第98話 クラン『気まぐれ』の別れ方
「リョウヤちん遅いねー」
「あの二人のことだから昔話でもしてるんでしょ。『躍進』を立ち上げた二人だしね」
クワトロでの新たな拠点、人数は増やさないと決めたこともあり8人のクランハウスで、リョウヤと彼を迎えに出たハートの帰りを待っている。
さすがに時間的にも心理的にも案内をしてもらうような余裕はなく、噴水に立ち寄っただけで、ほとんど真っ直ぐにここへやってきた。
「そうなの!?」
ティエラの『躍進』創設話が初耳だったマホがガタッと立ち上がる。
「そーいえばその話はしたことなかったっけ。でもそんなに驚くとこだった?」
「そりゃ驚くよぉ。だってそんな人がそのクランを抜けて私と一緒にやってたなんて……武蔵さんに申し訳ないというか……」
そんな人物相手に先程はまともに挨拶もできなかった。
まぁ、それは武蔵の方があえて挑発的な態度をとっていたからではあるのだが。
「ふふ、武蔵も気にしていないわ。元々『躍進』は抜けたいと言えば抜けられるクランなのよ」
気にするなと言っても気にしてしまうのは仕方ないとはいえ、伝えられることは伝えておこうとティエラはマホを諭す。
一応の納得はしてマホも座り直した。
「ちなみにそんことがのーてもマホっちはリョウヤが抜けるんはええんやろ?」
「うん。それはもちろん」
この辺りは以前の『躍進』と似ている。
スマイルの問いに本人の意思優先だとマホも断言する。
そもそもメンバーの決断にマホから意見を言ったり、ましてやそれを通そうという気持ちは全くない。
「でもどーするんだろーね? 『躍進』に戻るのかなー?」
「さっきまでのリョウヤはそこまで考えてなかったと思うわよ。ただ、今頃武蔵に口説かれているのかもね」
「マホっち時間は大丈夫なんか? また今度でもええんやで?」
ティエラがまだ二人が話しているような予想を言うので、スマイルはマホの時間を確かめる。
時計は21時になろうとしていて、いつもならもうログアウトしているか、その日の締めに入っている時間だ。
「ううん、今日がいい。みんな揃うのまた来週になっちゃうし」
マホとしても別れるならクランの全員がいるときに、とそう口にした時、ハートがハウスに入ってきた。
「ただいま戻りました。リョウヤさんを連れてきましたよ」
そして、その言葉に続くようにリョウヤが姿を見せると、マホの心臓がドキンと跳ねる。
「──っ、待たせてすまない」
マホだけでなく、クランハウス内に緊張が走ったのを感じ、リョウヤも一瞬言葉に詰まる。
「遅いよーリョウヤちん」
若干ぎこちなかったが、ヘヴンリーが無理矢理その空気を変えた。
「そうよ、マホだってもうおねむなんだから」
ティエラもその流れに乗る。少しでも話しやすい雰囲気を、という気遣いがリョウヤにも伝わる。
「だ、大丈夫だよ。それよりリョウヤさん、お話はもうよかったんですか?」
マホの方もやや硬くなってしまったが、それでもリョウヤに話を振ることができた。
「十分話せたよ。決断はしてたんだけどな、武蔵と話して今後のことも決めてきた」
「それじゃあ……」
“何を“決めてきたのか、言われずとも悟る。
「ああ。俺をこのクランから抜けさせてくれ。そして今後は『躍進』でマホちゃんと……いや、ここのみんなと競う位置に立ちたいと思う」
リョウヤは頭を下げて、これからのことも告げた。
武蔵はマホ一人を意識した物言いだったが、リョウヤとしてはこのクランの全員が仲間だったこれまでは頼もしく、これからの自分には手強いライバルだと認識していた。
「わかりました。こういう時こそ「ありがとう」ですよね。リョウヤさん、これまでお世話になりました!」
マホも頭を下げ感謝を言葉にする。
マホがリョウヤが抜けるのだと気付いた時から頭の中にあったのはそのことだけだった。
そして今がそれを伝える時だと子供ながらに理解していた。
「それは俺の方もだ。俺と一緒にプレイしてくれてありがとう。このクランに入って本当によかったと思っている」
リョウヤもハートに言われたように、しっかりとマホに感謝の思いを伝えるのだった。
「ぷっ、リョウヤには似合わんわー」
また硬くなった空気を切り裂いたのはスマイルだ。
「お前な……」
「ウチらはそんな堅っ苦しいクランやったか?」
照れもあって反論しようとするリョウヤに、スマイルはそう言ってニヤリと笑う。
これもスマイルなりの『気まぐれ』流だ。
「ははっ、スマぷーの言うとーり! 楽しくやんのがあーしらっしょ」
「せやで。ホレ、リョウヤからなんか餞別になんかないんか?」
「ふふふ……あははは」
去るリョウヤに対して別れを惜しむどころかねだり出すスマイルを見て、マホも我慢できずに笑い出す。
「ふっ、これだよな。ここの良いところは。楽しかったよ」
「はいっ!」
相変わらずの『気まぐれ』らしさにリョウヤも硬さが取れ、口元も緩む。
「楽しかった」。それがマホには何より嬉しい言葉だった。
別れの場面というのに最高の笑顔が溢れると、釣られてリョウヤも「ふっ」と微笑んだ。
「餞別か、そうだ。マホちゃん、前に約束したのを覚えてるか?」
「約束? 何かしましたっけ?」
突然そう言われて思い返すが、マホには思い当たることは出てこなかった。
お読みいただきありがとうございます。
この先を書くと長くなりそうなので、短いですがここまでに。
ブックマーク300件ありがとうございます!
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幕張の方に大事な用がありまして。




