第32話 GWイベント その④ 撃退編
「よーし、マホっち行くよー!」
「ま、マホっち!?」
食事で抜けて戻って来てから唐突にヘヴンリーからの呼び名が変わって焦るマホ。
「ヘヴンリーは仲良くなった相手はこうやって愛称で呼ぶことが多いの」
「あ……確かに」
リョウヤや紅蓮を同じように呼んでいたことを思い出して納得する。
「マホっちがいない間に何がいいか考えてたんだよー」
「ありがと……嬉しい」
名前を呼び捨てで呼ばれることすら初めてだったマホは愛称で呼ばれるなんて考えたこともなかった。
それがたまらなく嬉しい。
「あれ? でもティエラはティエラって呼んでるような……?」
「この子ね、あたしのことなんて呼ぼうとしたと思う?」
「えっと……なんだろ?」
ティエラに問われて考えてみたが思いつかない。
「ティエりんってそんなに嫌だったー?」
「嫌に決まってるでしょ! 恥ずかしいったらないわ」
ティエラが攻撃以外では珍しく声を張り上げた。
「ティエりん……可愛い……」
マホはその語感に悶える。
「でっしょー? なのにティエラってばさー……。まぁ、嫌ならしょうがないけど」
「そこで退いてくれるヘヴンリーは好きよ」
「──っ! 不意打ちは卑怯っしょ?」
「ふふっ」
このやりとりに二人の絆の強さを感じ取る。
「と、とにかく行くよ! 一気に決めるかんね!」
「うん!」
誤魔化すように会話を打ち切り、戦場へと戻る。
そこにはヘヴンリーからの通話を聞いて悶える男が一人。
「ティエりん……くくっ」
紅蓮だ。ヘヴンリーの考えたティエラの愛称が相当ツボに入ったらしい。
「PK有りのゲームだったら頭撃ち抜いてやるのに」
「怖っ! 発想がこえぇよ!」
真顔でそう言うティエラに本気で怯える紅蓮。
「で、今どんな感じ?」
そんな二人に対して戦闘モードに入ったヘヴンリーが空気を変えた。
「今の振り回しが1ループ目最初だ。頼んだぞ!」
そこは紅蓮もさすがに引き締まる。
「よし、あたしも武器変えて本気モードで行くよ。広がれあたしの白い羽根!」
ティエラが何やら金属の硬そうな弓に武器を変更しそう唱えると、白い羽根が背中に生え、更に髪も茶髪から真っ白になりポニーテールだったものが解かれ靡き出す。
「すごーい! 天使みたい!」
初めてそれを目にしたマホは感嘆の声を上げた。
「ふふ。これがあたしの移動手段。アバターまで弄れたのは驚いたけど」
そう言ってその羽根で羽ばたき浮かび上がる。
「そんなのもあるんだ」
「マホも好きなものを貰えばいいよ。これ、適正距離がかなり近いこの弓と相性がいいの」
ティエラの新たな弓は見た目通り硬く、遠距離攻撃とは名ばかりの射程距離しかない。
その代わり、前の適正距離のない弓より遥かに大きなダメージが見込めるというロマン武器だった。
そう、「だった」のだ。
「あーしもアレいくよー。素敵を召しませ♪」
ヘヴンリーも同じく唱えると、ヘヴンリーの背中には光の翼が現れる。
「ヘヴンリー、行こう!」
「おー!」
ヘヴンリーは飛び上がるわけではなく、地面を駆ける。
ただし一歩ごとの跳躍距離が普段の3倍以上と、とんでもないスピードが出ていた。
「アレは飛ぶ為の翼じゃなくて、まんまガ◯ダムのスラスターだな。地上で高機動戦闘をする為のものだ」
残った紅蓮がその光の翼の説明をする。
「ガン◯ムって……ロボットの……?」
マホは観たことはないが人並みの知識はあった。
「そう。面白いよな。どっちも翼なんだが、天地の天のヘヴンリーが地面を駆けて、地のティエラが天使になって空を飛ぶんだ。なんでもお互いのイメージから選んだらしいぞ」
紅蓮が加えて二人の移動手段について語る。
「へぇー。いいなぁ」
二人を見たことで、マホには自分が貰う移動手段のイメージがこの時点で固まっていたが、それを手に入れるのはもう少し先の話。
『ちょっと紅蓮ちゃん! 真面目に解説されると恥ずいんだけどー?』
パーティ通話で紅蓮の声が聞こえているヘヴンリーが抗議してくる。
「悪い悪い。そんじゃ、マホちゃんに見せつけてやれよ!」
『よっし! 任せて!』
光の翼を展開したヘヴンリーならば足ではなく胴体にまで攻撃が届く。
その跳躍力を活かした攻撃のおかげでダメージ効率は更に上がった。
それに加えて高火力のティエラの弓。
朱雀の攻撃は火球以外は横より下。飛び上がったティエラは無敵だった。
