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逃亡、魔防、ラプラス

「『テレポート』!」


 現在はブック片手に屋根の上を爆走中。

 昨日親父が使った転移魔法を使えば簡単に逃げ切れる。

 そんな風に考えていた時期が俺にもありました。


「『テレポート』!」


 このテレポート、飛べる距離みじかっ!

 いまいち飛距離がわからんけど、多分30メートルも飛べない。

 その上目に見えない所へも行けないから壁も越えられない。


「『テレポート』!」


 そんな訳で屋根の上を走りながら隙間をテレポートで飛んでる。

 1階建ての建物ばかりだし、屋根も平べったくて走りやすい。

 重装鎧の騎士が登ってこれないのもグッド。

 問題は……。


「『テレポート』! いつまでついてくんだよ! ほら、あっちの騎士と遊んでな」

「やだ」


 そう、幼女がついてきてること。

 アホみたいな身体能力で屋根に上った挙句、連続テレポートにも楽々付いてきやがる。

 屋根から飛び降りて空中でテレポート使ったり、フェイントかけてもダメ。


「『テレポート』!」


 俺が幼女と一緒にいる所を見た騎士は倒されてるから、ここで逃げ切りさえすれば後で親父に頭下げて弁解してもらえりゃ何とかなるかと思ったんだけど。

 テレポートで屋根の上から飛び出さない俺と違って、幼女はそのまま走ってくるから目立ってしょうがない。

 下の通りでは騎士がコイツを目指して追いかけてきてるし、隠れても無駄だだろーな。

 というか次に一緒にいるところ見られたらアウトだろ。コイツ言う事聞いてくれないし。


「『テレポート』! げっ!?」

「オイ、何やってんだ!」

「親父っ!」


 屋根を走ってたらいきなり親父が現れた。

 そりゃ今は迷ってるけどギルドの方に向かいたかったからありがたいよ?

 でも今はダメだろ!


「その嬢ちゃん、例の手配書の奴だな。お前……」

「ちげーよ! 俺はこの幼女と関係ねーからな! なんか懐かれてるけど!」


 やっぱり疑ってきやがった、これで何度目だよ!


「ンなことはわかってるよ。話は後で聞く、ついてこい!」

「……疑わねえの? 『お前も仲間だったのか!』とか」

「またなんか誤解受けるようなことでもしてきたんだろ?」

「やりたくてやったんじゃねーよ」


 なんだ、思ったより話がわかるじゃん。

 昨日の夜のせいか?いや、アーニャちゃんが絡んでないせいかも。


「いいから話は後だ。さっさとここを……」

「それはどういう事だ」


 ―――◆――◆――◆――◆――◆―――


「え?」


 唐突に知らない声が割り込んできたのでそちらを見ると、一人の知らない男が屋根の縁からこっちを見下ろしていた。

 今まで見た騎士と違う軽装の鎧に身を包み、片手に持った剣を突きつけている。

 歳は30過ぎくらいの青髪の渋いイケメンオッサンだ。


「もう一度聞こう、半獣の勇士グレアム。貴殿は我等を裏切るのか?」

「き、騎士団長!?」


 親父が驚いてる。

 この青髪オッサンが騎士団長?


「先の大戦で敵を裏切り、敗戦直前の我等に勝利をもたらした功績は忘れていない。だが、また裏切ると言うのなら――」

「……」

「貴殿の娘はおろか、この街の獣族はどうなるかわかっているだろうな?」

「ぐっ……」


 親父がこちらを一瞥した後、青髪オッサンに譲るように脇へと移動する。

 あれ?これヤバイんじゃね?

 幼女!なんか静かだけど幼女どこいった!?

 ってなんか蹲ってる!アイスが腹に来たか!?


「さて、そこの賊」

「ま、待った! 俺は関係ねーぞ! この幼女が全てやりました!」

「醜いな、仲間割れか? ……言い訳は四肢を切り落とした後に聞こう」


 やばい、攻撃が来る!

