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第48話 スマイルはクラン『気まぐれ』に加入した

今回はスマイル回です。

 マホがログアウトしたクランハウスには一時的に静寂が訪れる。


そしてそれを切り裂いたのはスマイルだった。


「急に掲示板に来んくなったと思っとったら、『躍進』抜けて話題のマホっちと別クラン!? ビックリするわ!」


 スマイルは【方言の魔女】という名で掲示板に書き込みをしていた。

 マホがやってきた頃はリョウヤが紅蓮と共にその行動の報告をしていたのだが、ある日の「これ以上は本人のいないところで話題にするべきではない」という書き込みを最後にプッツリと途絶えていた。

 スマイルは自分に似たプレイスタイルのマホが気になっていたが、それが無くなったことで知る術を失っていた。


「悪い。俺も最初は庇護欲みたいなもので動いてたんだがな」


「あーちゃうねん。今のはマホっちと会うまでそう思ってたっちゅーだけで、謝ってもらおーとかゆーんやないんや」


 リョウヤが報告しなかったことを謝罪するが、スマイルはそれを求めていたわけではなかった。


「ん? じゃースマぷーはもうそう思ってないってこと? てか、掲示板でもマホっち人気だったんだー?」


 ヘヴンリーは掲示板の存在は認識しているが、見たりはしていないようだ。


「そりゃーなぁ。アレ、シリーズ装備やろ? アレ見たらリョウヤが口を閉ざすんも納得やもん」


「シリーズ装備を知っているのか?」


 スマイルの装備はシリーズ装備ではない。

 それでそのことを知っていることにリョウヤが驚く。


「一応ウチもハーちゃんと同じもん持っとるからな。魔法補正ないから使わんかったけど、ホラ」


 メニューを操作して忍者シリーズに着替えて見せるスマイル。


「さすがにくのいちスタイルに変わったりはしないんだ」


 ハートと全く同じ装備に切り替わったのを見てティエラが呟く。

 シリーズ装備という特別なものなだけに、男女でグラフィックが違う仕様を期待したようだ。


「ここの運営はそこまで力入れてへんよ。ヘヴンリーみたいなエロ装備はあるけどな」


 そう言いながら装備を元に戻す。


「これは店売りだしねー。男でも買えるけどさすがに着てる変態は見たことないなー」


 ヘヴンリーのビキニアーマーですら女性専用というわけではないらしい。


「いてたまるか!」


 珍しくリョウヤがツッコむ。


「ハハ。まぁ、せやからウチはマホっちのあの装備がシリーズ装備やってわかったし、今の時点でもうこの杖作れるんがどんだけ運がいいのかも知っとる」


 背中の杖をトントンと指で触れながら話を戻す。


「そういえばその杖マホと一緒だ。その棘飛ばして攻撃してたわ。そのダメージがまばらに出るから暗闇の中でも朱雀の輪郭がわかったんだよね」


「そーそー。バババババーってね。アレ助かったよねー」


 イベントでは姿が見えなくなった朱雀に杖の遠距離攻撃も使っていた。

 その様子をヘヴンリーが身振り手振りで表現する。


「! なにそれ! そんなんウチも知らんで!?」


 遠距離攻撃自体は知っているが、ワードを使った斬り刻むような挙動までは知らなかったようだ。


「ふっ、そういうところだ。マホちゃんはいつも俺たちの想像の上をいく」


「そうなんですよ。魔法の詠唱も他にはないカッコ良さがあるんです」


 スマイルの反応に嬉々としてマホの魅力を語るリョウヤとハート。


「なるほどなぁ。やっぱウチの目に狂いはなかったみたいやね。あの子は楽しそうにしとった」


「あ、それなんだけどさ、スマぷーにお願い……というか、あーし達の方針なんだけど」


 スマイルが自分がなぜ惹かれたのか納得していると、ヘヴンリーが前置きして提案する。


「ん? なんや?」


「マホっちには初めての場所にはソロか初めての人とだけで行ってもらおーと思ってるんだー。ダンジョンとか特にね」


「ああ、リョウヤが掲示板で言うとった「初見プレイを楽しんでもらう」っちゅーやつやな。もちろんそのつもりやで」


 これはクランではなくヘヴンリー達大人組の方針だった。そして、それをスマイルに伝える為に残っていた。

 伝えられた側のスマイルもその方針に同意する。


「そうそう苦戦もしなさそうだけどな、ヘルプを求められたら当然手伝う。助言にしても、攻略情報はなるべく初回は言わないつもりだ」


「そうですね。まぁ、キマイラを初見でソロ討伐してしまうくらいですから……正直次のイベントが来るまで、マホさんが言っていた「みんなでガーっと」としかやることがないかもしれません」


