第13話 ダンジョンクリアのその後に
シリーズ装備の成長を試しながら入り口へ戻るマホは自分のHPバーが思った以上に減っていることに気付いた。
「あれ? 行きで受けた時より多い?」
マホのHPバーは数回しか被弾を試していないのに半分近く削れていた。
そしてすぐに答えに辿り着く。
「あっ、そうか! 行きは+20の毛皮のマントを装備してたんだ」
ここに来てようやくその恩恵を知る。
店売りの防具でも守りを固めることはできるし、それに必要となる素材を持ち込むことで割引きされるシステムなのだが、リョウヤがその素材すらも納品するよう勧めたのはこの毛皮のマントで十分だったからだ。
そしてダンジョンを出ると、マホ視点でもアバターの装備が元のキャリアウーマン風のスーツ姿に戻る。
そう聞いてはいたが、少し驚いて手足を確認するマホ。
ちなみにダンジョンボスを倒しているので、このとき同時にダンジョン内の状況がリセットされている。
「やぁ、おかえり。初めてのダンジョンはどうだった?」
そこに待っていたリョウヤが声を掛けてくる。
「リョウヤさん! はい、バッチリでした! アドバイスありがとうございました!」
「てことは、アノ装備も手に入った?」
確認はしているが、リョウヤには出てきたマホのリアクションからほぼ間違いないという確信があった。
「あ……あの……えっと……」
対するマホの方はダンジョンマスターの言葉から言い淀む。
「大丈夫、俺が着てるのもシリーズ装備だから。他の人に聞かれないようにここで待ってたんだよ」
「そ、そうだったんですね……ごめんなさい……」
「いや、いいよ。むしろそれが正解。装備の表示も次の街のダンジョンをクリアする辺りまで待った方がいい。すぐ装備を見せちゃうとここで手に入るってバレちゃうからね」
リョウヤは人に聞かれずにシリーズ装備についての助言をする為にわざわざここまで来てくれていた。
「わかりました!」
ここ数日のやりとりでマホは完全にリョウヤを信用していた。
なので素直に言うことを聞く。
「ただ……俺、喋りすぎてマホちゃんの楽しみ奪ってないかな?」
それが逆にリョウヤには不安だった。
「いえ! わからないことだらけなので! 本当に助かってます!」
「そっか。それならよかった。中々ゲーム初心者と話す機会はないから匙加減が難しくてさ」
リョウヤの方もどこまで話していいものかと迷っていたらしい。
「じゃあ……わからないことあったら……私から聞いてもいいですか?」
なるべく自分で考えたいという気持ちはあるが、どうしても知らないと始まらない基本的なことを知らなかったりする。
それにいくら両親がゲームに詳しいといってもこのゲームをプレイしているわけではないので予想が多分に入ってしまう。
それを試していくのも楽しかったが、プレイできる時間が限られているので、プレイヒントが得られるのならば頼りたい、そう思い始めていた。
言うならば、勉強でわからないところを先生に質問する普段のマホだ。
「もちろん! その方が俺も答えやすいと思う。しばらくはこの始まりの街にいるからいつでも聞いて」
「ありがとうございます! でも……いいんですか?」
「ん? 何が?」
「あの……攻略組のグループにいるんですよね?」
「ああ、そういうこと。最近はイベント待ちでストレス発散しかしてないから全然問題ないよ。何しろ最新の街のダンジョンはクリアしちゃったからね」
「わぁ、凄いんですね!」
まだマホはリョウヤが上級者だとはわかっていても、トッププレイヤーとまでは知らない。
だから純粋な賛辞を送ったのだった。
「はは……」
その純粋な瞳にリョウヤが頭を掻いて照れる。
「そうそう、この装備もそこで手に入れたんだ。マホちゃんがそこに着く頃に取り方教えてあげる」
「えっ?」
「この装備は次の人が手に入れると補正値が成長するんだ。ただ、その間隔が長いほどそれが高くなるから基本的にシリーズ装備を手に入れた人にしか教えないんだけどね」
「そうなんですねー。私のとは違うんだ……」
「ちなみにマホちゃんのはどんな感じ? あ、言えなかったら言わなくていいよ」
リョウヤは思わず聞いてしまって慌てて訂正する。
「私のは10人手に入れるまでにダメージを受ける度に1ずつ成長するみたいです」
この時点ではリョウヤはマホのシリーズ装備を見ておらず、また、防御補正の話しかしなかったので、魔法補正まで付いていることは知らない。
「それって実質無限じゃ……」
マホのシリーズ装備の成長方法を聞いて、リョウヤがボソッと呟く。
