事件、手配犯、再会
ひとまず中央広場に行こーかな。
さすがに細い道は覚えてねーけど、メインストリートが東西南北に4本あるのは覚えてる。
南のでかい道から中央広場通って、東のでかい道を真っ直ぐ行けば武器屋のある広場に着くはず。多分。
しかし、なんか今日は鎧着た人が多いねー。
なんていうのあれ。重装鎧?フルアーマー?
冒険者が着るような動きやすいのじゃなくて、歩くだけでガチャガチャ音がなる重そうなやつ。
さっきからそれを着た奴と何人もすれ違う。
この先は城だっけ。
じゃあ騎士とかなんかな。
騎士とか生で見るの初めてだわ、
これが生騎士かー。
ていうかよく歩けるねあれ。
絶対重いと思うんだけど。
そんな事を考えながら歩いてると城の前の広場に着いた。
でかい噴水を中心に、樹木が均等に配置された円形の広場だね。
南や東の広場は円周部分に色んな店が並んでたけど、中央広場は豪邸が並んでる。城に近いから貴族のお屋敷なのかも。
そんな広場に鎧着た人がワラワラいる。
魔法使いっぽいローブの集団もいて、何か地面を調べてる。
雰囲気的にはあれだ。殺人事件の現場?
警官に置き換えると物凄いしっくり着そうな感じ。
と言っても死体が倒れてたりするわけでもない。
あとでリーゼちゃんに聞いてみるかな。
―――◆――◆――◆――◆――◆―――
「おハロー」
「いらっしゃい」
「いらっしゃいませ……あっ、シンゴさん」
リーゼちゃん相手だと思って武器屋に入ったら、厳つい顔のオッサンがいて驚いた。
リーゼちゃんが俺に気付いて近寄ってくるのを見て、オッサンの目つきが剣呑になる。
ああ、なるほど。その反応でわかった。
リーゼちゃんの親父さんだな多分。
反応がアーニャちゃんの親父とそっくりだ。
「や、昨日ぶり」
「あの、外大丈夫でしたか?」
「んー? なんか鎧着た人がいっぱいいたけど」
中央広場みたいに常駐してるわけじゃないけど、東広場でも鎧の人が頻繁にうろついてるのを見た。
「はい。強盗犯が逃げ回ってるらしく、騎士団が巡回中なんです」
やっぱ騎士だった。
「あんだけ見回りしてるならすぐ捕まるんじゃね? てかそんないっぱいいんの、相手」
「いえ、一人だけらしいんですが、手口が凶悪だったのと相手が相手だったとかで大事になってます」
ほー。
凶悪強盗犯が徘徊中。
そりゃ外歩いてきただけで心配されるわ。
「一体何があったん?」
「それが……」
「リーゼ」
リーゼちゃんの言葉に厳つい親父が割って入る。
「そいつは誰だ? 知り合いなのか?」
「もうお父さん。この人はアーニャの命の恩人よ」
それもう広まってんの!?
「アーニャちゃんの……?」
あ、やっぱ友達の親ともなれば面識はあるよね。
とは言え簡単には信じられないようで胡散臭そうにこっちを見てくる。
「今はグレアムさんの所に居候してるのよ」
「アイツが娘と同じ家に泊める男か……。フン、まあ信用してやる」
なんか親父の顔の広さで助かった感。
やっぱギルド職員て顔広いのな。
や、同じ年頃の娘を持つ父親つながりかもしれねーけど。
つーか前も聞いたけどグレアムって親父のことだよな。
自分の名前を知らん奴を家に泊めるのも、それはそれでどうなの?
ま、今は言わねーけどね。
「だがな、凶悪犯が捕まるまで武器屋を閉めてくれと騎士団から頼まれているんだ。一応アイツの顔を立ててやるが、悪いが欲しい物を買ったらとっとと店を出ろ」
「あ、サーセン」
凶悪犯が武器屋に立て籠もる。異世界なら割りとある、のか?
海外でガンショップに立て籠もり、とかならわかるけど。
ああ、別に立て籠もらなくてもここから盗まれるだけで悪評が立つか。
俺はスタミナ上限向上の碑文を買って帰ろうとした。
そんなものはないと言われた。
ちくしょう!俺は何のためにここに来たんだよ!
まあリーゼちゃんには会えたしいいか。
―――◆――◆――◆――◆――◆―――
うーん、今からどーしよーかな。
まだ昼過ぎてないからギルドに行ってもなー。
かと言って親父の家に戻ってもアーニャちゃんがあのまま家にいるかわかんないしなー。
もしいなかったら防衛魔法とやらが発動しそうだ。何が起こるか知らんけど。
ちょっと早いけど昼飯にすっかなー。
考えながら歩いてたら反対方向から来た子供にぶつかった。
こっちには全然衝撃が無かったけど、あっちは跳ね飛ばされて尻餅ついてる。
白くてフリルのついたドレスに、白とピンクのローブを羽織った女の子だ。
ローブのフードを目深に被ってるせいで表情はわからない。
「大丈夫ー? ごめーんね」
「……」
引っ張り起こそうと手を差し出したけど反応が無い。
ていうかこの子、まだよそ見してんよ。
一体何を見てんの?
と思って視線の先を追った先にはアイスクリームの屋台。
ああ、なるほど。あれが気になるのか。
ぶつかった事も気にも留めずにアイス見続けるとか、かわいー。
よっしゃ、ここは一つお兄さんが奢ってあげよう。
なに、お礼は10年後に身体で返してくれれば十分だ。
俺は屋台のおっちゃんからアイスを2つ買うと、1つを女の子の目の前に差し出す。
ちなみに俺がイチゴで、女の子がバニラだ。だって好み知らないもん。
しかし全く反応が無いな。
目の前にアイス差し出してんのにどこを見て……あっ!
この子まだアイスの屋台見てる!俺のアイスが食えねえってのか!
俺が作ったもんじゃないけどな。
このままじゃ溶けちゃうから更に突き出して、フードの内側の口があるであろう部分に押し付けてみる。
するとやっとビクッと反応があった。
そのまま顔を持ち上げて俺とアイスを交互に見て……ってこの子どっかで見たことあんな。
何故か俺に持たせたまま、何も言わずに必死でアイスを舐める女の子。
その目は段々と生気を取り戻しつつある赤い瞳で。
一房だけ赤く、それ以外が真っ白な髪をしていて。
そう、そこにいたのは俺が転生してすぐに出会ったホームレス幼女だった。