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その52 おかえり

 幸いなことに、マサは少ししてから戻ってきた。

 数日後の夜、近工のガツからヤツがやってくるという連絡を受けた俺達は、速攻で家から飛び出して行った。

 たまたまかち合ったのは、偶然にも――新港一丁目のコンビニ前だった。

 暗闇に大小多数の人影(魚影もあるが)を認めたマサはびくっとして足を停め

「お、おめェら……そったら大勢でドコ行くんだァ?」

 目を丸くしている。

 可笑しくて仕方がない。

 なんたってそこにいたのは俺にナーちゃん、葵さんにドルファちゃん、ジンベエさんジーナさん夫妻にトビタロー、ドツボ以下ポイズンな奴ら、それにたまたまやってきていたレッドバックの連中。総勢で三十名&匹を超えている。出迎えには十分すぎる数だ。

 ポイズンとレッドバックの連中はすかさず左右に展開・整列して花道をつくり

「ささっ、マサさん! 海の勇敢なる正義の戦士! どうぞ、こちらへ!」

「あ? オレ?」

 何が起きているのかわからず、呆然と突っ立っているマサ。

 すると、ドルファちゃんが

「マサさーん! はーやーく! ここまで来てくれたらドルファ……いいコト、し・ちゃ・う!」ちらりと胸元を見せるようにした。

「ドルファさん! そのようにはしたない真似はおよしなさい。マサ様はお疲れなんですから!」

「えー……でも、でもォ!」

 葵さんとドルファちゃんのやりとりを聞いていたジーナさん、げらげらと笑い出した。

「マサにーちゃーん! 待ってたよー!」

 トビタローが羽をぱたぱたさせている。

「うォい、マサ! 約束通り、お出迎えだ! 文句あっか!?」

「出迎え……?」

 今ひとつ飲み込めていないようだったマサ。

 少しづつそのキッツいカオをほころばせて

「……おめェら! オレを待っててくれたのかよォ!」

 荷物を放り投げるや、花道ダーッシュ!

「マサさんっ!」

「お帰りなさい、マサさん!」

 こうしてマサは無事に復帰した。

 想定された通り、近工は退学処分になるらしいけど――近工だろうとそうでなかろうと、お前は友達だ。

 だから、こうして待っていたんだぜ?

「そうそう、そうだった」

 俺はポッケからケータイを取り出すと、メールを開いてマサに示した。

『マサに伝えてくれ

 とーとーやりやがったか、このバカ

 まーいーや

 お前らしくていいよ

 やっぱりお前はアタシの大事な後輩だよ』

「コレ、由美さん……だよなァ?」

「おォ。逐一報告入れてるんだぜ? ――俺達のボスだから」

「そっかァ……」

 しみじみと呟いたマサ。

 この後輩、そして今東京にいるその先輩はやっていることが一緒。

 近海一帯のガッコーを制覇しながら、責任を負って独り近工を退学させられている。

 そういうコトもあって、色々と思うところがあるのだろう。

「ま……少し、ゆっくりと考えようぜ? お前はなんだかんだで脳みそと気ィ使いすぎてきたんだよ。ここらでちょっとぐらい、休んどけ。人間、やり直せばなんとかなるもんだし」

 俺は笑顔を作ろうと思ったけど、なぜか笑えなかった。

 自然、真面目なセリフになっちまった。

 でもまあ、それで良かったのかも。

「お、おォ……すまねェな」

 そしてヤツはこう付け加えた。

「オレ、もう、バカなマネはしねェから。おめェらに迷惑、かけちまうし」



 次の日。

 これまでの人生の疲れをリセットするかのように俺の家で夕方まで寝こけていたマサ。俺が学校から帰ってくるとむっくりと起き

「あァ、よく寝たァ! なんだか、ハラ減ったぜェ」

 俺は制服を着替えながら

「マサ、メシは外な。今日はうちの両親いないから。何にする?」

「あ? あァ、何でもいィや。オレ、こう見えても好き嫌いはねェんだぜ?」

 ケラケラと笑った。

 いいことだ。

 俺なんかかなりのカテゴリで好き嫌いあるし。そのうちの何割かは幸子のせいなんだけどね。

「じゃ、もうちょいしたら行こうぜ。その前に、葵さんが風呂沸かしてくれてたから、入って来いよ」

「え? 葵さんが一緒に入ってくれんの?」

「……バカ」

 ――それから二時間後。

 俺とナーちゃん、マサ、葵さんにドルファちゃんは近所のファミレスにいた。

 例によって回転寿司ライスのドルファちゃんにならんで、特大ボリュームステーキを平らげているマサ。

「あァ、うめェ! こんなに美味いモン食ったのはウニ以来だぜ!」

 たかがファミレスのステーキと新鮮なウニと一緒にするな。

 食後にコーヒーとデザートでまったりしていると

「……そーいえばよォ、魚住ボコった時に聞いたんだよな」

 膨らんだ腹を叩きながらイスに踏ん反り返っていたマサが思い出したように口を開いた。 

「あいつン家、すげェ借金らしィんだよな。あそこの水族館、潰れただろォ? で、やべェらしいの。――俺が行ってねェからかなァ」

 それはない。

 潰れるきっかけの一つをつくったのは俺だし。

 でも、今となってはそのことを知っているのは俺とナーちゃん、そしてめぐみだけ。

 しかし、その背後にはあのリーネがいたワケで。

 ヤツと組んだ連中はことごとく酷いことになっていく、俺はふと思った。そういう意味では、リーネというのは悪魔か魔女みたいな存在かも知れない。

「ああ! そういえば!」

 俺はポンと一つ手を叩いた。

 その仕草が面白かったのか、ナーちゃんも真似をして「ぽむっ」とやった。

「それであいつら、アコばーちゃんを拉致ろうとしていたのか。何でまた、殻の組織に手ェなんか出すのかと思ったケド……そーいうことか」

 俺の隣の葵さん、アイスコーヒーを一口飲んで

「ええ。アコヤ貝の方達が真珠という高価なものを造り出せるということもありますが、貝の殻には、それだけで人間の方の世界で重宝されるようなものもあるって聞きましたわ。きっと、それを狙っていたのでしょう」

 すると。

 リーネはまだ魚住興業とは手を切っていないということになる。

 しかし……なんだってあの計算高いバカ人魚が、落ち目必至な魚住にこだわるんだ?

 峰山のところのフィルと張り合っているから?

 魚住が何か彼女の弱みを握っているから?

 よくわからん。

「……ところで、タツ! タツ!」

 マサが俺の方に身を乗り出し、声を潜めて「女の子! 女の子! どーなった? どーなった?」

 なんだ、それかよ。

「もうちょい待てやい。そんなに早くは見つからんよ。俺は結婚相談所じゃないんだからさ」

 ちょっとがっかり顔でマサは

「頼むぜェ? カワイイカノジョできたらオレ、マジメに頑張れそうな気がする!」

 はいはい。

 ってか、マジメに頑張るヤツに女の子は寄ってくるんだよ?

 他愛もない話をあれこれしつつ、俺達はファミレスを出た。

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