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王宮の青い薔薇の娘 計画 7

あの日以来、学園長は私を授業開始前に抱きしめているが、壊れ物を扱うように優しく抱きしめてくれている。


あの日の私の真意が伝わっていたようで、行動がエスカレートしないように学園長も我慢してくれているみたいだ。


たまに、学園長の葛藤が見えて、私の頬に両手を当てて難しい顔をしてジッと見つめていたりする。


私も、学園長の我慢に答えるように、フラッっとしそうな所を耐えている。


でも、一度だけ誘惑にお互いが負けてしまい唇が離れられなくなって危険な状態になった時があった。


授業終了の鐘の音で、何とか二人とも正気に戻ることが出来ました…。


無駄にスキルが高い初心者と、スキルが無い経験者(前世)が合致すると大変危険だと学びました…。


二度目は無いようにしないと…。




◇◇◇◇◇◇◇




そんな節度と情熱の間で戦っている私の元に、お父様から手紙が来た。


宮廷魔術師長ワイアット・ルクレールの自宅に訪問する日にちが決まったとの事だった。


魔術師長は、お母様の師であると同時に、学園長の師でもあったらしい。


お母様が言うには、学園長には小さい時からお母様以上の才能が有り、この才能を隠していることにいつも(いきどお)りを感じていて、先王に王子として認めてはどうかと言っていた唯一の人だったそうだ。


私達の関係を、応援してくれる可能性は高いのではないかという事だった。

やはり、イライザ嬢と同じく周りから固めていく戦法をお父様は選んだみたいだ。



私は、お父様の手紙の事を授業前に学園長に伝えた。



「お父様とフローラさんが訪問する予定になっていますが、私とフローラさんに変更してもいいでしょうか?」


「…どうしてですか?」


「やはり、二人の事ですし、お父様は魔術師長と面識が無いですが、私は昔から知っています。教師になってからも魔術師長には色々と気を使っていただいてましたし…。私がフローラさんに「聖女の魔法」を、教えていることは皆が知っています。それの報告を魔術師長にしたいといえば、周りの人間も不思議に思う事は無いでしょう」


「……お母様は、魔術師長は味方になってくれそうだと思っているみたいですが、学園長はどう思いますか?」


「…確かに、魔術師長は私の魔術の才能を買ってくれていて、私を正式に王子と認めるべきだと先王に提言した唯一の人ですが…。彼自身は一度も結婚をしていませんし、道徳的にもどちらかと言うと厳しい人です。すんなりと味方になってくれるかは…」


なるほど…。独身という事は結婚観も良く分からないし…お母様ほど楽観視はしてないという事か…。


「でも、王や王太后や宰相に比べたら、格段に話がしやすい方ではあります」


…そう考えたら、魔術師長と話すのはお父様より学園長の方が良い様な気がする。


「では、お父様には学園長と行くことにすると伝えます」


「魔術師長には私が連絡をしておきますので…」


「よろしくお願いします」


私がそう言うと、学園長は私をそっと抱きしめた。いつもより優しく抱きしめる学園長に私は彼の不安を感じた。


魔術師長も彼の数少ない味方だったはずだ。

だからこそ味方になってくれるかもしれないし、逆に軽蔑や落胆をされるかもしれない…。


私のせいで彼がまた何かを失う事になるのは私も怖い…。


「…フローラさん、授業を始めましょうか」


そっと私を離して、穏やかに微笑む彼を私は切なく思った。




◇◇◇◇◇◇◇




そして、宮廷魔術師長ワイアット・ルクレールの自宅に訪問する日は来た。


今日は休日だ。魔術師長の自宅へはソルが案内してくれる事になっていて、朝の10時に学園の校門の前で待ち合わせる事になっている。


表向きは、学園長と私が魔術師長に「聖女の魔法」の授業の内容や進展を報告するという事になっている。

なので、私は制服で、学園長もいつもの格好だ。


門の前には、学園長がもう来ていた。


「おはようございます、学園長」


「おはようございます、フローラさん」


朝の挨拶をすると間もなく、馬車が門の前に停まりソルが中から出てきた。


「おはようございます、どうぞお乗りください」


馬車に乗り込む。ソルは一人で座り、私と学園長は二人で座った。


「養父には、僕なりの客観的なお二人の様子を話しています。そして、僕はお二人に協力したいという事も話しました」


ソルがそう言うと、学園長が返事をした。


「そうですか、ありがとうございます。貴方の誠意に答えられるようにしなければいけませんね」


私も続けて言った。


「ソルさん、いつもありがとうございます」


「いや、そうしたいからしただけだ。気にしなくていい」


いつものように、サッパリとした優しい言い方をソルはした。




◇◇◇◇◇◇◇




魔術師長のお屋敷に着くと、私達は応接室に案内された。

帰りはまた3人で馬車なので、ソルはそれまで自室に待機しているらしい。


通された応接室のソファーに二人で並んで座っていると、ワイアット・ルクレール宮廷魔術師長が入ってきた。


「今日はようこそ。二人ともお久しぶりですな」


私達も魔術師長に挨拶を返す。


「今日は「聖女の魔法」の報告という事ですが、どうですかな?」


「フローラさんには「聖女の魔法」の発動条件などを教えました。新しい「聖女の魔法」は、発動していません」


一応、最初は表向きのお話をするのかな…。


「そうか。クリストファーの教え方はいかがですか?」


「とても学びやすく、魔法学科の授業より早く進んでいます」


「なるほど、さすがクリストファーだ」


「ワイアット先生、今日は私達の事でお話があるのですが…」


「懐かしい呼び名だな。その話を聞く前にフローラ嬢に聞きたい。ソルと婚約してはどうだ?」


「えっ!?」


ソルから話を聞いてるんじゃないの…?


