第六話 「リファーナ・エス=サラディア」
※ 本作品は、一部に生成AI(ChatGPT&Gemini)を活用して構成・執筆を行っています。設定および物語の方向性、展開はすべて筆者のアイデアに基づき、AIは補助ツールとして使用しております。誤字脱字または展開の違和感など、お気づきの点があればコメントをいただけると助かります
礼拝堂は、ザックスファード大学の広大な敷地の一角、校舎の奥まったところにある。
学術機関であるはずの魔導学校に、これほど荘厳な礼拝堂が存在しているのは、我ながら少々不思議に映る。しかし、その背景には外交的な事情が絡んでいる。
ヴァルモン王国が南方から取り入れた宗派、その教義に基づいて建てられたこの礼拝堂は、私の母国であるサラディアの建築様式も取り入れている。
石造りの外壁が陽光を浴びて淡く輝き、蔓草や生命の樹の細やかな装飾が施されているのを見ると、不思議と心が落ち着く。
本国の巨大な神殿には及ばないが、それでもこの規模の礼拝堂は他国では稀有だ。開放感に満ちた内部の空気に、私は呼吸に意識を向ける。
礼拝堂の奥、窓から差し込む静かな光の中で、私は祈りを捧げていた。三つ編みの長髪が胸元へと流れ、動作に合わせてそっと揺れる。深い夜の帳のような紫の髪を、私はずっと受け入れきれずにいた時期があった。けれど今は、神が与えてくださったこの姿に、ようやく意味を見出せている気がする。
目を閉じたまま、瞼の裏で現状を見つめ直す。
わが身に迫る刃は、今も研がれている。
十五年前、火神を信奉するパルディア大教国は、革命を経て国が分かれた。私の母国であるサラディアも、そのうちの一つにあたる。
現在は【パルディア諸邦】として他国に認知されている。王国や都市国家といった多極化と対立の続く構図は、諸外国の代理戦争にまで発展し、混迷の一途をたどっている。
神権政治に対する不満が端を発した形だったが、革命後も信仰は民の心に根を張っている。信仰なきパルディアなど、考えられるはずもない。
問題は、各都市や国々の上層部にある。私の父――国王は、その渦中にいる。
私は、知っている。再び内戦が起これば、父は死ぬ。私もまた、死ぬ。
予測ではない。私は未来を経験した。
一度目の人生。私は今と変わらず、この大学に留学していた。父が、私の安全のためヴァルモン王国に滞留させていた。そのために、祖国の内情へ干渉する術を持たなかった。
父の死を知らされたのは、全てが終わった後だった。『国内が安定したら迎えに行く』という書状が、最後となった。
その後、ヴァルモン王国でも混乱が起こり、私は半ば強制的に祖国へ送還された。
そして――父と敵対していた者の手により、命を奪われた。
だが今、私はこうして生きている。火神の奇跡によって、あの日から五年前に戻ってきた。最初は、酷く動揺した。けれど、すぐに理解した。
これは試練であると。再び生を与えられた意味は一つ――来たる未来を乗り越え、真なる生を全うせよという神意。
目覚めてからの一年、つまり留学が始まるまでの間に、できる限りの手立てを講じた。
他国の有力者や指導者への根回し、同盟国への挨拶回り、旧体制と新体制の調整…………手は尽くしたはずなのに、未だ生存の道へ確信を持てない。
やはり、父や私を葬った存在を突き止めなくては。どの国、都市が刺客を送ってきたのかはわからない。命を奪われたとき、暗殺者は一切見ていない。気づいたら喉に刃が通っていた。
警告や進言は、父に何度か申し上げました。父は耳を傾けてはくれたものの、具体的な行動には繋がっていない。抽象的な危機の予言では、説得力に欠ける。
このままではいられない。また同じ未来を繰り返してしまう。たとえ二度目の死を迎えたとして、再び奇跡が起こる保証は、どこにもない。
未来を変えるには、助力が要る。
中途半端な人物では駄目だ。絶対的な影響力を備えた、歴史すら歪めてしまうほどの存在が求められる。
候補は、ただ一人。
アメリア・ド・ヴァルモン。ヴァルモン王国第一王女。歩く災害。歴史の異端。数々の異名を持つ少女。
一度目の人生では、彼女と関わらなかった。奇行を生業とする人物とは距離を置く。王族として当然の危機管理。今もその考えが消えたわけではない。
しかし、背に腹は代えられない。悪しき運命を打破するには、爆弾でも嵐でも呑み込む覚悟を持たなければならない。彼女の影響力は既に何度も見た。体験した。混乱の最中にある南方を、ひっかきまわしてくれるかもしれない。
慎重に進めなければならない。無遠慮に『助けてください』と言えば、母国がヴァルモン王国に頭を下げたという既成事実を作ってしまう。外交とはかくも難しい。最善は、アメリアと個人的な友誼を結ぶこと。彼女が自然と南方へ目を向けるように誘導する。
とりあえずは、第一王女と接触する機会に恵まれないと始まらない。学科の違う彼女は休憩時間を狙わなくてはならない。しかし、分ごとに移動する存在を、捕えられるはずもない。
茂みの虫より、肩の虫。捕まえやすい場所に誘い込む努力を。
王女を、物理的にこちらへ招かなければならない。
「……願わくば、火よ。試練を与えたまうは良し。されど、燃え尽きぬ希望の芽吹きを、どうか導きたまえ」
寸分違わぬ詠唱とともに、祈りを捧げる。パルディアでも最古の祈りである、《灰の導き》。
この魔法は、特定の相手を誘導したい場所へ連れてくる。
と、記述されてはいるが、その効果は甚だ疑問視されている。研究者の間でも見解が分かれており、唱えたから相手が目の前に現れた場合と、唱えずともやってきた場合との判別が難しい。『これに頼るくらいならば、会いに行った方が断然早い』と、現在では見られている。
このような魔法に縋りたくなるほど、追い詰められているわけではない。ただ、成果のない日々に費やすくらいならば、何かしらの変化を求めたかった。
詩文に呼応して、燭台の炎がわずかに脈打つ。詩律魔法。わずかながら、火神は私の祈りを聞いてくださっているのだと感じる。そのはず。気がする。
私は神に、運命に、そしてまだ見ぬ未来に祈った――その時だった。
礼拝堂の重い扉が、ゆっくりと音を立てて開いた。
入ってきたのは、赤毛を靡かせる少女。
「神様、かっみさま。お願い聞いてちょうーだあい?」
アメリア・ド・ヴァルモン、第一王女。
散歩のついでに寄った、といった振る舞いで、彼女は祭壇の前に座り込んだ。両手を絡ませ、右に左に身体を揺らしながら、視線を彷徨わせている。まるで神聖な存在を肉眼で探しているかのようでした。
静寂に包まれていた礼拝堂の空気が、あっという間に彼女の雰囲気で満たされる。
そして、私は思った。
……今!?