第22話 初めてのパーティ戦闘をやってみた
マホとリョウヤは一時間と少しかけて西の森の奥、前回マホが攻略した際には膜の壁があった場所までやってきた。
「あっ、壁がなくなってる! ……あれ? でも先が良く見えないですね……」
前のキラキラとした膜はないが、その奥は光が強く窺い知ることができない。
「ここからはエリアチェンジと言って、風景がガラッと変わるんだ。見えてると違和感がすごいからこうしてるんだろう」
「なるほど……楽しみです」
風景が変わると聞いてマホのテンションも上がる。
「それと、この境界でどっちの街のエリアにいるか、っていう判定にもなるんだ。行ったことある場所限定だけど、今いるエリアの噴水に飛べるアイテムもあるよ」
どうやら噴水は全ての街にあってホームポイントになるようだ。
「えっと……それってどういう……?」
「ログインしたときに飛ぶのはホームポイントに設定した噴水だけど、そのアイテムなら設定してない噴水にも飛べるってこと」
「ああー! そっか。時間がないときは便利ですね」
説明を聞いて大きく納得の声を上げる。
「防御補正の高いマホちゃんには特にホームポイントの街でも役に立つと思うよ」
「えっ?」
リョウヤの言葉の意図がわからず困惑する。
「例えばログアウトできないダンジョンから戻るのに、一番手っ取り早いのは、わざと攻撃を食らって戦闘不能になってホームポイントに飛ばされることなんだ」
「そ、そんな手が……気付かなかった……」
自ら被弾する、ということは既にやったが、その時も戦闘不能にまでなることは考えていなかった。
「でも、マホちゃんって結構硬いから死ぬまで時間かかるでしょ?」
「え? 死ぬ!?」
マホの中で戦闘不能と死はイコールではなかった為、焦って変な声が出る。
「まさかのそこかぁ……。要はやられる=死ぬってこと。割と実際そう表現されるゲームもあって結構みんなそう言うから忘れてたよ」
リョウヤも当たり前に使いすぎて、伝わらないことに軽くショックを受けた。
「ビックリしました……。そうだったんですね」
ただのゲーム用語だったことにマホもホッと胸を撫で下ろす。
「マホちゃんって、ホントにゲームやらないんだね」
「はい。このゲームが初めてです」
「マジ!? スマホゲーとかも?」
「そうです」
「よくこのゲーム買ったなぁ……」
「あ、たまたま福引で本体とセットで当たったんです!」
「なるほど……マホちゃんの神ツモの理由がわかった気がするよ……」
嬉々として語るマホに、驚きを通り越して逆に納得してしまった。
「はい?」
「ああなんでもない。じゃあ、先に進もうか」
「はいっ!」
気を取り直して目の前の光に向かって進むと、一瞬パァッと明るくなり、マホは茶色い岩肌の荒野に立っていた。
「うわぁー! すごいすごい! あっ! 後ろは暗くて見えなくなってる!」
初めての体験に無邪気にはしゃぎ、ぐるりと見渡す。
周囲は荒野が続いていて、後ろにあった森は闇に包まれてほとんど見えなくなっていた。
「うんうん。いいリアクションをありがとう」
その様子をリョウヤは微笑ましく見つめていた。若干素が出ている気もする。
「えへへ、楽しくてつい……」
元々そうだろうとは思っていたが、この反応にリョウヤはマホが子供だと確信する。
ただ対応はこれまでと変える必要もないとそのまま案内を続ける。
「全然オッケー。ゲームは楽しんでナンボだからな。それで、このツインのエリアは山岳エリアになってる。前の始まりの街は草原エリアだな」
「山岳……あっ、先の方に山がありますね!」
荒野だと思っていたマホはよくよく見ると、今いる道の先に山があることに気付く。
「あの山がツインのダンジョン。といっても山登り自体は疲れたりしないから安心していい」
「あれが……。てっきりダンジョンは洞窟だけなのかと思ってました」
「まぁ、始まりの街もチュートリアルも地下だったからそう思うのも無理はないね。実際この先は……おっと、それは今後のお楽しみにとっておこうか」
「そうですね! 楽しみにしておきます! じゃあ行きましょう!」
テンション高くマホが歩き出すと、リョウヤも並んでついていく。
「そうそう、モンスターがいたら戦ってみようか。少しくらいなら時間も大丈夫だろうし」
パーティ戦というものを経験してもらおうと、リョウヤが提案する。
「はい! このエリアはどんなモンスターが出るんですか?」
マホはテンション高いまま、その提案に乗る。
「こっち側はゴブリンとリザードマン。ゴブリンは始まりの街のホーンラビットと同じ位置付けで雑魚なんだけど、リザードマンは盾を持ってて少し厄介かな」
「ゴブリンはなんとなく知ってます! 人型の妖怪みたいなやつですよね?」
リョウヤの説明で珍しくマホでも知っているものが出た。
それでマホも少し嬉しそうだ。