単なる防御性能だけでもその異常性に気付いて慄く。
「えっ? なんですか?」
マホにはそれが聞き取れなかった。
「ああごめん。その装備って最初の挑戦限定だった?」
「そう言ってました」
「じゃあしばらく成長が止まる心配はないよ。今プレイしてる人には手に入れられないから」
現在このダンジョンに挑戦したことのないプレイヤーはいない。
これから新規プレイヤーが増えてこない限り、マホの魔導師シリーズは止まることなく成長していく……リョウヤの呟き通り、ほとんど無限ということになる。
運営的にもここまで入手者が出ないのは想定外で、シリーズ装備自体の情報は漏れると考えられていた。
それが蓋を開けてみれば、入手者はしっかりと口を閉ざし、本来想定された通りになった結果、最初のダンジョンの魔導師シリーズは誰にも入手されず、魔法メインプレイヤーの少数化を招いてしまった。
もう少し入手者がいれば、他にないレベルの魔法補正により魔法ダメージにも注目するプレイヤーがいたかもしれない。
「あ、そっか。頑張って育てよっと」
「うんうん。そういえばワードはどう? 初回はブロンズだったでしょ?」
「あ……それが……スーパーレアが出たんですけど、補正の『斬』って、剣とかで使うやつですよね?」
自分には使いようがないとマホは思い込んでいた。しかし──。
「マジ!? めっちゃ当たりだよ!」
リョウヤのテンションがいきなり上がる。
それだけの価値があるらしい。
「そうなんですか? ナントカ斬り! とかそういうイメージで……」
マホにはどうしても剣の技のイメージが先にきてしまう。
それを腕だけの素振りをしてみせながら伝えた。
「ほら、風よ斬り裂け! とかさ、いくらでも詠唱に使えるんだよ。もちろん剣でも大活躍間違いないけど」
そんなマホにリョウヤはそれっぽく詠唱してみせて例を挙げる。
「なるほど! 風かぁ。思いつかなかったです」
「マホちゃんって、ウォーターカッターって知ってる? イメージできそうなら水にも使えるよ」
「あっ、知ってます! ダイヤとか加工してるのをテレビで見たことあります!」
「そうそうそれそれ。現実にあるものもそうだけど、アニメとかでもとにかく自分で見たことあるやつの方が威力出るみたいだよ」
それがイメージを読み取るVISを最大限に活かしたこのゲームの一番の特徴だ。
先のボス戦でのダークボールプレスもそう。質量の無さそうな闇で圧し潰すイメージができたのも以前に見たアニメのおかげだった。
「へぇー。今後の参考にしてみますね!」
それを聞いたマホはまたクロマのアニメを見返してみようと心の中で決めた。
録り貯めたデータはしっかりと残してある。
「それもいいけど、今日は日曜、闘技場の日だよ。参加してく?」
とはいえマホはこれでようやくグレードE。このグレードには辞めてしまったプレイヤーを除くと、意図して止まっているプレイヤーしかいない。
なので参加してもおそらくは人数調整に用意されたNPCとの対戦となる。
そういったプレイヤーは闘技場には参加しないからだ。
前に出た初心者を狙うようなプレイヤーは闘技場にはいない。次のグレードDは人数が一番多く、特定のプレイヤーを狙うことが難しいからだ。
だからそういうプレイヤーはグレードを上げ、受注できるクエストの難度を上げる、という方向に動いていた。
「闘技場って18時からでしたっけ。さすがに戻らないと……」
その辺を知らずとも、マホとしても参加してみたい気持ちはある。
しかし、ここは両親との約束を優先することにした。
「そっか。マホちゃんの魔法が見れるかと思ったんだけど、また今度だね」
闘技場はその名の通り観戦可能なバトルだ。
リョウヤの方はそれを期待していたらしい。
「そうですね。慣れてきたら時間を調整してみます」
「うん。自由に楽しんで。呼び止めて悪かったね。グレード昇格させておいで」
「はいっ! またよろしくお願いします!」
リョウヤはダンジョンに入るつもりだったらしく、そこで別れる。
マホの方は足早にギルドへ向かうと、昇格クエストの報告をしてグレードEへと上がった。
右下には「マホのグレードFプレートはグレードEプレートに変化した」と表示される。
更に追加で昇格報酬として10000Gを手に入れた。
「わぁ、このお金で武器の強化もできるね」
クエストには表示されていなかった思わぬ臨時収入に頬が緩むマホ。
昇格が済み、緩んだ表情のまま武器屋へ向かうのだった。
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