「フローラ嬢とソルなら王も私も諸手(もろて)を挙げて賛成するのだがな」


…ちょっと、ちょっと。


「…ありがたいお話ですが…ソルさんに聞いていると思いますが、私には心に決めた方がいるので…」


聞いてますよね?


「ソルはフローラ嬢を()いているようだがな」


…学園長との仲を反対してるって事かな…。でも、私だって引けない。


「ソルさんは、私と学園長との結婚を応援していると(おっしゃ)っていましたが? 聞いておられませんか?」


もう、ストレートに言っちゃおう。


「この国では叔父と姪の結婚は認めていないと思ったが?」


「私の父は男爵のフェイ・ベフトンで母は平民のエリー・ベフトンです。クリストファー・メイヤー学園長とは親戚関係にありません」


「…貴女の母上はエレアノーラ王女で、クリストファーは先王の息子ですぞ」


「それを公にしていただけるのですか?」


これでどうだ。


「…………」


魔術師長は黙った。


「ワイアット先生、私が永久に王子と名乗る権利を放棄したのは知ってらっしゃるでしょう。なので、私とフローラさんは叔父と姪ではないんです。公には…」


魔術師長は、黙って私達二人を見つめた。


「……そうですな。少し、意地悪が過ぎましたか……。元々、私は弟子であるエレアノーラ王女とクリストファーの幸せを望んでいる。フローラ嬢の父上から、お手紙が来ていた時点で、王女も二人を認めているのは分かっていましたからな。後はフローラ嬢の覚悟が知りたかったのですよ」


私の覚悟?


「私の覚悟は伝わったと思ってよろしいのですか?」


魔術師長は、優しく微笑んだ。


「フローラ嬢、貴女は王女に瓜二つだ。だが、性格は全く似ていないようですな。王女は立て板に水のように勇ましく言い返したりしない。まあ、好きな男性への情熱は似ているのかもしれませんがな…フローラ嬢、貴女は強く賢い。自分の選択した運命に負けないでしょう」


そう言うと、魔術師長は学園長の方を向いた。


「クリストファー、お前の人生はいつも困難が付きまとうな。私は師として先王にお前を王子と認めさせることが出来なかった。お前は「聖女の祈り」で、自分の力で王子となれたのに放棄してしまうのも止められなかった。せめて、お前を養子にしたかったのだか、それも叶わなかった。今度こそ、お前の助けになりたい。どうして欲しい?」


「では、ワイアット先生、フローラさんと私の結婚に、ご協力していただけませんか?」


「分かった。お前の望みを師として叶えよう」


…良かった。魔術師長は、今も昔も学園長の味方でいてくれた…。


「ありがとうございます、魔術師長」「ありがとうございます、ワイアット先生」


私達は同時にお礼を言った。


「礼は言わなくていい。クリストファー…お前の事はいつも心にあった。お前ほど高貴で魔術の才能に溢れた人間を私は知らない。だからこそ、お前に相応しい場所を与えたかった。だが出来なかった。ならば、お前が望む事を人生の終盤に叶え悔いなく死にたい。私とお前の願いが叶う日まで、お前は礼を言う必要はないのだ…」


「…もし、叶わなくてもワイアット先生に感謝する気持ちは変わらないでしょう。先生は私にとって素晴らしい師です。昔も今も未来でも永遠に…」


…二人の長い時間と思いが溢れていた。私は胸がいっぱいになった。

そして、ソルのサッパリとした優しさは魔術師長譲りなんだろうと思った。


エイブラム先生と同じで、魔術師長も学園長の理不尽な運命に憤っていたんだ。

しかも魔術師長は、ただ一人先王に王子と認めさせようと動き、叶わなかった。

さらには、お母様を救うために学園長が発動した「聖女の祈り」を目の前で見ていたのに、彼がその名誉を捨てるのを止められなかった…。


魔術師長は、お母様の幸せも考えてくれていたのだろう。

でも、それ以上に、困難な選択ばかりを与えられる彼の運命に師として心を痛めていたんだろう。


私との結婚も、選択肢としては最悪だ…でも、学園長を小さい時から見守ってきた魔術師長だからこそ私達の…いや学園長の選択を認め味方をしてくれたんだ。


魔術師長は自分と学園長の願いが叶う日まで礼はいらないと言った。

やはり、王が私達を認めてくれるかどうかは今の時点では分からないという事。


でも、私も学園長と同じ気持ちだ。


どんな結果になろうとも、魔術師長に感謝する気持ちは変わらないだろう。


魔術師長が言っていたように、彼の人生は困難が付きまとう。

だからこそ、彼の味方が、彼の幸せを願ってくれている人がいてくれる事が、とても嬉しい。






温かい気持ちのまま、私達は、ソルと一緒に学園まで帰った…。


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