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4.ふつふつと湧く怒り

 王の間を出て、廊下を歩いていると、ふと皿の上に載った甘芋の蒸しパンが気になった。


 初日に作ったものと同じ手順で作ったものだ。

 魔王様の言葉が正しければ、これらにも付与魔法がかけられているということになる。


 もちろん今回もかけているつもりはない。皿を目の高さまで上げ、じいっと眺める。


「やっぱり魔法の痕跡なんて残ってないと思うけど」

 私には見えないほどの微弱な力でうっすらとかかっているのか。それなら無自覚に発動していたとしても、信じられなくはない。



 そう、おやつだけなら。

 だが魔王様は魔占花やベストにも付与魔法がかけられているといっていた。微弱な力であれば、あそこまで早く花が咲くことはない。


 ベストだってタイランさんが人間界に行く前に効果が切れているはずなのだ。


 謎は解けぬまま。疑問は深まるばかり。

 うーんと唸りながら廊下を歩いていると、どこからか言い合うような声が届いた。魔王様とタイランさんの声だ。


 大声を出すなんて珍しい。しかもタイランさんは少し前に寝ると部屋に戻ったばかりだ。

 大声なんて出す体力が残っていたとは思えない。



 一体何があったのか。

 声のする方角へと向かう。そのまま突き進み、辿り着いたのはタイランさんの自室だった。


 ここまで来たはいいが、ドアをノックする勇気が出ない。彼らの話の中心にいるのが自分だとは思わなかったのだ。


「ダイリとばあさんは悪くない! 悪いのはそれを利用した奴らだ」

「我も悪いとは言っていない。だが探索妨害魔法をかけた人間が分からなければ、相手の居場所も特定できないと言っているのだ」

「そんなもの知るか! ばあさんがダイリを隠さなければ殺されていたかもしれないんだぞ!」


 その言葉に、黙って聞いていることなんて出来なかった。ギイっと音を立ててドアを開き、中にいる二人に問いかける。


「殺されていたかもしれないってどういうことですか?」

「ダイリ……」

「教えてください。私は誰に、なぜ、殺されそうになっていたのでしょうか?」


 私の問いかけに、タイランさんは目を逸らす。本人に聞かれるとは思ってもみなかったのだろう。


 だが聞いてしまったからには知らないフリをすることは出来ない。教えてください、と繰り返せば、観念したように息を吐いた。


「姫を大聖女に据えることで王家との縁を強固にした教会にとって、姫よりも力の強い人間は邪魔なんだ。実際、ばあさんはそれで処分されかけた」

「処分ってそんな言い方!」

「力の強い子どもを家族から引き離して酷使し、使えなくなったら捨てる。それが教会のやり方なんだよ!」

「っ」


 ビリリっと肌をひりつかせる怒鳴り声に身がすくんだ。タイランさんはバツ悪そうに「悪い」と短く謝った。


 それでも彼の中の怒りがなくなるわけではない。恨めしそうに唇を噛んでいる。


「だが教会はばあさんを処分することができなかった。伊達に長年大聖女と呼ばれているわけじゃない。だから少しずつ権力をそぎ落として、隔離することにした。二度と力をつけないように、ばあさんの唯一の身内の俺も一緒に、な。隔離といっても買い物や墓参りくらいは許されていたし、俺もばあさんも元々権力なんぞに興味はない。これでいいと思っていた。……ダイリさえいなければ」

「私?」


 なぜそこで私が出てくるのか。


 教会にはいたが、私の力はオリヴィエ様には遠く及ばない。

 ただの聖女見習いである。なぜ目を付けられるのか。皆目見当もつかない。小さく首を振る私に、魔王様は悲しそうな目を向ける。


「ダイリは自分が思っているよりもずっと強い力を持っている。様々な物に付与魔法をかけても気付かないほどには強いのだ。おそらく、教会はそれを面白く思わなかったのだろう。だから、ダイリを処分しようとした。オリヴィエはダイリを助けるために魔法を展開し、それが偶然にも勇者の想い人の捜索を阻んでいる。オリヴィエが魔法を解けば捜索は一気に進むのではないかーーと我は考えている」

「だがそんなことをすれば、勇者の怒りの矛先がばあさんとダイリに向きかねない。それに教会自体、崩れかけてる。もう長くは持たない。完全に崩れれば魔法を展開し続ける理由はなくなる。わざわざ危険にさらされる必要はない」


 タイランさんの話によれば、大聖女がオリヴィエ様から姫様に変わった際、上層部もかなり変更されたらしい。


 加えて短期間で聖女の見習いを大量に増やし、今はそのほとんどを放出した。

 暇を出された聖女見習いたちは地元の教会に入ったり、教会生活で得た魔法を利用して仕事を得たり、はたまた普通に暮らしたりと、進む道はバラバラだった。


 王都の教会から出すにしても、各地から集まった彼女達を上手く導くことが出来れば教会はさらなる力を得ることができた。


 だが姫やその取り巻きにその力はなかったようだ。


 長年、教会が悪として掲げていた魔王は討伐されず、噂になっていた勇者との結婚も白紙と続いたのもある。加えて王都の教会に力が集まりすぎないよう、何者かが意図的にかき乱しているらしい。


 だから教会は今、なんとしても勇者のご機嫌をとっておきたいのだと。


「あいつらはそのためなら平気でばあさんやダイリを犠牲にする」


 タイランさんは小さく震えている。彼はオリヴィエ様を愛している。大事な家族が身勝手な理由で処分されるなんて許せる訳がない。


 それに私だって、こんな話受け入れる事は出来ない。身勝手な理由で利用されて捨てられて。


 その上なぜジュードの怒りを向けられなければいけないのか。

 怒りたいのはこっちの方だ。


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