巨大な朱雀よりも更に上から次々とロマン砲とまで言われた矢が降り注ぎ命中していく。
二人が足を狙わないのは当然マホがいるから。
マホも二人に負けじと水の矢を放ち続け、火球の為に飛び上がるタイミングになると『ウォータージャッジメント』をぶちかます。
それで転倒した朱雀には総攻撃が待っている。
再開から最初の転倒で朱雀のHPは2割を切った。
『さすがに一回じゃ無理かー』
「そろそろ何か変わるかもしれんから気をつけろよ!」
前線にいるとHPが見え辛いヘヴンリーに紅蓮が注意を促す。
飛んでいるティエラには見えているし、集中して狙う為にパーティメニューは開いていない。
朱雀は起き上がってしばらくすると、いつものように振り回しを始める。
しかし──。
『あれ? いつまで振り続けんの?』
いつも両翼振ったところで止まっていた朱雀が止まらない。
「おいおい、歩き始めてんじゃねーか?」
それどころか振るごとに一歩ずつ進んでいる。
そして10歩進んだところでようやく振り回しは止まった。
「飛ぶ気だ!」
マホのいない間ずっとそのモーションを見てきた紅蓮はすぐに気付いた。
「我が魔法 滝の如き水となりて その圧力で空へ上がらんとする敵を叩き落とせ! ウォータージャッジメント!」
マホも朱雀の行動が変化してからは攻撃を止めて詠唱に入るタイミングを窺って待機していたので紅蓮の声への反応が早かった。
この初日だけで何度唱えたかわからない詠唱をしっかり成功させると、紅蓮の予想通り羽ばたこうとした朱雀に直撃し転倒させる。
「マホちゃんやるな! おら! みんなトドメだ!」
『おっしゃー! ラストアタックはあーしが獲る!』
「そんなもんねーから!」
紅蓮の鼓舞にノリノリで返したヘヴンリーに紅蓮がツッコミ返す。
そして──。
『決める! 貫け! 超水直矢!!』
わざわざパーティメニューを開いてまでキメたティエラがトドメを刺すのだった。
そしてHPが0になった朱雀が飛び去っていく。
「あ、そっか。撃退だった」
マホも紅蓮達のノリに思わず討伐と勘違いしてしまっていた。
「いやー、さすがティエラ。やられたよー」
「ふふふ。狙ってたからね」
そこにヘヴンリーとティエラが戻ってくる。移動手段を使っている分他のプレイヤーよりも速かったようだ。
悔しそうな、それでいて嬉しそうな表情のヘヴンリーとドヤ顔をキメるティエラ。
「おかえりー──わっ!」
「マホっち助かったよー!」
マホが出迎えると、ヘヴンリーが高速移動そのままに抱き付く。
「本当にね。こんな早く終わったのはマホのおかげ」
ティエラも寄ってきてマホの頭を撫でる。
「まだ22時前だもんな。初日でこれなら明日以降はもっと早くできそうだ。武蔵も被ダメ減らした方がいいとか言ってたし、上出来だな」
「ちなみにムサしゃんはあーし達のクランのリーダーだよー」
「とんでもないことを平然とやってのける凄い人」
紅蓮がマホの知らない名前を出したのですぐにヘヴンリーが説明し、ティエラが補足する。
「へぇー。リョウヤさんより凄いの?」
「単純なダメージ能力だけならリョウヤちんだけど、凄いって言うとムサしゃんだねー」
「その呼び方力抜けるんだが……」
「凄さ半減だね」
その「凄い人物」を愛称で呼ぶヘヴンリーに紅蓮が呆れ、ティエラも同意する。
「あの……」
そこへ紅蓮と同じくあまり攻撃に参加せず後ろに控えていた男性プレイヤーから声を掛けられた。
装備も始まりの街で売られている革製の鎧に初期装備のロングソードと戦う気はほとんど感じられず、髪型はシンプルなショートで黒髪、顔も可もなく不可もない平凡なアバターをしている。
「ん? どうした? お前も録画班だったよな?」
「えっと、まず自己紹介から……。僕はハート。ソロプレイヤーで主にプレイ動画の投稿をしています」
「あー! 知ってる! あーしも動画見たことあるよ! 凄い凝ってるよね」
「あたしも。まさか本人がこんなに地味だとは思わなかったけど」
ヘヴンリーとティエラはそのハートという男は初対面だが、投稿している動画自体は知っていたらしい。
「! まさか『躍進』の方々が……光栄です。見た目は……まぁ、プレイ動画といっても、自分ではなくて他の人のプレイをカッコよく見せるのが好きなので……」
「確かにハート君自身は全く映ってないよねー」
