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3.付与魔法は無自覚に?

 ジュードに捨てられたあの日、彼は勇者に選ばれてから変わってしまったのだと思った。

 私の未来も、彼が勇者に選ばれたことで変わってしまったのだと。


 けれど以前から私の見えなかった部分があって、そこが明るみになっただけだった。

 だが彼の言葉を信じて待ち続けたおかげで私はオリヴィエ様と出会い、今がある。


 心に大きな傷を負い、前世のことも思い出した。

 けれど魔王城での日々が、悪いことばかりではなかったと思わせてくれる。


「俺はまたいつ呼び出されるか分からないからとりあえず寝ることにする」

「お疲れ様です。良ければ、回復の付与魔法をかけましょうか?」

「回復の付与魔法といえば、おやつとベストにかけられた魔法のおかげで助かった。あれがなかったら倒れていたと思う。だからその礼と言ってはなんだが、これをもらってくれ。人に贈り物をしたことなんてほとんどないから何がいいのか分からないが、たまたま帰りかけに見かけたから」


 差し出されたのは青いリボンだった。

 シンプルだが、タイランさんが私のことを考えて選んできてくれたという事実が嬉しい。


「ありがとうございます。大切にしますね」

「回復の付与魔法はローブにかけてくれ。このまま寝る。それから……悪いんだが、またおやつを持たせて欲しい」

「はい、用意しておきますね」


 タイランさんのローブに回復付与魔法をかける。

 するとぺこりと小さく頭を下げ、亡霊のような足取りで王の間を後にした。転移魔法を使う魔力すら残っていないようだ。


 魔王様も不安に思ったのか、近くにいる使用人に「部屋まで支えてやれ」と指示を出した。


 そして王座に腰掛けると、大きなため息を吐く。


「あの様子ではタイランの言う通り、ベストにかけられたダイリの魔法がなかったら倒れていたことだろう。実力のある魔法使いをあれほど消耗させるとは、人間も酷いことをするものだ」

「私、ベストに魔法なんてかけていませんよ?」


 タイランさんの言葉でも引っかかったのだが、私は魔法なんてかけていない。

 だが魔王様はこてんと首を傾げ、何を言っているのだとでも言いたげだ。嘘を吐いているようには見えないが、私も嘘は告げていない。


「かなり強力な回復付与魔法をかけておいて、何を言うか。別に悪いことではないのだから嘘を吐かなくても良い」

「嘘ではなく、かけていないんです。確かに魔王城に来てから使える魔法も増えましたが、それでも強力な魔法なんて無理です。タイランさんが自分でかけたことを忘れているんじゃないですか?」

「魔占花の時も思ったが、無自覚か? もしや普段のおやつの付与魔法も?」

「調理器具に使ったことはありますが、おやつ自体にかけたことはありません。もしかして魔王様には、おやつにも付与魔法がかけてあるように見えているんですか?」


 あり得ない。そう思いながらも疑問を投げる。


 けれど魔王様はごくごく真面目な表情で、大きく頷いた。


「ベストほど強いものではないが、先ほどのおやつにもかかっていたぞ? だからタイランは立ち上がって歩けるほどに回復したのだ」

「それはただ、空腹が満たされたからじゃ……」

「訳ありだろうとは思っていたが、まさかここまでとは……。そうか、オリヴィエはこれを知っていて、我の魔力を隠れ蓑に使ったのだな。そんなことを考え付くのは、大陸中を探してもオリヴィエくらいなものだ。これは謝罪のアップルパイを要求せねばならんな。だがしかしそうなると妨害魔法をかけたのも……」


 今の会話で何か気づいたらしい。ブツブツと呟き始めた。


 それにしてもまさか無自覚に力を使っていただなんて……。

 ベストだけではなく、おやつにも付与していたとなれば日常的に魔法を使用していたということになる。だが言われても全く思い当たる節がない。


 魔王様に尋ねようにも、しばらく思考モードから戻ってくる様子はない。とはいえ、害はないらしいので少しくらい先送りにしても問題はない。


 付与魔法より、いつ呼び出されるか分からないタイランさんに渡すおやつ作りが先である。


 キッチンへ向かい、数種類のおやつ作りに取り掛かる。

 一応ストックのおやつもあるが、それだけでは寂しい。とはいえ、食べやすさも重要だ。クッキーは数種類。


 中でもタイランさんの好きなジャムクッキーは、りんごとアプリコットと桃のジャムを使って作ることにした。それらを瓶に詰めて、保存魔法をかける。


 他にもマドレーヌや甘芋の蒸しパン、マカロンも袋に詰めていく。


 さすがに牛乳ゼリーを持っていくのは難しいので、こちらは起きた時に食べられるようにしておこう。


 冷蔵庫に入れてから、多めに作ったおやつを王の間に運ぶ。

 ドーナッツを我慢していた魔王様にあげようと思ったのだ。作っておいたりんご飴も持ってきた。


「魔王様?」


 だが王座に魔王様の姿はなかった。

 通信機で連絡を取ろうと試みたが、反応がない。何か急ぎの用事でも出来たのか。先ほど、何かを考え込んでいた様子だった。


 帰ってきたら食べるだろう。


『おやつがあるので、後で連絡をください』


 椅子の上にそう記したメモを残す。メモを見たら連絡をくれるはずだ。おやつはキッチンに置いておくことにした。


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