第68話 イベント作戦会議
イベントが告知された翌日の噴水前は異様な光景だった。
日曜日ということで人が多いのもあるが、イベントがクラン対抗とあって、クランに勧誘する者される者、逆に加入を直接交渉する者される者、何も知らずにやってきて近くの者に聞いている者。とにかくプレイヤーが誰かしらと会話している。
ただし、12時前からログインしてマホを待つリョウヤ達のほとんどは名が売れているので、そちらに声を掛けてくる者は少ない。
寄ってきたプレイヤーには有望な者は特にいなかったようで、マホがやってきた時には『気まぐれ』の周囲には他プレイヤーはいなかった。
こうして5人にマホが守られる形で『気まぐれ』はクランハウスに移動した。
「よーし、今度こそ作戦会議だー!」
ヘヴンリーがまず第一声を上げる。
「うん! でも昨日見たのだけじゃ私にはわかんなかったから……リョウヤさんとティエりんで進行お願いします」
マホは昨日の時点で内容を把握していた二人に依頼する。
「わかった。ならまずはしっかり把握するところからだな」
「そうだね。マホに判断してもらうこともあるからよく聞いててね」
二人もそれを了承し、多目的ウィンドウの前に立って「公式の言葉」を表示させる。
「うん」
「ウチもよーわからんとこあったからよろしくな」
「よろしくお願いしまーす」
「ふふ、よろしくお願いします」
スマイルが二人に期待の目を向けると、ヘヴンリーもそれに倣い、ハートも続く。
「まぁいいか。概要はいいな? 俺達にはあまり影響はないかもしれんが、今回のキモは「指揮権システム」だ」
リョウヤがウィンドウの該当部分を指差しながら話し始める。
「指揮権?」
「今回のダンジョンへはクランならここ、クランハウスから入ることになるんだけど、誰でも好きな階層に飛べるわけじゃないの」
その言葉は知っていても、このゲームでどのような意味を持つのか思い至らなかったマホが首を傾げると、ティエラはすぐには答えずイベントの内容から順を追って説明を始めた。
「クランリーダーもしくはパーティリーダーともう一人、「指揮権」を持ったプレイヤーを「指揮官」に設定するの。そしてその指揮官だけが行き先を選ぶ権利を持っていて、他の人はその二人のどちらかの近くにしか行けないようになってるわ」
「もちろんその二人がいない日やタイミングもあるだろう。そこでこのシステムだ」
リョウヤがまたウィンドウを指す。
「指揮官はそれぞれ自分の下に三人ずつ1から3までナンバーを振ることができ、指揮官不在の場合はそのナンバー順に指揮権が移る」
「あー、なるほど。確かにあーし達にはあんまり関係ないシステムだねー」
その説明を聞いてヘヴンリーもそのシステム自体は把握する。
「なんで指揮官が二人もいるん?」
スマイルは手を挙げて質問する。
「まず、いきなりボス部屋への転移が不可とある。まぁこれは倒しそうだからと呼んでカケラだけを入手するのを防ぐためだろうな。そしてパーティを分割しておけば片方がボスと戦っていても後発プレイヤーが入れないということを防ぐことができる」
それをリョウヤが予想も込みで説明していく。
「でも、ボスと戦う人とそうじゃない人で差が出ちゃうんじゃ……」
「ここは少ないからみんなでボスに挑むだろうけど、人数が多いクランとかなら例えば攻略する人と周回する人で分かれたりできるでしょ?」
マホの心配をティエラがフォローする。
「それに何よりダンジョンなんだ。仕掛けやお宝もあるかもしれないからな。ボス直行組と探索組で分かれたりもするだろう。というか『躍進』はまずそうするだろうな」
「ムサしゃんなら間違いないねー。んで、それを交代でやれば不公平にもならないっしょ?」
リョウヤとヘヴンリーも元いたクランを引き合いにして付け加えた。
「なるほどー」
「それと、挑戦中に「指揮官」が乙った場合も一時的に指揮権が移るよ。その時……というか指揮官とその人からナンバーを振られた人はお互いの場所にしか飛べないから注意だね。ボスにやられるともうその戦闘には戻れないから」
「ただ、全滅してもボスの残りHPは据え置きだ。その場合は途中から再挑戦できる。ゾンビアタックで無理矢理攻略することも可能ってことだな」
「あー、それはあんまりやりたくないかなー」
「ですね。動画的にも面白くありませんし」
