第97話 男同士の時間
マホ達が街の中へ入っていくのを見送ったリョウヤと武蔵の二人。
「さて、どこかに場所を移すか?」
「いや、最近はほとんどここには人は来ねえ。聞かれちゃマズイ話をするわけでもなし、ここでいい」
クワトロに進出する、というのは簡単ではない。
マホ達『気まぐれ』は8人でフルメンバー、それもカエルやトカゲを倒し突破できるだけの戦力を持っていたからこそ土日の僅かな期間で辿り着くことができた。
他のプレイヤーはまずメンバー集めに始まり、クランならば全員が来れるように調整しなくてはならない。
だから今ここで話していて新規にプレイヤーが現れるということもほぼないし、既にいるプレイヤーの大半が地下通路ダンジョンでのやることは終えているので街からこちら側に出てくるということもない。
「そうか。まさかわざわざお前が出迎えてくれるとは思っていなかった」
「そりゃあ一位を分け合ったクランだしな。この目で見ておきたかった。あのイベントの直前に入ったわりにはアークのやつも馴染んでいるみたいだな」
アークの発言はほとんどなかったが、すっかり溶け込んだ雰囲気は見てわかったらしい。
「お前を見た時、てっきりマホちゃんを勧誘しに来たのかと思ったんだがな」
「ふっ、確かにお前を抑えてMVPを獲ったのはすげぇが、まだ初心者なんだろ? きっと攻略組の俺達には合わないさ」
「なんだ、スカウトする相手はちゃんと考えているんだな」
先程のやり取りでリョウヤはてっきり武蔵が手当たり次第に有力なプレイヤーを集めようとしているのかと思っていた。
「当たり前だ。それに俺が用があったのは最初からリョウヤ、お前だよ」
「俺? 『躍進』を抜けた俺に何の用だ?」
「ふ、そうきたか。まぁいい。お前達の『気まぐれ』、見事だよな。設立から最初のイベントでもうトップを獲った。メンバーもその前のMVPが揃ってるときたもんだ。そっちは今知ったから驚いたぜ」
「何が言いたい?」
なかなか本題に入らない武蔵にリョウヤも痺れを切らす。
「リョウヤ、お前はあのマホって子を見たいと『躍進』を抜けていったよな」
「ああ」
「見てるだけで満足か?」
「っ!」
「同じクランで争うこともなく、MVPを奪われても見てるのが楽しいなんて言えるタマか?」
「……お見通しか。ああそうだ。俺はこの『気まぐれ』のクワトロ到着を機にクランを抜けるつもりだ。一人のプレイヤーとしてあいつらのライバルになりたいと思ったからな」
リョウヤはここで初めて心の内に秘めていた想いを吐露する。
「だろうな。お前はそういうヤツだった。常に最新を追い、トップであり続ける。そういう所に共感し、『躍進』を作ったからな」
「そうだったな。俺とお前の二人から始めたんだよな」
「ああ。まだノーマルワードも揃っていないというのに見栄張ってツイン最大クランハウスを買ってな」
「今思えばなかなかの無茶だったよな」
二人は結成当時を思い返し、その時の気持ちも思い出していく。
「そこに紅蓮が加わり、また一人と増えて今ではこのクワトロで最大クランハウスを買うまでに至った」
「前回のイベントでもちゃんと40人揃えたんだろ? そういう所はさすがだと思う」
いくら『躍進』といえどもクワトロで新規のメンバーを募ったとしてもリョウヤ達の穴埋めは容易ではない。
それでもしっかりとフルメンバーを揃えてイベントに挑んだ。
「だが、今回の方針転換でまたメンバーが減った。どうだ? リョウヤ、お前の席も空いたぞ?」
「何?」
「──と、そんなことを言うつもりは毛頭ない」
「……驚かすなよ」
リョウヤも『気まぐれ』を抜けるつもりとはいえ、『躍進』に戻るという考えは全く持っていなかった。
武蔵同様厳選したスカウトを行い新たなクランを設立するか、もしくはソロでプレイしていくかと、まだその予定すら決めていない。
「だからこう言わせてもらう。リョウヤ、生まれ変わる『躍進』に入ってくれ!」
そう言って頭を下げる武蔵。
「なっ! どういうつもりだ?」
思ってもみない態度、初めて見る誰かに頭を下げる武蔵に取り乱す。
「どうもこうもない。お前は『躍進』に必要な戦力だ。頼む! 『気まぐれ』に勝つ為に力を貸してくれ!」
「ちょっと待て。このままじゃ『躍進』は『気まぐれ』に勝てないと思っているのか?」
「……汽車トマスの動画を見た。それからハートってやつの動画もな」
