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【2-24】命さえあれば

 侍女ハルヤに案内されたのは、王族用に改築された男子寮の一室、第一王子リフィルの部屋だった。

 ひときわ豪華な装飾もそうだが、何より防御術式が満載に張り巡らされた応接室に、リーンハルト達は案内される。


 部屋には既に4人の人影がいた。

 第一王子リフィルとその護衛アイリシカ。基礎魔術学の教員カテリナと、〈全能の魔女〉ライラック。

 上座のソファに座るのは第一王子リフィルだ。リーンハルトとキルトエは挨拶を述べた後、案内された正面のソファに座る。


「殿下をお待たせするとは、何のつもりですか」


 そう食いつくように睨んできたのは、リフィルの後ろに控えた護衛のアイリシカ。

 彼女は屋内であるにも関わらず、いつも通り金色の鎧を身に着けており、少し身動ぎするだけでガチャガチャと金属の擦れ合う音が響く。


 関わりのないキルトエは、目をパチパチと瞬いて唖然としていた。殿下や他の人がいるというのに、アイリシカはずっと柄に手を置いているので、あまりにも物騒である。

 とはいえ、何度も会う機会があったリーンハルトはその態度に慣れっこなので、いつも通りの笑みを浮かべながら肩をすくめさせる。


「一応、呼ばれてすぐに来たんだけれど……申し訳ない。生徒会もまだ揃いきってないから、人手が足りないのです」


「では、そこの女子生徒は誰なのです? 忙しい生徒会からわざわざ連れてきた理由は何なのですか?」


 ライラックはギロリとキルトエを睨む。無理を言ってまで来たのは自覚しているので、キルトエは顔を青くした。

 しかし、リーンハルトはヒョイと肩をすくめる。


「彼女はハルベリィ嬢の友人、クルハンス男爵家のキルトエ・クルハンス嬢です。今回の話し合いに興味があるとのことだったので、同行させました」


「同行させたって……」


「あ、アイリシカ大丈夫だから……」


 「しかし……」と口ごもるアイリシカに、リフィルは首を横に振る。


「そこまで警戒しなくっても、大丈夫だよ。魔法具だってあるし、ロミエ嬢のご友人なら大丈夫だから」


 そう言われ、アイリシカは不満そうに口をへの字にするも、殿下に言われては押し黙るしかない。

 ちょうどその時、侍従のハルヤがリーンハルトとキルトエの紅茶を持ってきた。


「……さて、集まりましたわね。殿下もおられますし、ひとまずは現状を整理しましょう」


 そう仕切るのは〈全能の魔女〉ライラック。

 リーンハルトから見て左側に座る彼女は、淹れられた紅茶を口にふくみ――なぜか後ろのハルヤを睨んでから正面に向きなおる。


「……まず、原因不明の黒霧について、説明をお願いしますわ。リーンハルト会長」


 話を振られたリーンハルトは「わかりました」と頷き、事前に考えていた台本を頭に浮かべた。


「まず、先の黒霧について人為的に発生させられたというのは周知のとおりです。死亡したタディカスヘンシェ・ターコン教諭により、行使された魔法から生み出されていました」


「アールグレイ監査長の防御結界が破られたのも、それが理由なのよ」


 説明を引き継いだのはカテリナ。目の前で通常の防御結界が簡単に破られていたのを見ていた彼女は、美味しそうに紅茶を啜りながら話を続ける。


「対魔法用結界なんて生徒は使えないから、被害拡大の要因とも言えるかしら。一応、学園校舎のおかげで一定以上の魔力濃度にならなかったのが、唯一の救いなのよ」


 かつて〈最強の魔法使い〉が創り出したアリストリア学園の校舎は、その建物自体に多くの術式が組み込まれている。魔力や魔素を吸うのもその一部であり、魔法結界の維持にも使われていた。

