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第8話 デイリークエストは重要だった

「いらっしゃい。ここは道具屋だよ」


「よく来たな。ここは武器屋だ。武器の強化もやってるぞ」


「いらっしゃいませ。ここは防具屋です。こちらでは防具の強化の他、モンスター素材の買取も行っております」


 翌日のマホは両親と話していた通り、始まりの街の店を回っていた。

 とりあえず買い物はせずに価格の確認をしては次の店へと移る。

 モンスターの素材は納品ならギルド、売却は防具屋で行えるらしい。


「最初の方は納品でいいって言ってたし、売るのは後になってからかな?」


 ギルドで騎士風の男に言われたことを思い出しながら防具屋を後にする。


 そして一番楽しみにしていた店、ワードショップへやってきた。

 店の前には大きな『語』という看板。


 これまで見た店は売ってある物のサンプルが展示してあり、武器屋では実際に手に取ることもできた。

 逆に道具屋では回復薬等が並んではいたが、背景オブジェクトとして配置してあり動かすこともできなかった。

 それが分からず一生懸命引っ張っていたのは秘密だ。


 そしてワードという曖昧なものがどうなっているのかと気分を上げてその扉を開く。


「わっ、こうなってるんだ。本屋さんみたい」


 ここでは壁側の棚にぎっしりと本が詰められて並んでいた。


「ここは……取れるのかな?」


 好奇心が先に働き、その中の一冊に指を掛けた。背表紙には『必殺』と書かれている。


「あ、取れた。読めるのかな」


 本を開くと、固定のページだけ開くようになっていて、背表紙のワードの説明が読めた。


 必殺 ウルトラレア 補正


 どうやら売っているもの以外のワードの説明もあるらしい。


「わー必殺技かぁ。武器を使うならカッコ良さそう」


 すぐにその使い方をイメージしつつ本を閉じる。


「他の本も気になるけどまずは値段を見なきゃ」


 目的を思い出してカウンターに座る老婆風NPCに話しかける。


「いらっしゃい。どんなワードが欲しいんだい?」


「あ、ええと、とりあえず見せてください」


 ここまで全部の店でやってきたやりとりなのだが、見るだけ、というのにはどこか抵抗があるようだ。


 マホがそう答えると目の前にウィンドウが現れて、売られているワードが一覧で表示される。


「『水』に『風』、『雷』、それに『岩』……これがおかーさんが言ってた属性かな? あ、でも防御とか回復みたいなのはなさそう……?」


 そう、このゲームには回復やバフのような効果の魔法が存在しない。

 それが魔法メインのプレイヤーが少ない理由でもある。

 防御は装備とPS(プレイヤースキル)任せ、回復はアイテムと自然回復のみなのだ。

 ただその分ここまで初心者のマホがモンスターの攻撃を悉く躱せている程度に、相手の攻撃性は低めとなっている。当然これから出会うことになるボスモンスターは違うが。


 サラサラっと一通り目を通してから値段を見忘れていたことに気付いて改めて目を向ける。


「うわー、全部10000Gかぁ。デイリークエストをちゃんとやらなきゃだね」


 その重要性を再認識する。


「おばあちゃんありがとう。また来ます!」


「はいよ。ここの本は誰かが持ってるワードだから知りたくなったら読みに来るといいさね」


 この店は誰かが新規ワードを入手すると本が増え、そのワードについて知ることができるシステムでもあった。

 先程マホが見た『必殺』はたまたまそうとしか使いようがないワードだったが、例えば『火』のようないろんな言い回しが可能なワードでは過去に『火』として認識された言葉を見ることができる。


 ちなみに『必殺』の所有者は騎士風のリョウヤで、数少ないウルトラレアの所有者かつ唯一のレジェンドレア所有者でもあった。


「はーい」


 そう言ってマホは店を出てギルドへと向かった。

 今日はクエストを受注してみようと思っていたからだ。


 そしてギルドに入ると、クエストボードの前にリョウヤが立っていた。


「あっ、昨日はありがとうございました。なんとかモンスターも倒せそうです」


「はは、それはよかった。今日はクエストを?」


「はい! 色々とやってみるつもりです」


「じゃあ、受注のやり方を教えてあげようか。まずはボードにタッチしてみて」


「はいっ」


 そういえばここで受注できるとしか説明がなかったなと思い、耳を傾ける。

 このリョウヤの行動ももちろんゲームの説明不足を補おうとマホを待っていたのだが、マホにはまだわからない。

 このゲーム自体が社会人のゲーム経験者をターゲットにしていることからこういった部分が多々あることをリョウヤは理解していて、初プレイのことを思い出しながらフォローを入れていた。


 そして、リョウヤに従ってクエストボードに触れると、クエストウィンドウが表示される。

 グレードごとにタブ分けされているらしく、マホのウィンドウには今のグレードFのクエストの一覧が出ていた。


「クエストは自分のグレード以下のものを受注できるけど……今はFのものだけだね。そして受注は同時に二つまで可能だ」


「なるほど……。この無制限っていうのはなんですか?」


 マホが見ているグレードFのクエストにはどれにも無制限と書かれている。


「それは一日の受注可能回数。グレードFだと全部無制限だけど、グレードが上がると回数制限が設定されてるものが出てくる。回数が少ないものほど報酬が美味しくてオススメだね」