その動画はリョウヤ達が攻略を再開した昼頃に投稿されていた。
武蔵はそれに加えて紹介されていたハートの動画も一部見てきたらしい。
「そういえば今日だったな」
「センブレの動画ということは告知されていたからな。俺もメンバーから聞いたクチだが……それは置いておこう。アレを見て俺は直接対決では絶対に勝てないと思わされた」
「以前の『躍進』なら、だろ?」
「ああ。そしてこれからの『躍進』が『気まぐれ』を倒すにはお前の存在が不可欠だ」
「確かに俺はマホちゃんにも負けない火力を持っている自信はある。だが、それは他のプレイヤーでも補えることだろ?」
マホは殲滅力では圧倒的だが、単体火力ならリョウヤも負けていない。
だが、それは以前の『躍進』でも補えていたのはイベントで一位を獲れたことが証明している。
「何を言っている。お前の持ち味はその盾と統率力だ。剣なんざおまけだろ? あの魔法を防げるのはお前しかいないと思っている」
「魔法を防ぐ? 直接戦うことはないだろう?」
リョウヤは盾として期待されたことよりもマホの魔法を受けることを想定されていることに驚く。
「まだ噂だがな、こっちでは次のイベントは大規模PvPなんじゃないかと言われているぞ。クワトロを離れて情報収集が疎かになってないか?」
「今日は痛いところばかり突いてくるな。なるほど、大規模PvPか。クラン対抗にするには人数差のハンデが大きすぎると思うが……もしそうなら確かにあの魔法はどんなクランにも脅威だな」
武蔵に言われて、リョウヤの思考は既にマホと相対した自分がどう対応するのかというところに移っている。
「だろう? 対人であんなもんまともに食らったらどうなる?」
「…………」
「だが! そこにお前がいれば話は変わってくる。お前なら耐えられるかもしれねぇし、そもそも食らわねぇようにできると思ってる」
「買い被りすぎ……なんて言えないよな。俺はそういう相手に挑もうとしているんだから」
「これを最後にする。入って……くれねぇか?」
「……わかった。だが、俺はまだ『気まぐれ』のメンバーだ。抜けた後の話もしてくる。それでもし「『躍進』には行くな」と言われるようならそれに従う。それでいいか?」
リョウヤがそう決断すると、武蔵はニッと笑う。
「それで構わない。無茶を言ってる自覚はある。普通なら……俺なら行くなって言うはずだからな」
「去る者は追わず、じゃなかったのか?」
「忘れたか? 「超厳選スカウト」。それだけだ!」
「ははっ。そうか。もし加入したら抜けられないな」
武蔵が改めて方針を口にすると、リョウヤも思わず笑みが溢れる。
「逃さねぇぞ──とまでは言わねぇ。いい返事を期待してる」
「ああ」
お互い拳を突き出し、コツンと当てる。
「じゃあな。返事はいつでもいい。俺のログイン時間は覚えてるよな?」
「さすがにな。そんなに待たせないと思う」
「ああ」
そう言って武蔵はログアウトしていく。
「さて、まずは噴水、だな」
武蔵と別れたリョウヤはホームポイントの変更へ向かい、そこでハートと合流する。
「わざわざ待ってたのか?」
「いえ、ちゃんと引っ越しまで済ませてますよ。ご案内しますので、自分で言ってくださいね」
「どうしてハートにはわかったんだ?」
地下通路から道中後半にはもうハートは気付いてその話題を避けるように動いていた。
「僕も男ですからね。──と言いたいところですが、みなさん気付いていましたよ。最後の方はリョウヤさんの態度も露骨でしたし。あのマホさんが気付くくらいに」
「──! すまない」
リョウヤ自身はその自覚はなかったらしい。
あれだけあからさまにハートが遮っていたのにも気付かない程にリョウヤの思考はどう切り出すかで一杯になっていた。
「大丈夫です。僕らは『気まぐれ』。そうしたいと思ったようにすればいいんです。していいんです。マホさんもそう言っていたでしょう?」
「ハート……このクランに入れて、本当によかったと思う」
「それはマホさんに言ってあげてください。さぁ、行きますよ」
「ああ」
そう言って二人はクワトロにおける『気まぐれ』の新しいクランハウスへと歩き出した。
お読みいただきありがとうございます。
それっぽいことをここで仄めかしたことはありましたが、リョウヤ離脱は一応初期からの決定事項でした。
イベントはまだ噂なので本当にそうなるかはわかりません(と言っておけば変えられる)。