 俺は幼女のわきの下を掴んで差し出した格好のまま――


「『テレポート』!」

「ぬ!」


 テレポートで隣の屋根に飛んだ!

 って、ああ!幼女持ってきちゃった!

 ていうかこの子動かないんだけど、さっきの元気はどこいったの!


 俺は幼女を抱き起こして顔を見てみる。


「う…………あ…………」


 ……なんかめっちゃ苦しそう。

 頭痛でもしてるのか両手で抑えたまま苦悶の表情だ。

 と、赤く染まっていた髪が元の色に戻っていく。

 え?もしかしてドーピングタイム後の副作用?


「逃がさん」

「!?」

「『アイシクルプリズン(氷の檻)』」


 幼女の変化に気を取られていたら、後ろに近付いてきた青髪オッサンからスキルを食らう。

 冷たい吹雪の渦が俺と幼女を包みこみ、あっという間に半身を凍結させる!

 そして氷は砕け、細かな結晶のきらめきを残しながら霧散する。


 俺には何のダメージもない。


「え?」

「なんだと!?」


 なんか驚いてる青髪オッサン。


「く、ならばこれだ! 『ハイドロランサー(水の槍)』!」

「ちょ!? 『テレ――」


 何ともないからって呆けてたら次のスキルがきた!

 テレポートは間に合わない!


 虚空から現れた大きな水球から複数の槍が射出され俺を貫く!

 と思ったら目の前で弾けて地面に落ちる。

 その後も立て続けに水の槍が射出されるが、どれも俺に届く前に弾けて地面に落ちる。

 こちらに被害はない……いや、全身びしょ濡れになった。

 なんなの?嫌がらせなの?


「何してんの?」

「くっ……」


 青髪オッサンは悔しそうに俺から距離を取る。


 これはあれかな。

 俺魔法効かない系?

 魔法の資質が高いってのが魔法攻撃力と魔法防御力に作用してる感じ?

 これは……チャンス!


「『マジカルバレット』!」



 青髪オッサンに向けてスキルを放つが簡単に回避される。

 今は短杖ワンドを持ってないから透明バレットなのに!


「『マジカルバレット』! 『マジカルバレット』!」


 連続で放つもまた回避。

 くそ、こうなりゃぶっつけ本番だけど――


「『ラプラス』!」


 使った瞬間時が止まったように世界から音が消えた。

 いや、止まってはいない。時間の流れが極端に遅くなったせいで止まったように見えるだけだ。

 そしてこちらが何もしていないのにゆっくりと動き始める青髪オッサン。

 先ほどマジカルバレットを回避したように軽い動きで軸をずらす。

 俺はそれに向かって、


「『マジカルバレット』!」


 スキルを放ち、棒立ちの青髪オッサンに命中すると同時に世界に音が戻った。


 ―――◆――◆――◆――◆――◆―――


「ラプラスだと? まさか使えるのか?」


 音の戻った世界で青髪オッサンは親父を睨む。

 その姿には何のダメージもない。当たり前だ。

 俺がラプラスを使う前の場所から動いてないし、俺もまだ発射してないからな。


「オイ!」

「『マジカルバレット』!」


 俺に声を掛ける親父を無視してもう一度スキルを放つ。

 それをまた青髪オッサンが軸をずらして回避、したところで。

 俺が今放ったマジカルバレットが消えて青髪オッサンの目前に出現、直撃した!


「ぐああああっ!」

「! つ、使えたのか!?」


 青髪オッサンの苦痛に満ちた声と親父の驚いた声が重なる。


 ラプラス。それは未来を確定させるスキル。

 効果時間中に命中した攻撃は、効果時間が過ぎた後必ず命中する!


 っていうのは今知ったんだけど。

 だってヘルプには必中としか書いてねーしさ!わかりづれーよ!

 テレポートも転移としか書いてねーんだぜ!


 でも今はとりあえず不敵な笑みを浮かべとこう。

 ドヤァァ!

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