リョウヤが補足したゾンビアタックに拒否反応を示すヘヴンリーと、明らかに違う理由で反応したハート。
「せやったら、「もう無理!」ってなったら方針転換したらええんちゃう? そこまでやったんならそれこそ周回してもええと思うで」
「うん。そうなった時はまたみんなで話し合おうよ」
スマイルの意見にマホも同意する。
「あたしもそれでいいと思う。なによりリーダーの判断だしね」
ティエラもそう言いつつマホに向けてニコリと微笑む。
「なんたってあーし達は『気まぐれ』だしねー」
ヘヴンリーも途中での方針転換に異論はないようだ。
「それで指揮権だが、誰が持つ? ランキングを狙うならマホちゃんがいない時間も攻略を進めるべきだと思うが……」
ここでリョウヤがそのマホ以外の指揮官について意見を求める。
「ん? リョウヤちんでいいんじゃないの?」
ヘヴンリーは最初からリョウヤが持つものだと思っていたらしい。
「いや、俺はほとんどマホちゃんと時間が被る。平日の深夜帯はなかなかプレイできないしな」
「あれ? そういえば夜プレイできるのって誰かいる?」
リョウヤの言葉に普段の夜遅くはプレイしないマホが反応する。
「ウチはたまに平日休みあるからやるけど……深夜までやるんはむしろ土日どっちかやし、どっちも12時までやしなー」
「なら僕が持ちましょうか。割と深夜帯は自由がききますし、プレイする人がいれば合わせますよ」
スマイルが難色を示すと、ハートが手を挙げる。
「じゃあ、ハーちゃんお願いね。ハーちゃんの下にスマぷーがナンバー? を持ってたらいいのかな?」
それを受けてマホはハートに指揮官を任せる。
慣れない言葉にはやや戸惑いが見られるが、内容は理解しているようだ。
「せやな。ハーちゃんがウチの上官ってことやな!」
「ふふ、では良い画をお願いしますね」
どうあってもハートはブレないらしい。
「ならあーし達はマホっちの部下だねー」
「ふふ、そうね。可愛い上司の為にしっかり働かなきゃ」
ヘヴンリーとティエラは楽しそうにそう話す。
特にティエラは「上司」というあたりにリアルの上司への当て付けのようなものがあった。
「えへへ。よろしくっ」
持ち上げられたマホもあまり経験のないその扱いに照れながらも嬉しさが隠しきれない。
その姿がヘヴンリー達女性陣には特に微笑ましく映る。
「ところでマホちゃん」
「はい?」
話が途切れたところでリョウヤがマホに話を振る。
「指揮官やナンバーの設定はイベントが始まってからになるが……イベント開始日が第二土曜日だけど、大丈夫?」
「あっ!」
第二土曜はマホの両親の「デートの日」。そしてその翌日は「家族の日」だ。
マホとしてはプレイ時間の取りにくい週だった。
そのことは以前に話したことがある。知らないのは後から加入したスマイルだけだ。
「何かあるん?」
「マホっちの家の事情でね。その土日は……。あ、でもあーしは月曜開始でも全然いーからね」
「もちろんあたしも」
「俺もだ。リアルは最優先するのがマナーだからな」
「僕もです。イベントは長いですし、二日くらいどうってことないでしょう。あの『躍進』でもどこかで躓くでしょうし」
「そういうことならしゃーない。ウチも月曜からのつもりでおるわ」
メンバーの温かい言葉にマホは泣きそうになる。
「みんな……ありがとう。ごめんね」
だからこそ余計に申し訳なくなってしまう。
「ちょっ、いーって! マホっちが気にすることじゃないかんね?」
慌ててヘヴンリーもフォローを入れた。
「先月も少しできたし……相談してみるね!」
先月は母親がそのことを忘れて食材を買っていたからマホも買い物に出ずに済み、プレイする時間を得ていた。
それと同じようにできないか母親に話してみようと決めるマホ。
「無理はしなくていいからね?」
「せやせや。リアルの……家族のことが一番やで?」
「うん……わかった」
中学生であるマホなら仕方のないことではあるが、全く「わかって」いない。
そしてそれくらいのワガママは笑って許してくれるのがマホの両親だった。
ピロン♪
そんなシリアスな空気を全く読まない音と共に、一件のクラン加入申請がマホの元に届いた。
お読みいただきありがとうございます。
新メンバーの足音が。
イベントの内容はこれで全部ではないですが、残りは実際に攻略しながら出して行こうと思います。
ただイベントですのでこれまでマホがやらかしたような隠し要素はありません。




