第7話 オリジナルの詠唱を使ってみよう
マホはギルドを出た後、夕食を挟んでまたログインして噴水前に戻ってきた。
今度は指示男の定位置の目の前だ。どうやらログイン時は噴水周辺にランダムで出てくるらしい。
「お、無事登録できたようだな」
マホは食事中両親に聞いた「初めてのモンスターとの戦闘なら街の外に出てすぐの場所」という言葉に従って、外に出てみようと思っていたところだったが、指示男が声を掛けてくる。
「あ、はい」
律儀に足を止めて返事をするマホ。
「もうクエストは受けたか? グレードFなら西の草原が丁度いい。だが、その先の森には近付くな。あそこに行くにはまだ早い。装備が揃ってきたならその前に北にあるダンジョンに行くのもいいだろう」
これは西の森攻略に必要なものがダンジョンにあるという、これまたゲームに慣れた者ならわかりやすいヒントで、要は順にこなしていけという誘導だった。
ただマホがこの言葉の意味に気付くのはもう少し後の話。
「えっと……クエストはまだだけど……じゃあ、西に行ってみます」
マホがそう返すが、指示男のセリフはそれだけだったのだろう。何の反応も返さなかった。
マホとしては説明がなかった東と南のことも聞きたかったのだが。
「やっぱり不思議な人だなぁ。行こっと」
目も合わせてくれなくなった指示男にペコリと頭を下げてマホは街の西にある門へと向かった。
門は解放されていてそのまま通り抜けることができ、初めて──厳密にはチュートリアルで似たような場所にいたが、街の外の草原へ足を踏み出した。
奥の森まで続く道を少し歩くと、草むらの方で動くものが見えてそちらへ向かう。
「あっ、うさぎさん! ホーンラビット?」
そこにいたのはツノの生えたウサギのモンスター。
チュートリアルの時とは違い、HPバーの上に名前も表示されている。
「えぇー、こんな可愛いコ倒すのー?」
戸惑うマホとは反対にホーンラビットはマホの声に反応して頭上に「!」マークを出したかと思うと、ぴょんぴょんと跳ねながら向かってくる。
可愛らしい姿とは裏腹に頭のツノを向けて完全に攻撃体勢だ。
「うわっとと……ホントにモンスターなんだ……残念」
それを躱すとマホも戦う覚悟を決め、杖を構える。
「よぅし……アレ試してみようっと」
そう言って左手に持った杖を翳す。
「闇の炎に焼かれてその身を焦がせ!」
これは母親が言った複数の起動ワードを重ねる詠唱と、詠唱の中に起動ワードがあれば最後の魔法名の部分は省けるんじゃないかという予想の実験だったのだが……。
結果は不発。
そしてマホは──。
「は、恥ずかしいぃぃー!」
その詠唱句と不発だったダブルの羞恥に悶えていた。
しかしモンスターはそんなことはお構いなしに襲ってくる。
「ひゃっ」
むしろそのことがマホを元の状態に戻してくれる。
ツノを向けた突進を杖で受け止めると、そのまま次の詠唱に入る。
「今度こそ……。闇の炎に焼かれてその身を焦がせ! ダークフレア!」
マホの詠唱とは異なり、ホーンラビットを包むような黒い爆発が起こり、150のダメージが表示されホーンラビットは倒れた。
「あれ? 思ってたのと違う……けど、倒せた!」
ドロップ品のホーンラビットの角を回収し、次へ向かう。
「爆発した……じゃあダークフレアはそういう魔法になるっていうことなんだ……。詠唱考え直さなきゃ」
攻撃に関してはゲーム機本体のVISがプレイヤーのイメージを読み取り、それをゲームのAIが判定することによって発動する魔法やエフェクトが決まる。
なので同じ詠唱をしても同じ魔法が発動するとは限らないし、武器攻撃でも同じエフェクトが出るわけではない。
それがこのゲームの面白いところであり、難しいところでもある。
ちなみに今回マホのイメージと違う魔法が出たのは、マホが学校の休み時間にずっと『闇』や『火』に関連する単語を調べていた結果である。
マホは炎のつもりで詠唱したが、フレアという単語にその時に見た爆発というイメージが残っていた為だ。
また、『火』は補正ワードではない為、起動ワードとして使用した『フレア』に引っ張られる格好となった。
「爆発……爆発かぁ……」
その言葉を意識した詠唱を考えながら歩いていると、再びホーンラビットを見つけた。
「次はもっとダメージ出したいな」
この思考はこのゲームの本質を捉えていた。
大半の物理メインのプレイヤーも基本的にはこれと同じことを考えている。
物理攻撃は大きな声を出しやすく、声量補正だけでもそれなりのダメージが出るので、ワードの組み合わせまで考えるのは一部のトッププレイヤーくらいだが。
それに物理攻撃は倒しきれずとも魔法のように硬直がなく、すぐに次の攻撃に移れるので手持ちのレアリティの高いワードを使った短い単語で手数を重視する者が多い。
それに対して魔法メインのプレイヤーはその硬直時間とのバランスから、長く詠唱しダメージを出そうとする者は少ない。今はパーティを組むのが基本となりつつあり、長々と詠唱していると物理組とタイミングが合わないということもあるからだ。
なのでマホは現時点で既に、ただでさえ少ない魔法メインで更に数少ないダメージを追い求める魔法メインプレイヤーとなっていたのだった。
「闇の力により爆ぜよ! ダークフレア!」
マホが詠唱で男性口調になるのはアニメのクロマの影響だ。
両親から聞いた詠唱句を使っていたのが男性だったのも少なからず影響しているのだろう。
ともあれ、詠唱句と一致したマホのダークフレアは激しい爆発の演出と300ものダメージを叩き出した。
ホーンラビットのHPは最初のモンスターということもあり30しかなく、完全にオーバーキルだったのだが。
その後マホは10体のホーンラビットを倒し、ギルドでデイリークエストの報酬を受け取ってログアウトした。
「なるほどねー。なかなか面白そうなゲームじゃない」
寝る前にちゃんとゲームをやめた報告を両親にすると、興味深そうに頷く母親。
「そういやノーマルのワードは店売りしてるんだろ? いくらぐらいなのか見ておくとこれからの金策の方針が決めやすいぞ」
「金策? お金集めってこと?」
「そうよ。大体どのゲームでもお金は必要になるから、どうやって集めるのかっていうのは重要になってくるわ」
「デイリークエストで10000だったろ? ストレス解消ゲームっていうくらいだからそれだけでも楽になるはずだ」
必須アイテムが買えなければ詰むようなゲームではなさそうだと父親は気付きつつある。
実際その通りで、北のダンジョンから西の森までは火や斬撃が弱点のモンスターが多く、チュートリアルで手に入れた武器やワードだけで攻略ができるようになっていた。
「わかった。じゃあ、明日はお店も見て回ろっと」
「はは、明日も、か。随分とハマったな」
父親も自分と同じ趣味に夢中になるマホが嬉しいようだ。
「ふふ。今日みたいにちゃんと宿題を済ませてからやる分には何も言わないわ」
「ああ。夕飯にも戻ってきたしな」
「うん。だってこっちが一番大事だもん!」
そう言い切ったマホの頭をわしわしと撫でる父親だった。
お読みいただきありがとうございます。
詠唱は難しいですね……。
マホと一緒に考えていこうと思います。




