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第三話

 ついに森の終りが見えてきた……やっとだな。思ったより時間がかかったよ。

できるだけ交戦しないために神経減らして避けて行動してたのも大きいのだが、疲れないために交戦を減らしたせいで疲れるって本末転倒だよな。


 「たしかこの先にでかい屋敷があったはず、そこで引きこもらせて……」


 まて、屋敷ということは住んでいる人がいる。そして引きこもるなんていう穀潰し状態で住むには交渉が必要。だが人と話すなんて無理だ……挨拶すらもまともにできないんだから。さすが俺! 社会のクズだね!


 「まあなんとかなるだろ」


 そう言い続けて結局リアルで引きこもっていたことは忘れよう。


 「ん? あれは?」


 森を抜けた。そして屋敷が見えてきたのはいいが……


 「雰囲気がおかしくないか? 『索敵』」


 敵対反応が2桁……ってちょっと待て! なんで反応がこんなに多く!?


 「『遠見』」


 あれは……デーモン!? なんでこんな初期エリアに! それに一緒にいるのは中学生くらいの女の子…………まずい。いや、中学生の女の子を見た瞬間性欲にかられたからまずいわけじゃないからね?


 「『瞬動』『瞬動』」


 コンマ単位で距離を詰める……まず一体。

 どんどんとSPがなくなっていくがカンストした俺からしたら些細なものだ。

 そして範囲スキルを使おうとして思いとどまる。

 この女の子も巻き込んじまう!


 「逃げて!」

 「え?」


 こんな状況だというのにあまり感情の篭らない声が帰ってくるが気にしてる暇はない。


 「いいから早く!」

 「…………うん」


 よし、じゃあ退路を開きますか。


 「『飛刃』『烈波斬駆』」


 遠距離剣術スキルを使い一直線上の敵を一掃。これで退路はできた。


 「今だ、走り抜けろ!」

 「うん……」


 チラチラとこちらを振り返りながら走り抜ける。なんなの? 俺に恋しちゃったの? ないな、うん。

 さて、邪魔者も居なくなったことだし片付けますか。

 しかし数が多いな……これは詠唱する暇もないか。


 ひたすらに四方八方から襲いかかってくる敵を交わしては切りつけるのを繰り返す。

 いやーモテモテだね。モンスターにモテても嬉しくないけど。


 「『回穿』」


 回転系範囲スキル。これで時間を稼いで


 「略式詠唱『氷冷』」


 下級範囲氷魔法で敵の動きを止めて


 「略式詠唱、Shko jashtë shtyllën e tokës tokë『地隆柱』」


 地面から突き出した土の柱で纏めて一突き。我ながら惚れ惚れする流れだな。さて、あの女の子は?


 「あの……」


 うわっ、びっくりした。いつの間に背後に……というかどうしよう。さっきは雰囲気で話せたけど今あらためて向き合うと……いや、向き合えてすらいない。まともに顔も見れませんよ、引きこもり検定1段は伊達じゃないな。なにそれいらない。


 「だだ、だだっだだ大丈夫か?」


 よし、ちゃんといえた! めっちゃどもったけど言えた。


 「心配してくれてるの?」


 何この子可愛い、小首をかしげてるよ。男子キラーだな、というより童貞キラーだ。この可愛い仕草に騙されて勘違いしそうだ。しかし俺は違う、そんな勘違いをする余裕もない。というか逃げ出したい。


 「もしかしてお話するのが苦手なの?」


 あれー? なにも返事をしなかったせいでこんな小さい子にもコミュ障認定されかけてるよ。でも事実だから反論できないよ、辛いね。


 「私もなの」


 ふむふむ、この子もコミュ障か。やったね和也くん、仲間が増えたよ!


 「だから……」


 ちょ、この子はいきなりなんで俺の手を掴んだ!? まさかほんとに惚れちゃったの!?