「ってことはなんだ? 今回の戦闘の動画を使いたいってことか?」
紅蓮は要件を察して確認する。
「はい。先程言われたように音声は名前のところに修正を入れますので使わせてもらってもいいですか?」
やはり紅蓮は録画データについて根回しをしていたらしい。
「俺は見たことないんだが……こいつの動画ってどうなんだ? 再生数とか」
紅蓮はハートのことは全く知らなかったようだ。
「うーん、動画は凄いんだけど……ぶっちゃけこのゲームのプレイヤーくらいだよね? 見てるの」
「コメントを見る限りそうだと思う」
「お恥ずかしながら……おっしゃる通りですね。おそらく一般には全く認識すらされていません」
どうやら動画投稿者といっても無名なようだ。
「それで……わざわざ俺達だけに許可を取ろうとしてる理由は? まぁ、予想はつくけどな。そもそもほとんど観られてないのに動画をやるのはなんでなんだ?」
紅蓮もわかってはいるが、しっかり口にさせたくて聞いている。
「さっきも言った通り好きだからです。それと、観てる方には今日ここに参加しているプレイヤーもいるでしょうから攻略の参考になれば、と」
「それだけじゃないだろ?」
「ええ。この御三方の姿に惚れました! 凄かったです! あの翼! そしてなによりそちらのマホさんの詠唱! ……ごほん、失礼しました」
どうやら後半は答えなかったのではなく、言い出すと思い出して興奮してしまうからだったようだ。
「どうする? 悪い奴じゃなさそうだが」
そう言って紅蓮はマホ達の意思を確認をする。
「あーしはいいよー。ハート君がカッコよく編集してくれるんでしょ? 大歓迎!」
「あたしもいいよ。最後のトドメ、しっかりと残してね」
「私も……ちょっと恥ずかしいですけど、いいですよ」
三人とも紅蓮と同じく、ハートから悪意のなさを感じていた。
「ありがとうございます! さっそく編集して今日中にアップしますね! みなさんのおかけで早く終わりましたし!」
腰を勢いよく90度曲げて深々とお礼を言うと、ハートはログアウトしていった。
──そしてその日投稿された動画は翌日一日で数百程度しか再生されず、その後も全く伸びる気配はなかったのだが、まさかこれが数ヶ月後にミリオンを超えることになろうとは誰も想像すらしていなかった。
「あーし達も終わろっか」
「だね」
「うんっ」
「俺は他のクランと打ち合わせしてくる。途中からなんとなくでそうなってたけど、明日からはキッチリ火球2回で交代になると思う」
元々時間で区切っていたが、朱雀の攻撃パターンで区切るよう現場の判断で変更していたのを擦り合わせるらしい。
「その方がやりやすいよねー。ま、紅蓮ちゃんに任せるよ」
「あんまりマホ頼りにならないようお願いね」
結局火球を止める計算ができたのはマホの魔法だけだった。
とはいえずっとマホが待機しているという状況も避けたいとティエラが願い出た。
「それなー。マホちゃんはどうだった? ぶっ続けはしんどいだろ?」
「うーん、確かに途中で休憩はほしいかも」
ゲーム中は問題ないが、今回途中から集中しっ放しだったので食事でログアウトしたときに若干の疲労感はあった。
だからこそお風呂も素直に入ってリラックスしてきたのだ。
「だよな。わかった。その辺はなんとかする。というかマホちゃんはソロなんだから俺らの計算に入れる方がおかしいしな」
「あはは、そういえばそうだったよ。なんかマホっちも同じクランの仲間みたいな感覚になってた」
「えへへ。ありがとうヘヴンリー」
仲間と言われてマホの表情が緩む。
「ていうかヘヴンリーもしかして……」
「ティエラと一緒」
「そっか」
「え?」
「んーん、なんでも! それじゃ、マホっちおつかれー!」
「また明日ね。おやすみマホ」
「うん! ヘヴンリーもティエラもまた明日! おやすみ!」
そして紅蓮を残して三人はログアウトしていく。
「さーて、行きますか。リョウヤ達はどうなったかねー」
そう言いながら残った紅蓮は話し合いの為、ギルドへ向かうのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ようやく初日終了です。
移動手段を呼び出す言葉の元ネタ、知ってる方いますかね?
次回から2日目に入ります。
ここからは一気に行きたいとは思っていますがどうなることやら。。。




