第44話 マホは移動手段を手に入れた!
既にイメージも固めていたマホはすぐに希望を伝える。
「私はやっぱり魔法のホウキ! あとは飛びながらホウキの先から魔法が撃てたらカッコいいかな?」
これは文字に表せば「魔法のホウキ」ともなり、正にマホの為の移動手段となる。
「オッケー! じゃあ、自分なりの呼び出しワードを登録してもらうよー。最初の呼び出しで登録するからさっそく呼び出してみよー!」
ダンジョンマスターはいきなりそう促してくる。
「え、えっと……ごほん。さぁ、お気に召すままに♪」
マホがクラン名を付けてもらった時から考えていた『気まぐれ』らしい言葉を可愛らしく唱えると、非直線的な木製の柄の先に竹箒のように細長く真っ直ぐな木の枝を束ねたホウキが右手に現れる。
「おおー! イメージ通り! ハーちゃんは?」
出てきたホウキに感動しつつも、まだ希望を伝えていなかったハートを見る。
「そうですねぇ。ティエラさんが天使ですし、僕は悪魔にでもなりましょうか」
ハートが本当に自分には興味なさそうにそう答えると、ダンジョンマスターがマホ同様に呼び出しワードの設定を求める。
「折角なら角とかも生えるといいですねぇ。偽りの輝きを僕に!」
追加でイメージを膨らませながらハートがそう唱える。
すると、背中にティエラの翼をやや細くして黒で塗り潰したような羽が6枚、更に頭の側面上部から赤い角が二本生えてくる。
「おおー! 忍者で悪魔! カッコいい!」
「悪魔というより堕天使のイメージになりましたね。まぁ、飛べればなんでもいいです」
マホは絶賛しているが、忍装束に翼は……ハート自身少し合わないと思いながらもあまり頓着しないようだ。
「よーし、私も装備の表示をONにして……と」
サブメニューを操作して見た目の表示を変更すると、三角で黒く先の長い「魔導師の帽子」、地面に付きそうな長さの黒い「魔導師のマント」、黒を基調としてやや紫がかった「魔導師のローブ」からなる魔導師シリーズが表示される。
「おお……これは役得ですね。まさしく魔法使いです。早速みなさんに見せに行きましょう」
ハートは辛うじて興奮を抑えている。このままでは自分が暴走しかねないと、すぐにダンジョンからの離脱を提案する。
「うん! これならすぐだよね! 行こう!」
マホはホウキに横座りで乗って浮かび上がる。
「ええ」
ハートもそれを追って翼をゆっくり羽ばたかせる。
「あっ、オーク! ハーちゃん、ちょっと試していい?」
そして二人は入り口を目指して移動を始めるが、途中でオークがPOPしているのを見つけマホが止まる。
「ああそのまま魔法を、と言ってましたね。ここなら安全ですしどうぞ」
ハートの同意を得て、マホがそのままホウキで移動しながらファイアを唱えると、ホウキの先端に魔法陣が現れ火球が飛び出す。
「やった! すごーい! って、あれっ?」
希望通りの効果が追加されていることを確認したマホだったが、すぐに異変に気付く。
「危ない!」
思わずハートも叫ぶ。
ホウキに乗ったまま魔法が放て、それがオークに当たったまではよかったのだが、その硬直で一時的に制御不能になったのだ。
「わわっ! 曲がってー!」
オークに魔法を撃つためにそちらを向いていたマホはそのまま山に向かって突っ込むが、撃ったのが詠唱のないファイアだったおかげでギリギリ山肌にぶつかる直前に硬直が解けて軌道修正する。
「ヒヤリとしましたよ。硬直といってもさすがにそのホウキは止まらないようですね」
慌てて寄ってきていたハートがそのまま並走しながら声を掛ける。
「止まって撃たないと危ないね。次からは気をつけるよ」
「そうして下さい。でも、試しておいて正解でしたね」
二人はふふっと笑い合ってリョウヤ達の待つ入り口へと急いだ。
「みんなお待たせー!」
「おー! マホっちー! って、ハーちゃんなにそれ!?」
マホ達が戻ると、ヘヴンリーが出迎えてくれるが、初めて見るマホの装備よりもハートのインパクトの方が上だったようだ。
「はは、ティエラさんの天使の対のイメージをしたら悪魔のつもりがこうなってしまいました」
どうやらこの姿はティエラを意識した結果だったらしい。
「ふふ、あたしをイメージしてくれたんだ。なんだか嬉しいよハーちゃん」
意識されたティエラの方も悪い気はしないようだ。
「それにしても、それが魔導師シリーズか。やはりマホちゃんしか手に入れてないんだろうな。初めて見る」
リョウヤはもしかしたらそれと知らないだけで見たことがあるかもしれないと思っていたが、マホの装備は見たことのないものだった。
「だねー。それにホウキがいい味出してるよ。ザ・魔法使いって感じ」
「うんうん。マホ可愛いよ」
改めてマホの装備を二人も絶賛する。
「えへへ。でも……「カッコいい」の方がいいなぁ」
「ふふ、ごめん。カッコいいよ、マホ」
ティエラはマホの年齢を知っているが故の感想だったが、マホの思いを聞いて訂正する。
「ありがとティエりん」
「これでみんな移動手段揃ったねー。とりあえずクランハウス行く?」
「そうだな。時間もあるし次の予定でも決めるか」
その提案に乗った一行はクランハウスへと移動する。
