第20話 大規模イベントが発表されていたらしい
「すごいな。もう西の森クリアしちゃったの?」
マホは西の森を攻略した後、一旦ログアウトして夕食の休憩をとってからギルドにクエスト完了の報告に来たところでリョウヤとバッタリ会った。
それから話しながら外を歩いている。これはマホのプレイ状況を周囲に漏らさない為のリョウヤの配慮だ。
そんなリョウヤもマホが西の森のイベントを早くもクリアしたことに驚きを隠せないようだ。
「はい! あの装備のおかげです!」
まだマホはシリーズ装備の表示はOFFのまま。リョウヤのアドバイスに従って次の街まで進めてからONにするつもりだ。
「マホちゃんのはすぐに成長するタイプだしなぁ。正直羨ましいよ」
リョウヤのシリーズ装備は次の獲得者が出るまで成長しないので、上昇率は高いが成長率としてはマホのものに比べると低い。
特に初期値から成長するまでは相当苦労したはずだ。
「え? そうですか?」
基準を知らないマホは自分がいかにチートな装備を手に入れたのかまだよくわかっていない。
「そうなんだよ……。それでマホちゃんなら斧を二つ手に入れたと思うんだけど、合ってる?」
西の森のシナリオが二択だと思っているリョウヤはマホが正直に鉄の斧だと答えたのだと予想するが、マホの成果はそれを上回る。
「はい! ボスの大きなコウモリを倒したら貰えました!」
「は? ……え!?」
さすがのリョウヤもそこの予想を超えてくるとは思っていなかった。
横を歩くマホを二度見し目を見開く。
「えっと……リョウヤさんの時は違ったんですか?」
「俺の時……っていうか、今まであの森のイベントは斧を貰うかボスと戦うかの二択のはずだったんだ。マホちゃん、その情報……10万、いや安すぎるな。100万Gで売ってくれないか?」
リョウヤは途中から真剣な顔つきになったかと思うと、そんな提案をしてきた。
「ええっ!? お金なんてもらえませんよ!」
「これはそれくらい重要な情報ってことさ。仲良くしてるからタダっていうわけにはいかない程のね。疑うわけじゃないんだが、キーアイテムと装備のボスドロップ品、見せてもらってもいいかな?」
リョウヤはあくまで真剣な表情を崩さずにマホを諭す。
「もちろんいいですよ。あのイベントで手に入れたのはこの斧とディアブロマント。それと『審判』っていうワードですね」
マホはメニューを開いて順に見せていくが、リョウヤの反応が止まる。
「ちょ、ちょっと待ってマホちゃん! あのイベント、ワードが手に入るのかい!?」
そして慌てて確認を入れてくる。
「え? はい。このウルトラレアの『審判』はその時のワードです」
「ごめん、さっきの買い取る話はやっぱりナシで。とても対価が払える情報じゃないよ。だから聞くのもここまで。ワードが手に入るって聞いた分だけでも払うよ」
てっきり両取りできる選択肢があったのだと思っていたリョウヤも更なる情報に身を引く。
「いやいや、さすがにそれは……そうだ、これまでお世話になってるお礼ということで」
マホには情報に価値があるという感覚がわからず困惑している。
なので情報には情報と、これまでの自分が教わったことへの対価だと主張した。
「そうきたか……いやでも俺的には……うーん……。わかった、なら一つマホちゃんが気付いてなさそうな情報を教えてあげるよ」
リョウヤは腕を組んでしばらく悩んでいたが、一つ重要な情報──とはいえマホ以外なら誰でも気付きそうなものだが──を伝えることにした。
「はい! そういうことなら是非!」
これはマホには通貨を貰うよりも納得のできる提案だった。
「マホちゃんは『公式の言葉』って……知らないか」
リョウヤはその言葉を出した時のマホの反応ですぐに察する。
「はい……」
「じゃあ、サブメニュー……あ、設定とかの方のメニューを出してみて」
「はい」
リョウヤが促すと、マホは指を下から上になぞって表示設定を変更した時のメニューを呼び出す。
このメニューを他のプレイヤーはサブメニューと呼んでいる。
「外部サイトへ、ってあるでしょ? それを押すとセンブレの公式サイトを呼び出せるんだ」
「これを……あっ、出ました!」
「そこに『公式の言葉』ってあるでしょ? 押してみて」
「これですね……はい、押しました。えっと……GWイベントのお知らせ?」
リョウヤに言われるまま操作をすると、そこには運営から発表された情報が載っていた。
「ここにはイベントやアップデートの公式発表が出るんだ。この情報自体はログインしたときにも表示されるようになるんだけど、ここは一足先に更新されるからこまめにチェックすると準備しやすいよ」
「なるほど。わかりました! それで、このイベントって……聞いてもいいですか?」
これまでは特に更新はなかったらしく、マホにはそういった情報の表示はなかった。
そして、そこに掲載されているイベントに興味を持った。
「もちろん。まずはそれを選んで詳細を出してみて。ここの運営は割と細かく情報を出してくれるから対策や準備がしやすいんだ」
リョウヤはいきなり説明をせずに順を追ってまずはマホに見てもらうところから始める。
そしてマホがその情報を開くと、「四神襲来! 市街防衛戦!」とタイトルのついたイベント情報が出てくる。
「ちなみにマホちゃんは四神ってわかる?」
「えっと……確か……青龍、白虎、朱雀、玄武の四体ですよね?」
