第二話
さて、森に入ったのはいいが
「怖いくらいに静かだな……」
嵐の前のなんとやら、ってやつか。
ゲーム時代ならジャイアントスパイダーの大群が襲ってきてもいい頃合なんだけどな。まぁリアリティが強いし、システム管理されてたあの頃とは違うってことか。出てこないことに越したことはない、とにかく進もう。
……やっぱり出てこない 。絶滅でもしたか?
俺がジャイアントスパイダーの安否が気になり始めたところで、頭上や周りの草木が揺れる音が耳に入る。
やっとお出ましか。数が多い気がするけど所詮雑魚だ、それほどの驚異じゃない。
「『瞬動』」
まずは手始めに目の前から行きますか。
刀を抜き、音の方へ近寄ると3匹のジャイアントスパイダーを発見する。そして接近に気づかないうちに1匹を真上からまっぷたつに切り裂く、まずは1匹。そこでようやく残った2匹が俺の存在に気がつく。
だが
「遅い」
縦に斬りおろした刀を、勢いをそのままに横に振る。その一撃でもう一匹もポリゴンの破片へと化す。
スキルもなしで一撃か、初期エリアだしまぁこんなものだろ。
「Terren transmetohet borë『雪走』」
『魔法剣』のスキルによって、剣が魔導杖の代わりを果たし、短い詠唱の後に魔法が発動する。剣先から雪の結晶が地を走り、攻撃体制をとっていたジャイアントスパイダーを氷付けにする。ふぅ、圧勝だな。さて、残りも……
「『索敵』」
……あーやばい、3匹に気を取られすぎた。すっかり囲まれてる。こんな動きはゲームではなかった。モンスターも頭が良くなってるのか。
「煩わしい」
ほんとに、うん。どうせ雑魚なんだからさっさと死んでくれればいいのに。それに敵わないことも理解してるだろ? だったら立場が上のものには逆らわず出てくるなよ。強いものから逃げて隅っこで震えていろ。なにその生き方すごい既視感。
「Tornado torrent borë terren stil këputje sintetike 『雪破竜風』」
詠唱が終わり、俺を中心として霰の竜巻が起こり、ジャイアントスパイダーがポリゴンの欠片へと変化する音が辺りに広がる。中級魔法ということで詠唱は長いが……こんな雑魚の行動スピードを考えたら全然楽に詠唱できるな。
雑魚は大人しくしててくれよな、俺を見習って。
ここからまた敵に会うのもめんどくさいな……よし
「『索敵:範囲最大』」
このまままっすぐ行けばエンカウントは多分8回、右に迂回して5回、左に迂回して4回ってところか。
「左でいいか、たしか泉もあったよな。水分補給もできんだろ」
流石に喉が乾いたな、索敵しておけば落ち着いて休めるだろ。
進軍ー
******
おーここだよ、場所が変わってなくてよかった。
「水は綺麗だよな?」
飲んで腹下すとか笑えないからな。
「あれ? なんで?」
水を飲もうと泉をのぞき込んだ。そこに顔が映るのはわかる。だけどなんで俺の顔なんだ?