「そうそうそれ。何種類かいるんだけど、ここに出るのはただのゴブリンだね。ダンジョンの方にもいて、そっちにはたまにゴブリンリーダーってのが出てきて周囲のゴブリンを集める習性があるから見かけたらすぐに倒すことをオススメするよ」
「でも集まってきたらいっぱい攻撃受けられますよね……ふふ」
マホがやや危険な笑みを浮かべる。
「そうか、マホちゃんの装備は……。でもあんまり無茶はしないようにね?」
「はっ! 気を付けます!」
暴走しかけたマホが戻ってくる。
「それと、リザードマンはトカゲ人間……なんだけど、あの顔はどっちかというとワニ人間だな。右手に盾、左手に剣を持ってる。俺もよく知らないけどリザードマンは左利きらしい」
「モンスターに利き腕とかあるんですね」
「で、俺も盾使ってるけど、盾って武器で受け止めるよりダメージカット率が高いんだ。モンスターもそれは同じらしくて、正面からの攻撃はほとんど防御される」
リョウヤは自分の持つ盾をコンコンと叩きながら説明する。
「ええっ? じゃあどうすれば……?」
「その為のパーティだ。さっきも言ったでしょ。背中が弱点のモンスターがいるって」
「なるほど! 一人が正面から攻撃してる間に後ろに回るんですね!」
「正解! お、ちょうどリザードマンがいるな。さっそくやってみようか」
視線の先には、リョウヤの言う通りワニに近い口の長い顔で緑の体色のトカゲがゴツゴツした四本指の大きな手でしっかりと剣と盾も握って二足歩行で歩いている。
「はいっ! じゃあ、まず私が見つかって魔法を撃ちますね」
「えっ? まぁ、いいか。了解、リーダー」
盾役をやるつもりだったリョウヤはマホの出した作戦に一瞬呆気にとられる。
しかし、そこはベテラン。すぐにマホの防御性能を思い出して承諾する。
「ふふっ、リーダーだって。さぁ、こっちだよ!」
リーダーと呼ばれたことに顔を緩めながらもリザードマンを挑発する。
そして、マホの声に反応して頭上に「!」マークを出したリザードマンはマホに向かって動き出した。
「挑発釣りなんて教えてないんだがなぁ……」
そう呟きながらリョウヤはマホから距離をとってすぐに回り込める態勢を整える。
「いくよ! ファイア!」
まずはいつも通り。様子見の火球がリザードマンに向かって放たれる。
それを盾でガードするが、盾全体が燃え上がる演出の後、100のダメージが表示され、HPバーが半分減る。
「おいおい、補正いらずかよ! トドメだ!」
そう言いつつも、自分も補正ワードなしで背後から斬りかかり、リョウヤが止めを刺す。
「すごーい! タイミングバッチリですね! さすがです!」
初めてのパーティ戦闘の勝利に両手を挙げて体全体で喜びを表現し、賞賛するマホ。
「はは、すごいのはマホちゃんの魔法もだよ。やっぱり一人でも全然平気そうだ」
詠唱付きの魔法だったならばリザードマンも一発で倒せたことを理解したリョウヤも賞賛し返す。
実は魔法メインのプレイヤーが少ないことから、このツインエリアまではモンスターに必ず入手できる火を弱点に設定していた。
もちろんGWイベントの朱雀は例外だが。
「確かに思ったよりダメージが通りましたね」
そんなことは知らないマホはガードされても100ダメージが通ったことに少し驚いた。
「この辺りで属性を試したことはなかったけど、火が弱点なのかもな」
さすがにリョウヤは気付いた。
ただ物理メインのプレイヤーにとって、属性補正ワードは最も種類の多いレアで狙った入手が困難であり、なかなか試すこともできていなかった。
イベント等の兼ね合いで、モンスターの属性に関する情報があまり出回らないという事情もある。
他者にそれを教えることは、相手にダメージを稼ぐヒントを与えてしまい、自分が上に行くチャンスを逃してしまうからだ。
リョウヤが属性を重視していないのは単純に属性なしの手持ちワードが強く、剣さえ通じれば高ダメージを与えられたのと、盾持ち相手は効率が悪いという別の理由からだが。
「弱点かぁ……色々試した方がいいのかな?」
「ただのファイアであれだけダメージ出るならここはそんなに気にしなくていいんじゃないかな。もっとも、次のエリアからはそうもいかないだろうけど」
「なるほど……今は朱雀対策をした方がいいってことですね!」
朱雀が属性は火で弱点が水ということまではわかっているが、手持ちのワード……特に『闇』を活かすには一工夫必要だとマホも薄々勘付いていた。
「そういうこと。次のエリアはその時のお楽しみってことで」
「わかりました!」
「それじゃ、ここからは真っ直ぐツインに行こうか」
「はい!」
そして、その日はツインをホームポイントに設定し、シナリオイベントの報酬を得たところでログアウトしていった。
お読みいただきありがとうございます。
結構な頻度でVRの日間TOP100に載らせて頂いてます。
おかげさまでPVも伸びていますし、本当にありがとうございます!




