第80話 帝国二番隊隊長
その中で体躯がずば抜けて大きいのがレームだった。獣達は驚いたがすぐに全頭戦闘態勢に入り、順々にレームの隊に襲いかかっていった。
獣は十頭ほどだったが、その中の一匹には黒い瘴気で覚醒して二回りほど大きくなったグークもいる。
レームの隊も、十人ほどいて、獣に一対一のような形になった。
だがレームの対の面々は自然と覚醒した獣をレームに譲るように避けた。部下から一本槍を受け取ると、レームはグークと相対する。一瞬グークは目の前のレームの雰囲気に気圧される。
――なんだこの巨躯の怪物は、本当に人間か?
レームはその隙を見逃さない。ブウンと槍を一回転させると、目にも止まらぬ速さで槍をグークに一突きした。
その速さについていけなかったグークの顔の下に槍が突き刺さる。槍が刺さったままグークは悶絶して後退した。
――普通の武器じゃない……。
通常、覚醒を経た獣はただの切り傷などはすぐ回復が、レームの槍の傷は回復が遅かった。レームはニヤッと微笑む。
「あらぁ……図体デカイだけ? 見せてみなさいよあんたの力」
グークは王が近くにいるため、レームが何を言っているのかわかり、激昂した。
「図に乗るなよ! 人間」
グークはなんとか体勢を立て直すと、黒い瘴気を自分の体の前に集めた。瘴気が解き放たれると、グークの頭には大きな一本の角が生えていた。レームは楽しそうに微笑む。
「あら豪勢ねぇ」
グークはレームに向かって角を構えると、一気に突進を始める。角の周りからまだ瘴気が吹き出していた。レームは腰から剣を抜くと、角をその剣で受けた。
「ううん、さすが黒の拡大。良い力ね」
グークは受け止められた事に少し驚くが、そのまま押し続ける。
「このままで済むと思うな……」
大きな角から出つづける瘴気が消えると、その横から別の細い角が生え始める。
「これで貫いてやる」
もう一本の角はそれ自体細いものだったが、まるで生きているかのように動き、レームの右腕を貫いた。
レームは瞬間、少し驚いたような顔をしたが、すぐまた微笑む。
「流石に角だけってことはないわよねぇ。まあ瘴気の数だけ増えて、しかも動けるってところかしら」
グークはなぜレームが余裕な顔をしているのかわからなかった。
「とらえたぞ。人間!」
細い角はレームの予想通り、瘴気によって更に増えた。しかし、レームは次の瞬間、自分の右手を貫いている細い角をそのまま掴む。
そして一歩踏み込むと、そのままレームは自分の足を支点にし、角を掴みながら一気にグークを真上に投げ飛ばす。
グークは綺麗にひっくり返って投げ飛ばされた。投げ飛ばされた際に、頭部を強く打ちつけられ、動けなくなる。
レームはすぐさま起き上がると近くにいる部下から新しい槍を受け取って、グークの真上に飛び上がり、グークの脳天に槍を体重をかけて突き刺した。グークはうめいていたが、そのうち動かなくなった。周りの獣たちは覚醒していてかつかなり大きいはずのグークがいとも簡単に屠られたのを見て驚いた。
レームは手の血を拭きながら、ラビルの元へと向かう。
「良いタイミングですね」
「あんた、呼ぶの遅いわよ。あたしはほんとはあの馬と戦いたかったのに」
ラビルは苦笑する。
「いくらあなたでも死にかねませんよ。あれは他とは別格です」
レームは呆れたようにいう。
「だからいいんじゃない。ただの拡大型じゃあひりつかないわ」
ラビルはサラ達を指差しながらいう。
「では数をこなしてください。それが終わった後に、王に手を出しても私たちは止めませんよ」
レームはニヤッとうなずく。
「その言葉忘れないでよ。あんたたち!」
言われて部下が振り向く。
「そっちの残りは任せるわ」
部下の一人が、剣を掲げて応じる。そしてレームはサラとロウのところに加勢に向かう。サラとロウの側には二十頭近い獣がいて、そのうちの六頭が、覚醒していた。レームが少し驚いたのはこの状況下で二人がその攻勢を食い止めている所だった。
ロウの能力には時間制限があるらしく、動きがゆっくりになった後、しばらくすると獣達は元の動きに戻る。
だが、その動きが遅くなるところでサラが銃と、ダガーを綺麗に打ち込んでいくことで、動物達はなかなか二人の領域に攻め込めずにいた。
そこに後ろから、レームが何匹かの獣を薙ぎ倒す形で現れた。
レームの登場に驚いた獣達の統制が乱れた隙をサラは見逃さなかった。
後方に近い猪二頭にすぐさま銃弾を打ち込む。覚醒していないせいか、猪はその場に倒れ込むと、すぐ動かなくなる。
レームは間を塗ってサラと、ロウのところに合流する。
「ちょっとはできるみたいね」
レームに話しかけられてサラは銃を他に向けながら反応する。
「あなたは帝国の部隊長ですね。お願いなのですが少しこの場を預けても構いませんか?」
レームが返す。
「いいけど、ただじゃ嫌よ」
「何が必要ですか?」
「この馬と戦わせなさいよ」
レームはロウを目で指す。
「それは私の一存では決められません」
サラはロウを見る。
「かまわない。だから早く行け。あの子供に死なれては意味がない」
ロウの言葉にレームはうなずく。
「良いわねぇ。さっさと行きなさいよあんた……。女に興味はないの」
レームに促され、サラは瞬時にダガーを後方の木に投げると、ストリングを弾いて一気に木の側に飛んだ。
後を獣達が追おうとするが、そこにロウとレームが立ちはだかる。
「あぁたまんないわこの数。久々に楽しめそうねぇ」
レームはブゥンと、槍を一振りした。




