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処刑される悪役令嬢の私を、神獣だけが“覚えている”  作者: 不可


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6. 断罪前夜の違和感

6. 断罪前夜の違和感

断罪の、前日。

その言葉が、頭の奥に重く沈んでいた。


「……明日、なのね」


窓の外を見ながら、私は小さく呟く。夜空は穏やかで、何も起こる気配なんてない。小さな星が瞬いていて、満月が美しい。それが余計に不気味だった。


(あの未来が、本当に来るなら――)


胸元のペンダントが、かすかに脈打つ。


あの“結末”を見てから、時間の感覚が曖昧になっている。どこまでが確定で、どこからが変えられる未来なのか分からない。


 それに、現実に戻ってきた後は時間が巻き戻っていた。それで、こうしてまた断罪前夜を迎えることになっているようだ。シアはなぜか詳しいことを教えてくれなかったし、未だに頭の整理がついていない。

 


「怖いか」


背後から、低い声がした。


振り返ると、シアがいつの間にかそこに立っている。護衛としての姿――人の形を取っていても、その異質さは隠しきれないようだ。金色の瞳が月光を反射してギラリと光った。


「……怖くない、とは言えませんね」


正直に答えると、シアは何も言わなかった。ただ、こちらを見ている。その視線が少しだけ重い。

言葉にはできない違和感が、胸に引っかかる。


「明日、私は断罪されます」


「……ああ」


「あなたは、それを止めるためにいるの?」


「そうだ」


即答だった。迷いはない。


なのに――


(どうして)


その答えに、ほんの少しだけ“温度”が足りない気がした。


「……シア」


名前を呼ぶと、わずかに目を細める。


「あなたは、私が死ぬ未来を知っていたのですよね」


「知っている」


「それなのに、“次こそは失敗しない”って言った」


あの言葉が、引っかかって離れない。


「……過去に何を、失敗したの?」


部屋の空気が、ぴたりと止まった。

沈黙。ほんの一瞬のはずなのに、やけに長く感じる。


シアは、答えない。


ただ――


ほんのわずかに、視線を逸らした。


(……また)


胸の奥が、ざわつく。


「……言えないの?」


問いかけると、シアはゆっくりとこちらを見た。


「――その問いに答える段階ではない」


また、それだ。前にも聞いた言葉。


“まだ”

“その段階ではない”


(……隠してる)


確信に近いものが、胸の奥にのしかかった。


「ねえ、シア」


一歩、近づく。


「あなた、本当に――味方なの?」


その瞬間。空気が、凍った。

シアの瞳が、わずかに細められる。


怒りでも、驚きでもない。もっと静かで、深い何か。


「……疑うか」


「疑わない方が、おかしいでしょう」


声が、少しだけ強くなる。


「未来も過去も知っているのに、詳しいことは説明しない。

 契約の詳細も教えない。

 都合のいいところだけ話して、“あとはまだ”で済ませる」


言葉が止まらなかった。


「それで、どうして信用できるの?」


静寂。重い沈黙が落ちる。

シアはしばらく何も言わなかった。


やがて――


「……そうだな」


ぽつりと、呟く。


「それが普通の反応だろう」


否定しなかった。それが、逆に怖い。


「だが」


シアはゆっくりと視線を上げる。

その金の瞳が、真っ直ぐにこちらを射抜いた。


「――裏切るつもりはない」


シアの口から出てきた言葉は、断言だった。


けれど――


“信用していいかどうか”は、別の話だ。


(……本当に?)


心の奥で、疑念が消えない。

そのときだった。


――ドクン


ペンダントが、強く脈打つ。


「……っ」


頭が、揺れた。一瞬だけ、視界が歪む。


(……今のは)


何かが“ずれた”感覚。ほんの一瞬、別の景色が重なった気がした。


辺りから漂う濃い血の匂い。

冷たい床。

広がる暗い赤色。


倒れている――


(……誰?)

 


その“色”だけが、やけに鮮明だった。


次の瞬間には、消えていた。


「……今、何か見えたか」


シアの声が、すぐ近くで聞こえる。


「ペンダントが反応した」


言われて初めて気づく。胸元が、異様に熱い。


「……少しだけ、変な感覚が」


そう答えると、シアはわずかに目を細めた。


「……そうか」


その反応が、妙に引っかかる。


(……知ってる?)


「今の、何だったの?」


問いかける。


だが――


「知らない方がいい」


また、それだった。


「……っ」


苛立ちが、胸に溜まる。


「全部それで済ませる気ですか?」


思わず強く言うと、シアはわずかに息を吐いた。


「……今知るべきではないこともある」


「それを決めるのは、あなたなの?」


鋭く返す。一瞬、空気が張り詰める。

けれどシアは、怒らなかった。


ただ――


「……明日だ」


静かに言う。


「すべては、明日で分かる」


その言葉に、背筋が冷えた。


(……どういう意味?)


問い返そうとした、そのとき。

扉の外から、ノックの音が響く。


「お嬢様、失礼いたします」


侍女のアリスの声。一瞬だけ、現実に引き戻される。


「……どうぞ」


返事をすると、扉が開く。


「明日の式典の準備が整いましたので、ご確認を――」


その言葉を聞いた瞬間、心臓が、強く跳ねた。


(……来る)


逃げられない“その日”が、すぐそこまで来ている。

断罪の日。私は無意識に、ペンダントを握りしめた。


熱い。まるで、何かを訴えるように。

視線を上げると、シアがこちらを見ていた。

何も言わない。ただ、静かに、見つめるその目だけが、やけに深さを帯びていて――


どこか、“こちらを見ていない”ように見えた。

 

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