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野球と酒と女と男  作者: 熊出


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10/15

クライマックスシリーズ初戦

 DeNAとのクライマックスシリーズの初戦がやってきた。

 巨人のキャッチャー石動は俄に緊張していた。

 DeNA戦は苦手だ。どうしても比較される。


「お前の同期は豊作だなあ」


 呆れ混じりに秋田に言う。

 秋田に三神に、今年は佐古田に荒川。

 オールスタークラスがポンポン出ている。


「激戦続きだったんでね。ちょっとした同窓会ですよ」


 涼しい顔で言う。

 二年目にして首位打者。

 普通高卒の選手というのは一軍クラスの球に対応するのに苦労するのだが。

 そこをポンと越えてくるのがこの世代の怖いところだ。


「俺も歳を取ったかね」


「キャリアハイじゃないすか、石動さん」


 そう言ってポンと肩を叩かれる。


「生意気だ」


 そう言って、相手の背を軽く叩いた。

 同時代ナンバーワン捕手が同リーグにいる。

 それは中々のプレッシャーだ。


 抑えてやらなければと言う思いもある。

 その前に圧倒される。その眩いばかりの才能に。

 自分も上澄みだからわかる。

 規格外と言うやつは。


 秋田も、三神も、この先何処まで伸びていくのだろう。

 多分、メジャーには行くのだろう。

 そんな確信がある。


 試合が始まる。

 打席に先頭打者の小林悟。

 一時期二軍に落とされていたが、最近俄に調子が良い。

 ソフトバンクは中堅からベテランまで躍動しているが、その他のチームに若芽の萌芽がある感じ。

 それぞれのチームにニュースターがいる。


 遅れてられんな、と、ストレートのサインを出す。

 悟は慎重に配球を伺うタイプだ。

 初球ストライクを取りたい。


 ストレートが内角にいった。

 ストライクのコールがされる。


(よしよし)


 返球する。

 一年目とは言えレギュラーに出てくるような選手は対策されるものだ。

 二球目。

 もう一度内角を要求する。


 鈍い音。

 秋田が軽快に取って送球する。

 小林は一塁を踏めずに終わった。


 順調に一回を終え、次の回にやってくる。

 五番、三神の打順が。

 今年の打撃三部門ではいずれも五位以内に入る強打者。

 今の三神はルーキーではなく、紛れもない脅威だった。



+++



 秋田が出塁し、盗塁を試みた。

 三神も見せ場だとばかりに投げる。

 結果、際どいところで秋田の進塁。


(癖、掴んだな)


 相手投手は大卒七年目の波多野。

 秋田にとっては相性が良い。

 秋田は波多野相手に六割の打率を誇っている。


 宛ら、波多野キラーと言えた。

 それでも波多野を投入しなければいけない。

 どちらのリーグも首位以外はベンチの層がそこまで厚くない。


 有望な選手はどんどんメジャーへ行く。

 そういう時代だ。


 さて、チャンスだ。

 初回からチャンテが鳴り響き始める。

 打席は二番二塁の堀川。


 スライダーを読んでいた。

 高々と上がった打球はセンター小林の守備範囲内だった。

 そもそも、ストライクゾーン外だった。

 飛ばせというのが無理というものだ。


「あの守備範囲も脅威だなあ」


「新人だろ? 小林悟って」


「若手がどこも生えてきてんねえ」


 同僚達が会話する中、四番の斎藤がすっと立ち上がった。


「今年で俺は卒業なんで、ちょっくら打ってきますわ」


 卒業。

 ポスティング移籍によるメジャー挑戦だ。

 最近はそういうのも珍しくなくなってきた。


 油が乗っている時期に海をわたり、若い内に適応する。

 それが、日本球界のサイクルとなっている。


「期待してるよ」


 石動は苦笑交じりに言う。

 しかし、斎藤に出番が回ることはなかった。


 斎藤にも雰囲気がある。

 打ってくれる。そんな期待感がある。



+++


 四番に打たれた。

 浮いた球だった。

 今年最多勝を取った選手だが初めてのクライマックスシリーズに浮足立っているのだろうか。

 やや不安。


 さて、三神だ。

 雰囲気がある。

 筋肉の尽き方が普通の二十歳ではない。

 三十本ぐらいは打つだろう。

 打ち続けるだろう。

 そういう選手だ。


「三神ぃ、お前ポスティング取得まで何年だっけ?」


 返事はなかった。

 聞いちゃいない。

 集中しきっているらしい。


 不味い、と思った。

 呑まれる。

 その雰囲気に。


 投手が怪訝そうな表情をしていたので我に返ってサインを出す。

 内角へのストレート。


 澄んだ音がした。

 球は放物線を描いてスタンドへ。

 それでピッチャーは崩れた。


 安易に強打者の内角を要求するべきではなかった。

 これが、差か。


(さっさとメジャー行ってくれ。台風だ)


 ぼやき混じりにそう思った石動だった。



+++



「打撃五傑に入る捕手は確かに脅威だ。だが、我々にも斎藤がいる」


 一試合が終わった後、監督はそう締めくくった。

 しかし、斎藤と秋田の奮闘も虚しく、巨人は負けた。


(こっから先、あいつと比較され続けるのか……)


 あれは規格外だ。

 そう思う。


 しかし、それも慣れたこと。

 自分より明確に格上に見えた選手は何人も居た。


 それでも、一軍のレギュラーをもぎとっている。


「斎藤、お前がオフに通ってたっていうジム教えてくれよ」


 涙を拭う斎藤の背を叩きながら言う。


「石動さんじゃ無理っすよ、小柄だから」


 生意気を言う。苦笑する。


「吉田選手の例もあるからわからんだろ。長打が増えるのは良いことだ」


 オフか。

 今年も終わったな。

 そう思った。

 DeNAは首位阪神とのセカンドシーズンへと進む。


 三神は大暴れするだろう。

 そう思った。



つづく

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