自己犠牲
男子の寮には奇行に走るものもいる。
通路に何故か最上級生の先輩が裸で寝ていた。
それを無視してある部屋の扉をノックする。
「はいはーい」
「よっ、コレ、お前のじゃないか。さっき洗面所で見つけたんだけど、この間も持っていたよな」
そう言って自分は薬を渡す。そいつは友人で小柄で天使のようにかわいいと評判なヤツだった。
「あっ、忘れていたよ。ありがとう」
「これから混む前に風呂に行くけど、一緒にいくか?」
「わかった。ちょっと待って」
そうして一緒に風呂に行く。
そこにはまだ最上級生が全裸で横たわっている。
「そういや、先週も全裸を見たな」
「その前にもいたよ。いい気味だよね」
「お前……。そんなにインドカレーを恨まなくても」
インドカレーで緑を選んだヤツでもある。
「恨んではいないよ。今日も食べに行ったわけだし。自業自得だよ」
「……何が? まあいいや。さっきの薬って下剤だったよな。便秘なのか?」
「いやいや。インドカレー食べたら早めに出しておかないと危険でしょ」
「ああ、そういうものか。自分は被災しなかったから分からないけど」
皮膚に着くだけで、しばらくすると痛みが出て来る危険物だから、分からなくもない。
だが、自分は出口での被災を免れた。運がいいのか、運がつかないから、なのか。
「消化能力がすごいのかな。でもボクはおかげで仕返しができたよ」
「仕返し? おっ、誰もいない貸し切り状態みたいだな」
風呂場に着いた。早風呂にするとゆったり浸かれて気持ちいい。この時間だとまだ入りに来ている人が少なく貸し切り状態がいい。後になると湯は濁るし、人は多いし、コミュ障気味の自分には荷が重い。
だから風呂は早く来るようにしていた。
自分たちはさっさと着替えて風呂場へと行く。
自分が座ったら、隣に友人が来て、いきなりすっ転んだ。
「ちん〇ん丸出しだぞ。ほれっ、タオル。って椅子に血が付いてるぞ。怪我したんじゃないのか?」
「ありがとう。ごめん、それ、痔だよ。こんなところでなんだけど、正直に言うと、あの最上級生たちが言い寄って来てて迷惑していたんだ。だから三万円で誘惑して、懲らしめてやった代償だよ」
「えっ、お前ってそっちの趣味」
ザッサァーッ
自分は大げさに後退る。
「ボクはノーマルだよッ! あの人たち、男子校だったらしくて男の娘にしか勃たないようで、さ。カレーといい、先輩風吹かせて関係を迫ろうとしたり、許さない。だからボクは彼らの望むようにヤらせてあげたんだ。それで先の二人はEDになったらしいよ。さっきの廊下にいた先輩もそうなったら、いいざまだよね」
友人の顔がまるで悪魔のようだった。
「えっと、つまりあの先輩たちの奇行はお前のせいで、今までの仕返しに自分を犠牲にしてまで地獄へ落とした、ってことでいいのか?」
「うん、そうだよ」
かわいい顔してえげつない。いや、かわいいからこそ、ハニートラップができるのか。
インドカレー、下剤、三万円で誘惑。うわぁ、自分には出来んな。
インドカレー、また食いたいとは思わないし。
下剤、飲んでも被災しないし。
誘惑なんて、とてもとても。
でも、話を聞く分にはスカッとしたわ。
先輩に逆らえない、っていう立場が弱いものから搾取しようと、また、いじめて揶揄って自分たちを使ってストレスを発散していたんだろう。
それを逆にお金を毟って、希望を叶えて、その上で地獄へと叩き落とす。
上げて落とす。なんという強力な一撃だ。
だが、この上なく、気持ちいい話だった。
「まぁ、先輩たちにとっては、まさに、ざまぁ、だよね」
「要はパワハラだからな。それを逆にやり返すんだから、確かに、ざまぁ、だな」
「あっ、君を狙っている人もいたから、頑張ってね」
「えっ……」