第31話 学院初日 魔法の授業
翌朝目が覚めると、まだ、昨夜発動したライトの魔法から通知がきていた。
〈439〉
〈440〉
ということは、7時間以上は点灯していることを寝ぼけた頭で考える。MPを確認すると、現在のMPは、620/620で回復しており減っていない。
これは、ライトの魔法の使用魔力と眠っている時の回復能力が均衡しているか、回復能力のほうが上回っている可能性がある。起き上がって、数字を聞きながら、MPの確認を続けると、1分でMPが1減ることが分かった。この世界では1日が何時間か不明ななかでライトの魔法がどの程度続くのかの質問の回答は、寝ている間は問題なく点灯しているということになる。また、時間計測実験のため、今日はライトの魔法は停止しないようにした。
起き上がり、洗面場に行って顔を洗う。そうか、昨日は風呂に入っていない。
「クリーン」
体の汗を綺麗にした。気持ちが良い。
うだうだしていたら、ミーナさんから食事の呼び出しがあった。
オルフェス先生のお言葉に甘えて朝食もごちそうになる。そろそろ、寮に移動したい。
スープ、パン、スクランブルエッグのシンプルな朝食。
恐る恐る、マチルダさんに魔力水が作れることを報告すると、本日の昼の研究棟での実験予定が決まってしまった。また、ライトの魔法の継続時間に関しては、寝ている間は大丈夫であると報告しておいたが、何の反応もなく受け止められた。
少し、肩透かし。
食後にオルフェス先生とともに学院へ向かう。先生には寮への移動を希望したが、このままの生活を提案された。僕のことが心配だという事だ。
学院は六学年制で、初等教育が一学年~三学年、それ以上の高等教育というか専門教育が四学年~六学年、定員が30名、一クラスのこぢんまりした学年で、一学年一人の先生が午前は二つの基礎教育を受け持つ。午後から専門となり、各専門の教師がいるということだった。
僕はオルフェス先生の判断で四学年の授業から選択することになった。担任はマチルダ先生ということで、クラスに連れていかれ、聴講生として紹介された。
16、17歳の若者の中で、いい年をした大人が授業を受けるのは違和感が多めである。制服もない学院なので、若い学生の私服の中で王子様然とした服を着た僕は異様に目立ってしまう。そのため、クラスの後ろにある椅子に座って授業を眺めることになった。
最初の授業は代数であった。教科書はなく、マチルダ先生が黒板に白墨で書いて、生徒がスタイラスで蝋板にひたすら写す。文字は言語理解スキルのため理解出来るが、代数といっても方程式とか関数ではなく4桁のただの加減計算である。
但し、計算が10進法でなく、12進法だと気づき混乱する。10進数に慣れている頭では意外に躓いてしまう。暗算で10分程度悪戦苦闘しているとコツを掴んだ。すると、単なる計算問題となり、急に授業がつまらなくなる。
授業を聞いているつもりだが、何も耳に入らなくなってきた。ライトの魔法がまだ動いているのか、定期的に数字の音が聞こえる。
〈501〉
〈502〉
授業中不謹慎かもしれないが、今後の生活を考える。まだ、生活するには足りないものが多い。授業はともかく、日記を書くにしてもノートやそれに文字を書くことが出来るペンが欲しい。さらに、下着とか普段着とかタオルとかこまごまとした雑貨が欲しい。欲しいものも多いが、どこで売っているのか?売られていないなら、作る必要があるのか、このあたりの調査もやっていきたい。
鐘が鳴り、代数の授業が終わり、短い休憩を挟み、次の授業は魔法の呪文を学ぶ魔法基礎であった。代数はもう良いかなぁ。カウンターを見ていると、ちょうど、始業の鐘から終わるまで、60増えていた。
60分授業のようだ。
授業区切りの鐘の音が聞こえるのは、やはり、どこかに時計があるのかもしれない。
魔法基礎の授業もマチルダ先生が担当。しっかりとした発音が具体的な発動イメージを明確にすると何度も繰り返して、クリーンの呪文の解説をしている。
「天地の理に沿って、私は彼のものの浄化を行う、クリーン」
と、何度も繰り返させている。何度も、何度も。
「はっきりと発音して! 呪文の言葉はしっかりと覚えて! それから綺麗にする対象を明確にし、綺麗になるイメージと呪文の言葉を結びつける。具体的にはこうよ。お腹に力を入れて、手を突き出すと同時に、お腹の魔力を綺麗にする対象にぶつける。発動すると綺麗にする対象が光るのよ」
「何回も、何回も、繰り返して」
精神論を伴ったスポーツのようだ。なんか、日本の武道の練習に似ている。鑑定の能力のせいか、所々で腹部に光が漏れ出ている学生がいるのが分かる。もう少しで発動しそうな気もする。補助具の杖は使わないのか?
キョロキョロしていたらマチルダ先生と目が合った。
「ラインハルトさんもやってみて、やらないと先に進めないわよ」
「いや、僕はもう出来るので、良いです」
「そんな事つべこべ言わないで、やるのよ」
責められるような口調で詰められる。
「そう言われても、何回もやる必要が……」
「ともかくやりなさい」
いや、厳しい。
厳しすぎる。
基礎がこんな根性論に近いものだとは思わなかった。
「分かりました。やります」
僕は呪文を唱える。
「天地の理に沿って、私は彼のものの浄化を行う、クリーン」
クリーンの対象が見つからず、やむを得ず対象をマチルダ先生にして、魔法を実行した。僕の体から魔力が抜ける感覚があり、マチルダ先生が一瞬光って魔法は成功した。
「すみません、最後まで対象を決めきれず、クリーンの対象を先生にしてしまいました。申し訳ありません」
「と、突然は良くないわね。でも、成功したようね、私も体がスッキリした感じがするし、服も新しくなったような気がするわ。でも、皆のお手本にはなったかしら。どうですか、皆さん、私が清潔になったのが分かりますか?うまく魔法が発動すると今のように私が光りますよ」
そこには10歳くらい若返ったマチルダ先生がいた。
生徒も唖然としている。
一人の生徒がつぶやく。
「先生、綺麗」
その声に、皆、我を取り戻し、教室が騒がしくなった。
「静かに、静かにして!」
マチルダ先生は生徒に呼びかけるが、声も少し若返った感じに聞こえ、さらに、騒々しくなった。静まるのには時間が必要だと思ったのか、マチルダ先生は、
「自習」
と言って、教室を抜け、走り出していた。どこにいくんだろう。
それからの僕は針の筵である。ヒソヒソと話しながらチラチラと視線を向けてくる学生達、何か話しかけたそうな学生達、その中の一人が僕に近づくとそれに伴った人達で囲まれそうな雰囲気になった。
ガタンと椅子を引く音がして、一人の学生が立ち上がった。すると、騒がしかった教室が静まる。
『やばい、近寄って来る』
と、僕が感じた瞬間、タイミング良く、マチルダ先生が戻ってきた。
「皆さん、もう少し、自習をしていてください。ラインハルトさん、こちらへ」
マチルダ先生の元に呼ばれる。
僕は救われたのか?
それから、マチルダ先生に別の場所へ連行されていく。