 とはいえ、全て吸い尽くせるわけではない。


「それで、帝国のスパイだったとはいえターコン教諭を殺したのです。何か釈明はありますか? リーンハルト会長」


 ライラックがギロリと、リーンハルトを睨む。対して、「心外だ」と言わんばかりに肩を竦めさせながら、リーンハルトは答える。


「ありませんよ。ロンド王国の民として、そして王家を支える公爵家として、殿下の命を狙う不届き者は排除するのは当然のことだからね」


「だそうですが……カテリナ教諭、学園としてはどのような処置をとるおつもりで?」


「規定通りならば、即刻退学処分なのよ。殺さず捕えるなりして情報を聞き出せれば良かったかしら。とはいえ……魔法使いだったなら、話は別なのよ」


 魔法は通常の防御結界で防げないし、死なない様に加減なんて出来ないだろう。あの状況的にそうするしかなかった──として、目を瞑ることとなったのである。

 そもそも、彼が帝国のスパイだと見破れなかった学園側にも責任がある。


「しかし、良く五体満足で勝てましたわね。あの場にはもう一人いたのでしょう?」


 ライラックが探るように目を細める。

 なんと目ざとい──リーンハルトは紅茶を啜りながら、なんて事ないように答える。


「逃げられてしまいましたがね……。それに、詠唱が終わる前に近づいて、先に一人斬り捨てる事ができただけですよ。今回は運が良かった」


 その言葉に、騎士であるアイリシカが深々と頷く。

 魔術師は接近戦に弱い。それはどの国でも共通だし、魔法使いであっても詠唱しなければ使えないため、接近戦は有効な手段だ。

 これ以上問い詰めても無駄と判断し、ライラックは話題を切り替える。


「逃げた方はイスベルク王国の刺客ですわね。前にあった暗殺未遂事件の時とは違い、別々に攻撃を仕掛けてきたのでしょう」


 〈運命の呪術師〉は学園内で黒霧の支援。もう一人、〈雹滅の魔女〉は学園近くの商店街で騒動を起こしていた。

 二人とも厄介な術を使うため、魔術を使って騒ぎを起こされるだけで被害が凄いことになる――のだが。


「そちらは、本題のロミエ妹ちゃんがどうにかしてくれたのですわ」


 その違和感しかない呼び名に「「妹ちゃん……?」」と5人が揃って復唱する。

 しかし、ライラックはさして気にした様子もなく話を続けた。


「精霊王召喚については大体検討が付きます。異なる属性の精霊王を召喚できる人物なんて、一人しか存在しませんから」


「〈深紅の魔術師〉殿……ですね」


 ポツリとその名を呟いたのはリフィル。〈深紅の魔術師〉ルディアスとは、外交行事で一度挨拶を交わしている。


 その名の通り、〈深紅の魔術師〉ルディアス・リースはワインレッドの頭髪に瞳をもった男性だ。

 とても丁寧な言葉遣いで物腰柔らかな態度から、とても紳士的で友好的な人物だと思っていたのに、まさか命を狙われるなんて──リフィルは目を落としたが、すぐに顔をあげる。


「〈深紅の魔術師〉殿について、私個人からも連合王朝の方に確認の文書を送りました。認める可能性は低いですが……今後の外交カードとして活用できます」


 リフィルはこの国の王子だ。その立場上、命を狙われるのは仕方無い。まして、よその国の人間ならばなおさらだ。

 国を背負っていく者として、強かに現実を受け入れる覚悟がいる。


「シュバルツェン王朝が敵対した……となれば、イスベルクとアナイアを含め、三国から狙われていることになるかしら」


 カテリナが眉間に皺を刻んだ。

 ロンド王国と領土を接する三国が敵になった――第一王子リフィルを狙う以上、その三国が組んでいるいることは確実だろう。


「その通り。だからこそ、国内でいざこざを起こすべきじゃないでしょう?」


 リーンハルトがカテリナに視線を向ける。


「……ロミエ・ハルベリィを無罪放免にしろ、とでも言いたいのかしら?」


 ロミエは禁術である〈再生魔術〉を使い、患者を意識不明にさせた罪人である。

 禁術使用なんて、学園から追放されるのはもちろん、最悪処刑すら視野に入る大罪だ。


 カテリナとしては、無罪放免なんて言語道断。規律が乱れるキッカケはなるべく許したくない。


 しかし、リーンハルトはニコリとほほ笑みながら、「えぇ、それがここに集まった本題――なのでしょう?」と言う。

 すると、リフィルもコクコクと頷いた。


「ロミエ・ハルベリィ嬢はとても信頼できる人なんです! 禁術を使ったのも、きっと誰かを助けるためにしたはずです!」


「そうなのだ! ロミエはショルを……ショルトメルニーャを助けるために、仕方なく使っただけ――」


「禁術は、たかが一生徒には知られない使えない代物かしら。まして、ロミエ・ハルベリィの実技成績は最低値。そもそも〈再生魔術〉自体、そう簡単に習得できるものじゃないのよ」


「しかし、命は助かったのでしょう?」


 そう軽々しく口を挟むアイリシカに、カテリナは「ふざけるな」と言いたげにギロリと睨んだ。


「命は助かっても人体に魔力を付与する以上、重度の魔力中毒になるのよ。体の一部分ならまだしも、彼女は全身に魔力付与を行ったかしら。それも大量の魔力を長時間与え続けて、力技で強引に肉体を再生させたのよ」


 現在、ショルトメルニーャはなおも意識不明の重体で寝かされている。それも他の魔力中毒で寝込んでいる生徒と違い、常に余剰魔力を放出し続けているのだ。

 元々、青い肌を持った人々は魔力吸収能力に優れているが、彼女のそれは違う。ロミエが〈再生魔法〉を行使するときに付与した余剰分の魔力が漏れ出ているのである。


「魔力供給機関なんてボロボロ。意識が戻ったとして、一生魔術が使えない体なのよ」


 それは魔術師として、魔術を学ぶ生徒として最悪な事だ。それどころか、意識が戻ることすらあやしい。


「そんな状態なのに、それでも命があるだけマシなんて戯言を吐けるのかしら?」


「うん、それでいい。命が繋がったのだから、賞賛されるべき事柄じゃないかな」


 そうあまりにもアッサリと答えるリーンハルトに、カテリナはおろかこの場にいる全員の視線が集まった。

 それでも臆することなく、リーンハルトはカップの縁をなぞりながら、さも当たり前かのように語る。


「命があれば、また会えるかもしれない。命があれば、意識が戻るかもしれない。命があれば……《《命さえあれば》》、それだけで未来は守られるからね」


 ――命さえあれば。

 その一言を、リーンハルトは強調する。

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