「えっと、確認なんだけど、この街って他に何かあるのかな?」
まずは指針を決めるリーダーであるマホが切り出した。
「あるかないかで言えばある。だけど、今できるかと言うとNOだな」
それにはリョウヤが答える。
「どういうこと?」
その意味がよくわからず首を傾げる。
「実はね、トライアングル到達がイベント開放の条件になってるのがほとんどなの。これまでNPCはマホにはあんまり表示されてなかったでしょ?」
「そうなの?」
マホはゲームの経験がなく疑問に思うこともなかったが、これまでNPCは必要最低限しか出会っていない。
「あーそっか、マホっちはゲームやったことないんだっけ。普通はもっとNPCがいてイベントが起こるものなんだよー」
「へぇー」
ヘヴンリーの言う通り、ツインですら後から追加された街だというのにイベントNPCがほとんどいないゲームというのは珍しく、大抵は何かしらイベントをこなして装備やお金を増やしていくものが多い。
「まぁ、元々このゲームがお使いクエやって稼ぐものじゃないからね。モンスターと戦ってダメージを多く出せるようにするのが目的だし」
「それでも単調すぎると思ったのか追加されたのがトライアングル実装の時で、始まりの街やここのイベントもトライアングルに行くことで解放されるんだ」
ティエラの言葉にリョウヤが続く。
「じゃあ、トライアングル行く?」
「僕は構いませんよ。移動手段も取れましたし、ダンジョンのレアモンスターまで撮れましたからね。ここに来た甲斐がありました」
マホがそう提案すると、真っ先にハートが同調する。
「マホっちとハーちゃんが行けるんなら問題ないねー」
「だね。あたし達はマホと一緒にいるのが目的みたいなものだし」
「俺もだ。マホちゃんなら未発見のイベントくらい見つけてくれそうだしな」
他の三人もマホ達さえよければ、というスタンスのようだ。
トライアングル未経験のマホと、動画を撮る為にやってきたハート。この二人が先に言ったことで話はすぐにまとまった。
「『躍進』が見つけていないイベントなんてあるんですか?」
未発見のイベントと聞いてハートが元『躍進』の三人に問いかける。
「シリーズ装備みたいに運に左右されるものとかあるかもな」
実際、攻略組の『躍進』はかなりのイベントを見つけていたが、それでもリョウヤは全てを見つけたとは思っていなかった。
「確かに。この忍者シリーズなんてまさに運だけですからね。そういうイベントなら見つかっていなくてもおかしくはないですね」
それを聞いて、シリーズ装備をその運で手に入れたハートは深く頷く。
「運かぁー。あーしは結構運悪いからなぁー」
ちなみにウルトラレアの『超』を入手した際に宝箱を開けたのはティエラだ。
実質ヘヴンリーは自力ではウルトラレアを引いたことは一度もなかった。
それで『躍進』の一員としてやってこれたのはひとえにヘヴンリーのPSの賜物だった。
「ハーちゃん、その入手方法って聞いてもいい?」
運だけと聞いてティエラが興味を持つ。
「いいですよ。聞いたから手に入るものでもないですし」
「そ、そんなに難しいの?」
マホはハートがあっさりと教えようとすることに身構える。
とはいえ初期も初期、しかも初見でレアモンスターと遭遇、かつ討伐しなければならないマホの魔導師シリーズの方が入手難易度が遥かに高いのだが。
「トライアングルのダンジョンではボスの討伐報酬が初回は銀箱で以降銅箱になり、道中にもブロンズがあるんですが、両方を開けた上でレアを入手してはいけないんです」
「うっは、厳しー!」
「初回逃したら無理だね」
ハートの説明を聞いてヘヴンリーがあちゃあと手を額に当てティエラが首を振る。
「リョウヤさんなら行ける?」
ハートがイベント報酬を受け取る際、リョウヤとパーティを組んだ結果ブロンズでもスーパーレアを引いたのを聞いていたマホがリョウヤに問う。
「たぶんな。それでも数はこなさないと無理だ。俺は聞いたことあったから一度試したがダメだった」
忍者シリーズの入手方法に反応がなかったのは既に所有者と接触し聞いていたからだった。
そしてリョウヤの方も騎士シリーズの入手方法を伝え、手に入れてもらうことで自分の装備を成長させていた。
「そうなんだ……」
「ま、その話は後でいいっしょ。今日はけっこー早く終わったしさ、マホっちが来れるなら夜にもうトライアングル行っちゃわない?」
「ヘヴンリー急すぎ。でも確かに時間余っちゃったね」
時計はまだ16時を過ぎたところだ。マホの都合さえつけば確かに街を移動する時間はある。
「俺はマホちゃんに合わせるが……どう?」
「うーん、戻ってみないと……」
「なら一旦解散しましょうか。それぞれ休憩も必要でしょうし、僕は1時間後くらいには戻ってきますよ」
「オッケー、そうしよっか。あーしもゴハン食べてすぐ戻るよー」
「あたしもそうする。マホが遅くなったらその時は別のことしましょ」
「わかった! じゃあ一度解散で! みんな後でね!」
そして早めに食事休憩に入る為、クラン『気まぐれ』はそれぞれログアウトしていった。
お読みいただきありがとうございます。
次回トライアングルへ向かいます。
以後戻って来るかは進んだ後に決めようと思ってます。