ゲームキャラの顔は俺とは似てもにつかないようにしたのに。
「俺の顔とこのかっこいい服のコラボ……正直ひどい」
別に自分自身がそこまで不細工っていうはずはないと思うんだが……完全に服装負けしてる。
はあ、なんでわざわざ俺の顔になってるんだよ。俺をここに連れてきたやつはよほど性格が悪いと見える。
「気にしてもしょうがないか、進もう」
道中では2回ほどジャイアントスパイダーにであったことは割愛しておく、どうせさっきと同じ作業だし。だけど問題なのは……
「なーんでゲーム時に出現率0.1%を誇ったレアボスモンスターがいるんだろうね……」
目の前に5mほどの草でできた巨人がいること。
正直この武器ならノーダメでも勝てるだろうけどこいつ硬いんだよ……めんどくせぇ。
動きたくない
ひきこもりたい
働きたくないでござる。
だめだ、ダメ人間思考がログインしてる。今だけはログアウトして。しなきゃ倒され……ないけどさ。
「倒しますか……いつもやってる作業ゲーが少し辛くなっただけだし……いや……待てよ」
巨人なんて動きが遅いのは斬って退くの繰り返しだし。だが俺は違う、魔法剣士の真の実力とくとご覧あれ。誰が見るのか知らんけど。
「Gur dispelled lyer në shkumës, kërcejnë shkërmoqet për të luajtur. Përtej vdekjes madje edhe të ndaluar me mijëra vjet për të festuar në atë kohë 『永劫領域氷結』」
大好きな氷魔法の、一番好きな魔法。だってカッコイイしね。
中二心をくすぐられるネーミングセンス。悪くない。
「感謝しろよ?この魔法はあまり使わないんだからな」
正直詠唱が長すぎて使えないだけだけど、巨人の餞別にしてやる。
「永遠の冷気に凍え死ね」
空中に浮かび上がった氷の岩が次々と巨人へ向かい、直撃した瞬間に凍り、その部分を砕く。十数回その工程が行われ、剣先に冷気が溜まりきったのを感じる。
「Finish!」
感じるままに剣先を振るうと、白い霧が辺りを包み、その冷気で空間ごと凍らす。
やっぱり原理としてもかっこいい、でも実際こんなことするにはどれだけ低温にしなきゃならないんだろうな。
でもやっぱりすごい。俺自身は冷気を全く感じない。ご都合主義もいいところだ。ばっちこいだけどさ。
「……あれ、静かすぎないか?」
おかしい、さっきまで鳥の鳴き声だって聞こえてたのにそれすら聞こえない。
「『索敵』」
……これはやりすぎたかも。この周りのジャイアントスパイダーだけじゃなく無害な鳥、果てには虫すらも死んでるっぽい。あたり一面の生物がそのままの体勢で固まってる。ゲームじゃこんなことにならなかったのに。
「この魔法は封印かな、下手したら環境破壊や動物絶滅に繋がってもおかしくないレベルだよ……」
大体半径250mくらいかな。うん、普通にやばい。さすが滅級魔法ってことか。『滅』の字は伊達じゃないな。
せっかくの好きな魔法だったのにな。
「これもゲームと現実の弊害かよ」
この言葉をこの世界で使うのも何回目だろうか。改めて戒めないとな。この世界はゲームじゃない、現実だ。
その時軽く走る頭痛、久しぶりに外に出たからウィルスにでもやられて風邪ひいたかな。でも俺の部屋の方がウィルスいそうだし、それで風邪引いてなかったんだから気のせいかな?
「さて、ボスドロップはなんだろなー」
メニュー、インベントリっと。
「きたぁぁぁぁぁ!」
思わず叫んだけど問題ないよね!? だって、だって……
「ドロップ率5%、神アイテムきたぁ!」
5%って高くないかって? ふふふ、甘いな。先ほど言ったようにこのボスの出現率は0.1%そしてドロップ率5%。以上を踏まえるとこの森におけるドロップ率0.0005%、正しく神アイテム! 誰だ、引きこもりなのにそんな計算できるんだって思ったやつ。出てこい、凍らせてやるから。
「効果は!」
えっと、 周囲と一体化する。モンスター以外から見えなくなる。
…………うん。
「微妙すぎる、これなら魔法で代用できるぞ……せめて魔物にも見えなくなれよ」
時間を戻してくれ、あんだけはしゃいだのが今になって恥ずかしくなってきた……辛い。
そっか、よく考えてみよう。出現率0.1%要するにこの森にいるのに出てこない。要するに引きこもりだ。引きこもりが役に立つアイテムを持っているか? 否だ。だって俺は何も持ってないし。
あれ? でもレアキャラってレアドロップスゴイの多いよな。じゃあこの巨人が悪いのか。そうだ、巨人が悪い。
……話が逸れたな。まあ一言で言うなら
「巨人の存在意義はない!」
自分にすごいブーメランだ。存在意義がないのは事実だけど。
中途半端に厨二病をこじらせた結果の魔法名。
お読みいただきありがとうございました。




