フューリー、アイテムブック、無双
え?ホームレスじゃなかったの?
よく見るとなんか凄い高そうな服着てるんだけどこの子。
ぼーっと顔を見てたら、前に垂れたフードがアイスに付きそうになってた
慌てて押し上げると、相手の顔があらわになった。
「おおぉ……!」
その瞬間、思わず俺はそれまでのことを忘れて感動していた。
以前会った時もボロ切れを頭から被ってたからよく見えなかったけど。
この子……耳が尖ってる!エルフ耳だ!
何故かエルフがいないんだよな、この街。
「すげー、エルフって初めて見た!」
と言うと元ホームレス幼女はアイスを食べる動きをピタッと止めてこちらを見る。
あ、あれ。なんか怒ってる?見世物扱いされたと思ったんかな。
「えるふじゃ、ない」
「え?」
「えるふじゃない!」
うおお、なんかいきなり元気になった。
声でけーよ。初対面の生気のなさは何だったのよ。
今は瞳に光がある。ていうかメラメラ灯ってる。
「ふゅーりーはふゅーりーだ!」
「フューリー? それが名前なん?」
「ちがう!」
どういうこっちゃ。
「えるふじゃない! ふゅーりーだ!」
「……フューリーってのが種族名なの? じゃあ名前は?」
「なまえはない! ふゅーりーはひとり! なまえはいらない!」
え、無いの?
子供特有の謎理論が激しすぎてわけがわからんぞ。
「ていうかいい加減自分でアイス持って……」
「おいそこ、騒がしいぞ!」
とか言い合ってたら見回りの騎士の一団に注意された。
今は事件があったらしいからなー。
こんだけ騒がしくしてたらそりゃ見咎められるだろう。
「どうした?」
「いや待て、そこの子供、手配書の奴だ!」
「何!?」
声を掛けてきた騎士達がにわかに殺気立つ。
え、まさか凶悪犯ってこの子?
「ちょっと、何やったの!?」
「しらない」
「しらばっくれるな! 白昼堂々と馬車強盗などしおって。盗んだ物を返し、大人しく縛に付け!」
おいおいやべーよ大事だよ。
ていうかリーゼちゃんは単独犯って言ってたけど、この子一人でそんな事したの?
幾らなんでも無謀じゃ……。
「うるさい」
……いきなり何の前触れも無く幼女が動いた。
素早い動きで一番声の大きい騎士に近付いて素手でパンチ!
それだけで重装鎧の騎士が10メートル以上吹っ飛んだ。
「は? え?」
「くそ! 応戦するぞ、殺しても構わん!」
「応援信号を上げろ!」
「「「「ファイアーボール」」」」
騎士数人が空に向かって火球を放つと、中空で爆発する。
残りの騎士たちは幼女と俺を取り囲んだ。
え、俺も囲むの?
―――◆――◆――◆――◆――◆―――
にわかに街中が騒がしくなる。
先ほどの火球を見て他の騎士たちも駆けつけてきてるんだろう。
「総員! 武器を持て!」
「「「「『アイテムブック ページ1、2、3』!」」」」
リーダー格っぽい騎士の声に合わせて他の騎士たちが一斉にスキルを発動する。
アイテムブック?
それまで腰に挿した剣だけだった騎士たちに被さるように、半透明の兜、斧槍、盾が出現し、すぐに実体化して装着される。
何それ俺知らないんだけど。
ていうかもしかしてこれ、ブック版のアイテムボックスか何か?
そういや親父も前に冒険者カード作る時、本のページ破いてカード出してたなー。
「次! 支援魔法……始め!」
「「「「『ストレングス』!
『バイタリティ』!
『ハードボディ』!
『ヒットレート』!
『アヴォイド』!
『インテレクト』!
『ブレッシング』!
『レジストスペル』!」」」」
俺が現実逃避してる間にも次々と自己強化をしていく騎士たち。
「ちょ、ちょっと待って! 俺は関係無い!」
「信用できるか!」
「何を話してたんだ? お前が手引きしたのか!」
「ならば自分の身は自分で守るんだな!」
これ完璧疑われてますわー。
あーあ、こんなのばっかりだな俺。
そりゃ凶悪犯と親しげにアイス食ってたらそうなりますよね!
ちなみにアイスは幼女パンチが炸裂した時に地面に落としてアリの餌になってる。
……くっそ、弁解するにも生き残らないと無理そうだな。
俺も自分に支援魔法をかけたいけど距離が近すぎる。
最初の内ならまだしも、斧槍を全員が持ってるし、ブック召喚して魔法かけてる間待ってくれると思えない。
かくなる上は幼女に頼るしかない……が、それだと助かっても名実共に共犯扱いになっちまう。
どうすりゃいいのよこの状況!
―――◆――◆――◆――◆――◆―――
「『ふゅーりーぶらっど』」
それまで棒立ちしてた幼女が、騎士たちの用意が整うのを見てから短くポツリと呟いた。
瞬間、髪の毛の白い部分がなくなり完全な赤髪に変化する!
それと同時に赤色の蒸気のようなものが全身からあふれ出す。
赤いスー○ーサ○ヤ人?
「『すとーん』」
続くスキルはストーンウォールの強化版のような魔法だった。
唐突に地面から無数の石柱が生え、騎士たちに不意打ちを浴びせる!
「ぎゃっ!」
「ごぼっ!」
「な、なんだこのスキルは……ぐあっ!」
「おごっ! せ、せめて相打ちに……がっは……!」
「うっわ、つえー」
あっという間に目の前に居た騎士たちは全滅した。
ご丁寧に俺は範囲外にしてくれたらしい。
「さ、さんきゅ?」
「あいすくれたから」
礼を言ったらいいのか迷ってるとそんなことを言われた。
アイスのお礼って言うなら揉め事に巻き込まないで欲しかったなー……。
「よし、俺は逃げるからじゃあな……って、うわ」
「いたぞー!」
「逃がすな!」
「うわっ、もうやられちまってる!」
とりあえずここから離れようとしたら通りの向こうから追加の騎士たちが現れた。
よし、アイスのお礼パート2を頼む!
「あ、あれもお願いできる?」
「やだ」
「なんで!?」
「もっとあいすほしい」
「そんな場合じゃないっしょ!」
ちくしょうこの幼女使えねえ!
かくなる上は囮にするしか……!
「よし、アイス買ってくるからここで待ってな」
「うん」
返事を確認したのでわき目も振らずダッシュで逃げ出す。
って……
「ついてくんなよ!」
「あいすそっちじゃない」
俺の後を追っかける幼女と、幼女を追っかける騎士たち。
ダブル鬼ごっこが始まった。




