第52話 マホへの期待と今後の方針
「そうですよ! そんな動画映えするイベントを……だから言ったのに……! ヘヴンリーさんがいながら……!」
土曜日のクランハウスにハートの珍しい叫び声が響く。
動画を撮れなかったことが本気で悔しかったらしく、物静かないつもの雰囲気がどこにもない。
嫉妬の的になっているのは当然ヘヴンリー。
「ごめんって、ハーちゃん。あーしもあんなことになるなんて思ってなかったんだってばー」
ヘヴンリーの方も必死で弁明する。
始まってしまったイベントに関してはヘヴンリーもどうしようもなかったのだ。
「しかし、まさか紋章にまだ使い途があったなんてな。残してるプレイヤーも少ないんじゃないか?」
「せやな、ウチももう換えてもーた。みんなもあのカギに換えたんやない?」
リョウヤもマホが起こしたイベントに感心する。
そしてそのリョウヤの問いにスマイルも同意するが、うっかり紋章の交換先に触れてしまう。
「カギ?」
当然それを知らないマホは反応する。
「あースマぷーにはまだマホっちに教えてないって言ってなかったねー」
「──あっ。そうなんか、いらんことゆーてもーたな」
そこでスマイルも自分の失言に気付いた。
「まぁ、今のは仕方ないよ。あのね、紋章は何と交換するか選べるんだけどその中にある場所のカギがあるの」
ティエラはスマイルをフォローしながら詳細をぼかしつつ説明する。
「そこに宝箱があるんだが、一応どの選択肢を選んでも手に入るのは他の手段でも入手可能なものだ。だから大抵はワードの宝箱の方を選ぶってわけだな」
「なるほどー」
「あー、これはマホっちが別の未発見の交換先を見つけるフラグやな。そんときは最低でもハーちゃんに撮ってもらうんやで?」
リョウヤの説明に納得するマホだが、今回のことでスマイルは色々と察してしまったらしい。
「う、うん。でも自分で撮るよ?」
録画機能は別にハートだけの特権ではない。
マホだって録画してみんなに見せることはできる。
「「ダメ!」」
しかしティエラとヘヴンリーの声が揃ってクランハウスに響く。
「え?」
反対されるとは思っていなかったマホは目を丸くする。
「せやで。同じ録画やったらウチもハーちゃんのあの編集付きで見たいんや」
スマイルはクランに加入して知ったハートの動画を見て相当に気に入っていた。
「そこまで言ってもらえると嬉しいですね」
ハートは再生数もそう多くない動画だというのにここでは3人が揃って誉めてくれることに少しだけ表情が緩む。
「わかった。みんないない時はどうしようもないけど、誰かいたら相談するね。どれがそうなのかわかんないから」
「まぁ、その判断は難しいよねー。って言っても、なんでもかんでも相談じゃ楽しくないだろうし、マホっちの「なんとなく」で気になった時だけでいーよー」
マホが何かをやらかすのを見逃したくないのは確かなのだが、それをいちいち報告する義務感でマホの楽しみを奪ってしまうようでは本末転倒だ。
そこでヘヴンリーはその基準は曖昧なままマホの直感に任せることを提案する。
「そうだね。さっきはああ言ったけど、マホが録画しておくっていうのはアリだと思うよ。少なくともそれで見逃す心配はなくなるしね」
ティエラもそれに気付いて前言を撤回し、同調した。
「とはいえ僕は平日は来れても深夜帯ですし、皆さんにお任せしますよ。データの移動ができればいいんですけどねぇ」
「はは、そんなことしたら回線がとんでもないことになる。リアルの連絡先はさすがに言えないだろ?」
ゲーム内では動画を見せることはできるが、そのデータの受け渡しは不可能だ。
やるならリアルで、となるがそれをやる信頼関係となるとゲーム内での仲の良さとは話は別だ。
「僕は教えてもいいかもと思い始めていますが、そうですね。それはまだ先にしましょう」
「それがええよ。今は新入りのウチもおるしな」
スマイルがおちゃらけてそう締めると、ハハハと全員から笑いが溢れる。
「それはそーとこのゲームってけっこー取り返しつかないイベントあるねー」
マホとのイベントを経てヘヴンリーはそのことに気付いた。
それと同時にそんなイベントを引けるのはマホだということも。
「確かにな。俺の騎士シリーズや忍者シリーズは繰り返し挑戦可能だが、マホちゃんの魔導師シリーズは初見限定だ。ツインのダンジョンのシリーズ装備もそうじゃないかと言われている」