 リョウヤが大体の方向性と、ハートが私見を伝える。


「は? キマイラってここの前のアレやろ? アレを初見で?」


「うん。「グレードDに上がっちゃった」っていきなり報告されたの。ビックリだよね」


「それで紋章まで出るとかねー。あの運分けてほしー!」


 昨日マホから話を聞いた時のことを思い出し、悔しそうに頭を抱えるヘヴンリー。


「なんやねん……とんでもないやんけ!」


「だからそう言っているだろ。初めてひと月でもうイベントの街MVPを獲れるくらいだ。ティエラとヘヴンリーがいたのに、だ」


 改めて驚愕するスマイルにリョウヤは思い出させるようにマホの実績を挙げる。


「せやったな……。ティエりんもヘヴンリーも前回のTOP5やもんな。それより上の魔法使いのマホっち……アレ? ウチ……いる?」


 よくよく考えてみるとマホは自分の上位互換のような気がしてくる。

 そんな自分がこのクランに入る意味を思うと不安が襲う。


「盛り上げ役?」


「そこかーい! てゆーか、そこもヘヴンリーがおるやん?」


「じゃー、ツッコミ役で!」


「酷ない!?」


 ティエラとヘヴンリーの反応に涙目になるスマイル。


「冗談はそこまでにして、スマイルはお前が入るって言った時のマホちゃんの反応は覚えてないのか?」


「へ?」


「「いいの?」って言ってましたね。嫌な相手には絶対そんなこと言いませんよ」


「そ、そういえば……」


 リョウヤとハートがそんなスマイルにフォローを入れる。


「『気まぐれ』はマホが楽しくプレイする為のクラン。そのマホが楽しくなりそうだって思ったんだよ?」


「うんうん。あーしもスマぷーが入ったら面白くなりそーって思ったよー!」


「み、みんな……ありがとな」


 ティエラとヘヴンリーもからかっていたが、スマイルを歓迎していることには変わりなかった。


「まぁ、正直男性メンバーのほうが嬉しかったですけど」


「おいぃ! わざわざ落とさんでもええやんか!」


「はは、次は男だといいな」


 プレイ人口的には男性プレイヤーが圧倒的に多い。

 それなのにこのクランは男二人に女四人となった。

 とはいえこれはあまり珍しくはない。女性プレイヤーは固まる傾向にあり、そういったクランは男性が少ない。全くいないクランもある。


「ハーちゃん、もうこのクランは手遅れかもよ」


 そういう状況を踏まえてティエラが釘を刺す。


「そうですか。残念です」


「ふふ、大丈夫。マホっちならきっと無害で楽しくなる男の人引き寄せるって!」


 しゅんとしてしまったハートの背中をバシバシと叩いてヘヴンリーが励ます。


「マホっちは友達運も良さそうやもんなぁ」


 スマイルはそう予想するが、現実は…………。もちろんゲーム内ではその通りだが。


「何言ってるの? マホは多分スマぷーのこともう友達だって思ってるよ」


「! そっか……。ウチ……友達できたんやなぁ」


 スマイルは一目置かれることはあるものの、なかなか気を許せる相手には出会えなかった。

 野良パーティを組むことはあっても同じプレイヤーとで長続きした試しがない。


「それこそ何言ってんのー! あーし()だって友達っしょ!」


 スマイルのノリに引くことなく話してくれたのはヘヴンリー達が初めてだった。

 イジってくれるのも……。そのことにようやく気付く。


「ハハハ、嬉しいわ」


 気丈に絞り出せた言葉はそれだけ。だが、十分だった。

 四人それぞれと顔を見合わせ、頷き合う。


「スマぷーさんも楽しめるクランになりそうですね」


「せやな!」


 ハートの言葉にハッキリと応える。


「みんなまだ時間はあるだろう? マホちゃんいないから歓迎会ってわけじゃないが、大型モンスターでも狩りに行かないか?」


「いいねー。あーし達だけならみんな経験済みだし、やっちゃおーか!」


 リョウヤの提案に全員賛成し、クランを後にするのだった。

お読みいただきありがとうございます。


『躍進』回以来のマホ不在の回ですが、今後もたまに入れていこうと思ってます。


次回は案内は飛ばしてマホ一人の散策回の予定。

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