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超獣戯画Ⅱ ~『白鹿と霧の町の闇』原版~  作者: 纏笛


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第78話 受け継がれる思い

 ミケルは王から行くなと言われた後もずっと追跡を続けていた。そして、ヒクルが殺される当日、戦いが始まる前にエサルは猪のグークとガイルを集めていた。

「どうしたエサル」

 エサルは二匹をぐるっと見てから話す。

「王は我らを欺いている」

「どういうことだ?」

「今日人間が倒す獣……。あれはファンネルではない」

 グークとガイルは顔を見合わせた。

「なんだと?」

 エサルはニヤッとする。

「あれはヒクルだ。奴がずっとファンネルのふりをしていた」

「なぜそんなことを?」

「ファンネルを隠すためだ……。うまくやったつもりだろうが、触れずの土地の近くで奴を見かけたもの達がいる」

 ガイルが尋ねる。

「だがどうする。人間が奴をファンネルとして倒してしまうのだろう?」

 グークも続く。

「ヒクルを殺した後ではファンネル殺しには二の足を踏むかもしれんぞ」

 この言葉にエサルは微笑む。

「ならばもう、王は我らには必要ない」

 グークとガイルは顔を見合わせる。

「やるのか」

「計画通りだ。ヒクルが邪魔だったが、それも人間が倒してくれる。今の王はただの腑抜けだ。我らの敵ではない」

 グークとガイルはうなずいた。

「我らが王となれば後はどうとでもなる」

「真のファンネルを殺そうが、軋轢は少ないだろうな」

「本来は死んでいるはずのものだ。ガルムがあの時仕留め損なわなければな」

 三匹は笑っていたが、ミケルは近くでそれを怯えて聞いていた。一連の話を聞いてガルムは少し黙って考えていた。

「エサルは元々、わかっていたのでしょう。ファンネルさんではないと。しかし倒せないと踏んであなたや人間を利用した」

 エサルがここまで周到だとはガルムは思っていなかった。

「わかった。ありがとうミケル」

「どうするんですか?」

「奴らが戦うというなら、逃げずに立ち向かうしかない……」

「本気ですか? ガイルやグークはまだしも、エサルは覚醒しているんですよ?」

 ガルムは迷っていた。

「わかっている……。だがたとえ殺せなくても、俺の手でケリをつけたい」

「ですが……」

 ミケルを巻き込まないようにガルムは彼を自分から遠ざけることにした。

「用がそれだけならもう帰れ。奴らは時期に来るだろう」

 ミケルは項垂れだ。しかし帰り際に王に言った。

「あなたが負ければ、それはファンネルの死を意味します。ヒクルが命懸けで守ったものも……そこを忘れないでください」

 そう言ってミケルはその場を後にした。ガルムは考えをまとめるために、とりあえず貢物の小屋の横に行くことにした。

 彼は迷うとあそこで考え事をするのが常だった。だが、小屋の横について、護衛を外して一人になってもいい案は浮かばなかった。

――エサルは先の先まで読んでいる。とすればグークとガイルにも何か俺を倒す策があるのかもしれない……。あの二人は強敵だ……。かりに一人退けたとして、連続では持たないかもしれない……。俺がファンネルを先に助けたとしたらどうなる……。だめだ。森ではもうエサルから彼女を守れないし、何より自分の言うことなどもう聞き入れないだろう。だが遅かれ早かれ、彼女は殺されてしまう……。どうしたらいいか……。

 そうガルムが迷っている時に草むらから現れたのがマリウスだった。マリウスとの対話の中でガルムは最後の希望を彼に託すことに決めた。

 彼はイルクの時代からファンネルともよく接していたのでファンネルも心を開く可能性があるとガルムは考えていた。森の民と人間は揉めるだろうが、そんなことはもはやガルムにとっては二の次だった。

 なんとしてもヒクルや残した命を救わなくてはならない。自分が奪ってしまったイルクの命に対するせめてもの償いだった。

 マリウスにナイフで刺されたあと、ガルムはマリウスを見届けながら、心の中で詫びた。

――憎しみで王になんかなるべきではなかった。俺の行動は全て俺の都合だ。民の事は二の次にして、全てを壊して後に託すことを許してくれ。

 そう思ったままガルムは息絶えた。


 次の記憶ではマリウスが、ファンネルを助けに行く所だった。

 マリウスは母の死にふさぎ込んでいたが、その次の日の朝、入れ墨が彼に入り、王となった。

 そして全ての記憶を引き継いだマリウスは悲しみを押して、一人で触れられずの土地へと向かった。道中何匹かの動物に見られたが、マリウスは聖獣隊としてよく知られていたので、特に怪しまれずに森の奥にある触れられずの土地へとたどり着いた。

 たどり着くと、ファンネルを探したが見当たらない。そこでマリウスは入れ墨の力を使った。過去の王の記憶を使い、入れ墨を土地の四方に飛ばす。

 するとその区間の中にファンネルがいるのをマリウスは見つけて、そこまで歩いて行った。

――ここにいたんだね。

 ファンネルはマリウスの登場と言葉が通じることに驚いて振り返る。

――マリウス……。なぜ動物の言葉が話せるの?

 マリウスは自身が今王であることを告げた。

――信じられない。人間が王になったなんて。

――ここから逃げよう。直にエサルがやってくる。

 マリウスの提案にファンネルは首を振った。

――ダメよ。

――どうして?

 ファンネルは答えない。しかし、マリウスは答えを知っていた。

――そうか、子供がいるんだね。

 ファンネルは驚いた顔でマリウスを見た。マリウスは言う。

――僕には過去の王の記憶もある。当然死ぬ前のイルクのもね。

 ファンネルはポロポロと泣き出した。

――名前は?

――ヒルクよ……。兄とイルクの名を持つ私の宝物。

――おいでヒルク。

 マリウスが呼びかけると木陰に隠れていた子鹿が顔を出す。

――二人とも僕が守るよ。幸いうちは牧場だ、数が増えたところで怪しまれない。

 そう言うとマリウスはヒルクを撫でた。そしてファンネル達と共に家へと戻っていった。



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