リョウヤは自身がシリーズ装備を持っていることでその希少さもマホの魔導師シリーズの入手難度も理解している。
「まぁ、ヘヴンリーが今回手に入れたワードは一応宝箱からも入手可能とはいえウルトラレアだしね。ウルトラレアの固定入手なんて今まで誰も見つけられなかった」
「そんでほとんどのプレイヤーがもう起こせんっちゅーことやしな。ウチも長いことこの街におるけど、手に入ったウルトラレアなんて一つだけやもん」
ティエラもまだ『審判』のことは知らず、今回の『雨』の入手には驚いていた。
その意見にスマイルが自身の知識を付け加える。
「あれ? スマぷー、こないだのイベントの金箱は?」
一つだけ、というとイベントで使ったという『深』だろうと予想できたマホは街の順位でトップだったスマイルが手に入れたはずの報酬について尋ねる。
「アレは開けんことにした。次のイベントでも来て自分で納得できたら開けるわ」
スマイルはイベントの結果は受け入れたが、内容についてはまだどこか引け目を感じる部分が残っているらしい。
「そっかー……」
「ま、それはウチの気持ちの問題や。マホっちは気にせんでええで。それよりもウチはマホっちに期待しとる」
「え?」
「そーそー。あーしも!」
「ええっ?」
「みんなマホが次は何をしでかすか楽しみにしてるんだよ」
「そうだ。このゲームにただのストレス解消以外の楽しみができた」
「僕はいろんなプレイヤーを見るのが楽しかったんですが、一人でこんなにワクワクさせてくれる人はマホさんが初めてですよ」
それぞれが口々にマホへの期待を語る。
「私……そんなに面白いことしてる?」
「ふふ、その自覚のないとこがええんや。せやからマホっち自身は何も気にせずプレイしたらええ」
「うんうん。マホっちが思ったとーりにやればいいんだよー」
これまで何度もそう言われてきたが、それでもマホは面白いことをしようとしてきたわけではない。
そしてそのマホのプレイを肯定するスマイルとヘヴンリー。
「と、ゆーわけで」
「明日はあのでっかいピラミッド行くやろ?」
「ハーちゃんはカメラマンできそう?」
「え? あ、うん。みんながいいなら……」
「僕は大丈夫ですよ」
せっかく全員が集まれる日曜日だ。ダンジョンにも行きたいがみんなでやれることがあるならそれを、と考えていたマホだったが、メンバーの思いは一つだった。
「全員で大掛かりなことをやるのはマホちゃんがこの街を一通り楽しんでからだな」
「わかった! ありがとうみんな。じゃあせめて今日はみんなであの迷路のピラミッドに行こうよ」
今週いくつかピラミッドを回ったが、その中にはティエラやヘヴンリーが苦手と言っていたものもあった。
「よりによってそこ!?」
「いいじゃない。マホがどう攻略したのか気になるし」
そこは毎回内容が変わるので初見でなくても新鮮さを味わえるダンジョンだ。
マホがあえてそこを選んだことに過去の経験からヘヴンリーは拒否反応を示すが、ティエラがそれを宥める。
「慣れてるというハートもいるんだ。そこまで苦にはならないだろう。俺も乗った」
「ウチもけっこー入っとるからな。白箱の確保は任せといてー」
「ふふ、下手をすると宝箱の前にボスに着いてしまいますからね。スマぷーさんの嗅覚を頼らせていただきましょう」
リョウヤ・スマイル・ハートも乗り気だ。
「わ、わかったよー。行くって。けど、あーしホントに苦手だかんね? みんなが頼りだよ……」
「ははは、こんなヘヴンリー珍しいね。ちょっと楽しくなってきたかも」
「マホっち、もしかしてS?」
力なく同意したヘヴンリーを嬉しそうに見るマホに、スマイルが疑惑の視線を送る。
「スマぷー!」
「せ、せやな。まだ早いよな」
余計な話題になりかけたのをティエラが声を上げて止める。
申し訳なさそうに頭を掻くスマイルを不思議そうに見つめるマホだった。
「さて、行きますか。面白い画を期待しますよ」
ハートがそう言うと、全員が席を立ち迷路のピラミッドを目指してクランハウスを後にした。
お読みいただきありがとうございます。
迷路ダンジョンはパスします。
三日でやっと一話……遅くなってすみません。
書ける日は書いていきますのでよろしくお願いします。




