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翌日の被害

 学生の時、インドカレーを先輩が奢ってくれた。


 ある日、先輩が週末の予定を空けておくように伝えられる。

 「何があるんですか?」と気軽い先輩に声を掛けるも、いつもは親切にいろいろと教えてくれるにもかかわらず、その時は口が堅く、珍しくも答えてくれない。

 友人に話すと、友人たちも同様に週末、時間を空けるよう言われていたらしい。

 そして、先輩にどんなことするのかを訊いたけど、それは友人たちの情報網も同じ結果だった。

 先輩たち全員に、どうやら緘口令が敷かれているらしい。


 暗雲が垂れ込める雰囲気の中、新入生である自分たちは身動きが取れなかった。

 それは脱走を計った人物が捕まったのだ。

 寮生である自分たちは、簡単に監禁されてしまう。だが講義もある。しかしそれは車で送迎されてまでの監視が付いていた。

 通常、学生はGWまでは真面目であることが多い。出席率が高かった。

 だからこそ、まさかそこまでするとは新入生たちは予想だに出来なかったのである。

 先輩たちは本気であった。

 逃げ道はない。人数でも負けているのだ。逃げても捕まるのが落ちである。

 新入生たちは覚悟を決めるのだった。


 週末、新入生たちは戦々恐々としながら集合場所へと集まった。

 先輩たちは車を用意して待機している。

 その車へと新入生は分乗していく。

 道中、先輩は教えてくれる。ただメシを奢るだけだという。

 自分は到底、その言動を信じることは出来なかった。

 何かがある。

 それは確かだろう。

 先輩は告げる、伝統を守っているだけだ、と。


 車中で緑と赤の選択肢が用意される。

 自分は緑が好きだったが、他が赤を選んだため、自分も赤にした。

 仲間の雰囲気や先輩の表情などを読まない人物も中にはいたのだ。

 その者は堂々と緑を選択した。勇者と呼べるかもしれない。先輩たちが褒め称えている。

 それこそが怪しい。

 緑が外れなのだろう。問題は赤も外れの可能性があることだった。


 かなり遠くまで移動した。

 インドカレーのお店である。

 貸し切りというわけではないが、これだけの大所帯だ。かなりの席を占めることになる。

 香りだけでスパイシーな匂いが、鼻腔を擽る。

 いや、正しくは刺激する、だろうか。

 ツン、とした強烈な香りに鼻がやられそうになっている。

 ルーを完食するまでは帰さない、とのこと。

 ご飯のおかわりは自由。

 つまりはそれだけ辛い、ということだろう。

 窓の大きな店内は明るく、色彩鮮やかだった。

 カレーというと茶色とかそういうイメージであった自分。

 しかしそれは赤かった。

 つぶつぶしたものも見えるルー。

 ご飯に薄くして頬張る。

 コップの水が手品のように一瞬で消えていた。おかわりを注ぐ。

 小食だった自分がおかわりをせざるを得なかった。

 満腹を通り越す勢いである。


 緑を頼んだ者は、赤くなってトイレに行き、青くなって食べていた。

 最後は白くなって横になる。いろいろ忙しい奴である。


 峠は越した。そう新入生たちは思ったのである。


 先輩たちの計画はそれで終わりではなかった。

 翌日、それは効果を発揮する。

 トイレの周りに何故か死屍累々の惨状が拡がっていたのだ。

 大量に腹に入れたなら当然出す。

 それも刺激物を、だ。

 それは皮膚に付着するだけで痛みを伴う強烈な危険物。

 内臓のように触覚が薄い場所ではなく、外側の皮膚となる、その出口に被害が発生する。

 入り口で被害が発生するのだ。もちろん出口でも被害が起こる。

 その被災者がトイレの周りにいたのだった。

 だからと言ってトイレに行かないわけにはいかない。

 我慢できるわけでもないのだ。

 分かっているからと言って防ぎようもない選択だった。


 しかし自分は勝った。被災しなかった。



 そして中にはカレーに病み付きになった者がいる。週一で通っているそうだ。


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