていたラージェンの神殿では、貴族の令嬢たちが巫女として幅をきかせていたそうですね」
「……はい。寄付を多くいただいていましたから……」
「しょせん人の決めた巫女でしょう?神の決めた神子に従うものではないのですか?」
巫女と神子は、似ているようで全く違う。
けれど、シリウスが調べた限りでは、巫女の方が神殿での権力は強かった。
「神様の定めた神子は、天上の意思に従う存在であって、世俗とは無縁の存在である、というのがラージェンの神殿での教えでした。神子は天を司り、巫女は大地を司る。天を敬えど、大地に生きる我らを導くのは巫女なり、と言われています」
「要約すると、神子はお飾りで、権力は巫女にあるってことですか」
「……その、はい。歴代の神子様方も、神殿内での祈りの儀式や民への慰問を中心に行っていて、王侯貴族に会ったり、夜会や賛美歌などが歌われるような儀式に参加したり、結婚するのは巫女の役目です」
「ほう。では今までの神子に、婚約者などはいなかったのですか?」
「いえ、いました」
「ですが、結婚したのは巫女だけなのでしょう?」
「……はい」
シルフィーリが言い辛そうにしていたので、シリウスは深く追求するのは止めた。
シルフィーリを困らせるのは、本意ではない。
ただし、歴代の神子たちがどうなったかは、秘密裏に調べようと考えたのだった。