 「お話の練習相手になってください」


 この状況、女の子とまともに会話した記憶が遠い昔にしかない童貞が断れるか? 答えはノーだ。つまり許可してしまった。その時にまたどもりまくったのは言うまでもない。




 この子行動力あるな……



 ******


 この子は『サクナ』というらしい。漢字だと咲菜かな、どうでもいいか。そしてなぜだかサクナとなら会話ができる。どもるけど。それに会話と言っても基本はサクナが話してるだけだけど。でも現実の時は兄貴以外に言葉を返すことすらできなかった。ならこれは進歩と言っていいだろう。どうせコミュ障同士親近感が湧いたんだろうけど、俺に親近感とかいっそサクナが可哀想。やだなー俺ったら自分に対して辛辣だなー。いつものことだったね。


 「住むところがないんでしょ? 私の家に住む?」


 同棲フラグたったね。これは攻略近いな。あ、違いますかそうですか。


 「そうさせてくれるとありがたい」

 「じゃあ入って、ただいま」


 サクナが家の中に入ると途端に若い男女が走りよってきた。


 「サク! 怪我はないか? モンスターに襲われなかったか?」

 「アナタったら、過保護なんですよ。この辺はモンスターも少ないですし」


 父親は過保護で母親は落ち着いている……いや、違うな。さっきからずっと手をパタパタさせてるところを見ると似た者夫婦ってところか。てか若すぎないか?

 なんでそんなに落ち着いて観察してるのかって? そんなの現実を見ないようにして目の前に知らない大人がいるという現状から目を背けてるだけだぜ! さすが俺だな。意外と社会に対する対応力ついてるじゃん。あまりいい方向ではないけど。


 「モンスターに襲われた」


 サクナの一言に反応して両親の顔が豹変した。やれどんなモンスターだったかだの、やれ怪我はなかったかだの。正直怖い、てか、逃げたい。せっかく家があるんだ、なんで俺は引きこもってないんだよ。他人の家だからだよ当たり前だろ。


 「大丈夫、この人が助けてくれた」


 待って、今振らないで。心の準備ができてないから、頼む。


 「あなたは何者なのですか!?」

 「うちの娘を救ってくださり……」


 怖い怖い怖い! お願いします、説明するんで少し離れてください! 離れてくれても説明する余裕があるかわからないけど!


 「すとーっぷ」


 その時に二人と俺のあいだに目一杯両手を広げて女神が割り込んでくれた。もといサクナが助けてくれた。


 「この人はお話するのが苦手、あんまり困らせちゃダメ」

 「そ、そうなのか……すみません」

 「はしたない姿をおみせしまして……」


 助かった……サクナが間に割って入ってくれなかったら発狂してた。俺弱いな。


 「そうだ、お礼をしましょう! どんなものでもなんなりと。なにせ娘を救ってくださったのですから!」


 気持ちは嬉しいんですけど……お父様、熱すぎます。

 よし、次こそはちゃんと返事をしよう。深呼吸して、3.21……



 「住むところがないんだって、だから家に住ませてたげたいの、だめ?」


 セリフ取られた……助かったけども。

 なんだか拾われた動物の気分だな。拾われた動物ならここで両親からの反対があるはずだが……


 「そんなことなら全然構わないよ! 食事も出すし服も貸す、部屋でくつろいでくれて構わない。なぁ母さんや」

 「えぇ、そんなことでいいのなら」


 そんなこともなくあっさりと承認される。

 それに言質も取れた。これで引きこもれる。


 「そういえば名前、聞いてなかった」


 したからサクナの声が聞こえる。そして白夜と答えかけて踏みとどまる。ここでそんな厨二病前回の名前でいいのか……? 無難なのにした方が。

 そして悩むことコンマ2秒。結論は


 「……和也です……よろしく」


 消え入りそうな声で本名を名乗る。

 よく頑張ったよ俺。今日は赤飯だ! この世界にあるかな? あったら作ってくださいってねだるの? 黙れよ穀潰し。


 「カズヤ……よろしく」

 「カズヤくんだな! よろしく頼むよ!」

 「ぜひ自分の家だと思ってくつろいでね」


 この世界の人達はこんなにいい人だらけなのか? あとお母様、自分の家だと思ったら寛ぐというレベルを超えてしまうのですがそれでもよろしいのでしょうか? だめだよね、うん。お母様に床ドン語を理解してもらなきゃ俺が自宅だと思って寛ぐことは無理だな。なに偉そうにしてるんだよ、バカなの? 死ぬの? てか死にたい。

 まあいい! なにはともあれ、ついに引きこもり先をゲットだぜ!

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