「わかりました!」


「それと、今は関係ないだろうけど、パーティを組んだらリーダーにしか受注はできないからね。その代わり、リーダーが受注したらメンバー全員がそのクエストを受けたことになるから……」


「んと……どうしたんですか?」


 口を止めて周囲を見渡すリョウヤに首を傾げる。


「この続きは受注して外に出てからにしようか」


「じゃあ……このホーンラビット5体討伐とグラスウルフ5体討伐にします」


 それは単純に上から二つ。そして昨日戦ったホーンラビットなら大丈夫という安心感からの選択だった。


「どちらも西の草原だね。なら俺はその奥の森のクエストにしよう」


 リョウヤもクエストを受注すると、二人でギルドを出る。


「それで……さっきは何を……?」


「このゲームのモンスターってさ、各個人、またはパーティごとに出現するんだ。例えばこの後草原に出るけど、君の前にはホーンラビットが出てきたとしても、俺の前にはいない、みたいにね」


「えっ? それって……どういう……?」


 歩きながら先程リョウヤが黙った理由を聞いてみると、マホの想定とは違う答えが返ってきて、またその意味もよく分からず戸惑う。


「そうだなぁ……このままの状態で俺がモンスターと戦っても、君には俺が素振りをしてるように見えるだろうね」


「あっ、なるほど……。でもなんでそんな風になってるんだろう」


 なんとなくイメージはできた。が、その理由まではわからない。


「まぁ、モンスターの取り合い防止だろうね。大抵は野良でも援護できるように見えるものだけど、このゲームはその必要もないくらいだし、援護より横取りの方が多くなっちゃうんだよ。たくさん倒したからって上がるレベルとかはないんだけど」


 この答えからもリョウヤが他にもゲームを経験していることが伺える。

 このシステムは単純にモンスターを倒せないような状態を避ける為のものであったのだが、結局のところここまではそこまで人が飽和するような事態には至っていなかった。


「そんな人いるんですね」


「俺が言いたいのはそこ」


「えっ?」


「パーティごとに出現する、まではいいんだけど、受注したクエストのモンスターのPOP率も上がるんだよ」


「ぽっぷりつ?」


「ああごめん。出現率だね。モンスターが出てくることをPOPって言うんだよ。それでそれを利用して初心者を高難易度クエストに連れて行く悪いやつがいるんだ」


「も、もしかしてあの中にも……」


 マホには見分けがつかなかったが、リョウヤの言動でなんとなく察してしまった。


「残念ながらね。パーティに勧誘してリーダーが高難易度クエストを受注すると、その初心者にはそのクエストのモンスターが出現しやすくなってしまう。当然やられるわけだけど、受注してしまうと翌日5時になるまでリセットされないからログアウトを余儀なくされるんだが……」


「ま、まだ何か……?」


「パーティはログアウトで離脱できてもクエストの受注は取り消されないんだよ。つまり二つ受注されていたらもうその日は受注できない。要は足止めだね」


「で、でも……一日だけですよね?」


「じゃあ、もし君がそんな目に遭ったとして、その翌日に俺みたいに親切にされたらどう思う?」


「あっ……最低……」


 これはマホにもわかった。優しくしておいて付け込んで同じ手口を繰り返す行為。

 さすがのマホも嫌悪の感情を露わにする。


 そもそもこのゲームの本体であるVISの特徴として、感情を読み取るので嘘をつくことができない、というのがMMOでも安全にしていた要因だったのだが、こういった行為は嘘をついていないのと、悪いことだと認識していないと表情にも現れないのが原因でやる者が絶えない。

 当然通報されれば運営が動くのだが、パーティの加入には本人の同意が必要なのでなかなか立証が難しく、根絶には至っていなかった。



「全くもってその通り。このゲームはパーティを組むのが効率がいい。だけどそうなってしまうともう誰も信用できないだろうね。まぁ、ほとんどソロでやってる俺が言うのもなんだけど」


「ふふっ。そうだったんですね」


 マホはてっきり今日は自分がいたから合わせているものだと思っていた。

 だから余計に申し訳なく思っていたのだが、ソロだと聞いて思わず勘違いしていた自分に対して笑みが溢れた。


「まぁソロとは言っても、君にはもう少し先で解放されるクランっていう所謂グループには加入してるからね。うちのは攻略組が多いから初心者の君を推薦はできないけど……」


「あっ、いえ、お構いなく。こうして教えてもらえてるだけで嬉しいです!」


「そう言ってもらえると助かるよ。とにかくソロでも十分プレイできる。君は君で楽しんで!」


「はいっ!」


「それじゃ、俺は森まで行くから……出てこい、ブル!」


 リョウヤがそう言うと、ボフンと煙が上がって猪が現れ、それに跨る。


「わっ、すごーい!」


「ふふ、こういう移動手段も後々手に入るから楽しみにしてて」


 そう言って猪を走らせてあっという間にリョウヤは見えなくなった。



「さて、と。晩ごはんまでにどれくらい倒せるかな……。今日はデイリークエストが終わるかやってみよっと」


 そして、その日は僅かに討伐数が届かなかったが、翌日は最初からデイリークエストを目標にすることでなんとかクリアすることができた。

お読みいただきありがとうございます。


長さが安定してなくてすみません。

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