歴史の教科書で見たのだっただろうか、と顎に人差し指を当てて思い出しながら答えるマホ。
「そうそう。で、今回のイベントはその四神が今実装されてる四つの街にそれぞれ襲来して、みんなでそれと戦うレイド戦みたいだね」
「レイド戦?」
また新しい単語にマホは首を傾げる。
「レイド戦っていうのは、普段はパーティでしか同じモンスターとは一緒に戦えないんだけど、それが全プレイヤー共通になる戦闘のことだね。今回は少し特殊みたいだけど」
「なるほどー。特殊っていうのは?」
リョウヤの説明に納得しつつも、目の前のウィンドウの情報を読み進めてもさっぱり内容がわからない。
なので特殊と言われても何が特殊なのかすらピンとこない。
「どうもプレイヤーが参加できるのはホームポイントに設定してる街の戦闘だけみたいなんだよね。今までのイベントは個人戦かクラン対抗戦だったんだけど、それを全部無視した街対抗戦っていう新しい形みたいなんだ」
「へぇー。ってまだよくわかってないんですけど……」
「まず四神は、現在の一番新しく追加された第四の街クワトロに青龍、第三の街トライアングルに白虎、第二の街ツインに朱雀、そしてここ、始まりの街オリジンに玄武が現れる」
「ここ、オリジンって言うんですね」
「はは。ツインが実装されるまで『始まりの街』としか言われてなかったからね。みんなそう呼んじゃってるよ」
マホが最初に出会ったNPCの指示男ですらそう呼んでいたくらい、この街の呼び名は『始まりの街』で浸透している。
「で、だ。プレイヤーは相手を選べるというわけ。と言っても、マホちゃんにはまだ次のツインまでだろうけど」
「そうですね。どっちがどうとかあるんですか?」
GWは来週から。さすがにマホのプレイ時間ではツインまで進めるのがやっとだろう。
なのでマホもどちらかで参加しようと考えていた。
「四神それぞれに属性と特徴が書いてある……といってもマホちゃんにはまだ難しいか。順番にいくよ。まず青龍。属性は氷で弱点は火だね。ただし飛行するのと貫通系に強い特性があるね」
「ほうほう」
また新しい情報にマホの目は輝いている。
これまで属性の相性などは出てこなかった。それが特に気を引いたらしい。
「次が白虎。属性は雷で弱点は岩。その名の通り虎のモンスターで素早く、回避に長けているようだ」
「魔法で戦うとよさそう?」
自分ではおそらく戦わないだろうが、戦うことを想定して話を聞いている。
「そして朱雀。属性は火で弱点は水。こいつも飛行の特性があるがこっちは貫通系が弱点。槍や弓矢が相性がいいだろうな」
「水の矢でもいいかも……あ、でもどっちも手持ちはノーマルかぁ」
特に戦うことになりそうな相手だけにより実戦をイメージしている。
「最後が玄武。亀のモンスターで属性は水。弱点は雷だね。甲羅が硬く斬撃系に耐性があるようだ」
「あ、一番戦いやすそう?」
雷を落とすイメージができたのか、手をポンと叩く。
「とまぁ、こんな感じだ。そしてこの四神へのダメージ量で競う。一番ダメージの多かった街から順に報酬が良いみたいだ。ただし街へのダメージは全体の報酬減になるからどこかの街だけに集まったりするとダメみたいだね。その辺は各クランで振り分けることになるだろう」
「え、でもそれじゃ報酬が違うんじゃ……」
「はは。マホちゃんは心配しなくてもソロでしょ。それに大体のクランはそれも競争ってむしろ楽しむ連中ばかりだから大丈夫」
マホの疑問を軽く吹き飛ばす。
「そういうものなんですねー」
「それどころかうちはみんなおそらく一番強くてダメージ通らなそうな青龍に行きたいって、それも競争になりそうだよ」
一体だけ属性ワードでもレアリティがワンランク高かった氷属性であることから、このリョウヤの予想は当たっているだろう。
「ははっ、それはなんとなくわかります! 私も簡単そうな玄武より朱雀の方に行こうかなって思っちゃいましたし」
どうせなら強敵に挑みたい。そんな気持ちが湧いてきたことにマホ自身少し驚いていた。
「いいね、その意気だ。それじゃ、今度パーティ組んで一緒にツインに行こうか。向こうを案内してあげるよ」
「はいっ! じゃあ今週のどこかで早めに夕食とれる日を作ります。西の森を抜けてからも結構歩きますよね?」
途中でログアウトできないシステムの都合上、どうしても夕食を挟むマホのプレイでは長距離移動が難しい。
なのでその夕食を早めて少しだけ後半を長くプレイできるようにすることは両親も認めていた。
これまではそれをすることはなかったが、両親に相談してみようと決める。
「そうだな、ここを出てから到着まで二時間は超えると思う。都合ついたらメッセージでも直接でも言ってくれたら合わせるよ」
対するリョウヤは朝の早い仕事をしているようで、夕方から割と長くプレイできるらしい。
さすがにそこから踏み込んで聞くようなことはしなかったが。
「わかりました! それじゃあ、また! おやすみなさい」
「うん、おやすみマホちゃん」
そう言ってマホはログアウトしていった。
それを見送ったリョウヤは感心したような呆れたような、複雑な表情をするのだった。
「ふぅ……。初心者ってのは恐ろしいな……」
お読みいただきありがとうございます。
ようやく20話です。
体調崩して更新出来なかった分長めになりました。
更新出来ていない間も評価等をいただいてとても励みになっています!




