第54話 寝かせてくれなかった?
騎士と冒険者は元々仲が悪かった。
プライドのぶつかり合いとでも言うのだろうか。所詮冒険者は非公式の傭兵集団だと罵り。一方騎士は税金を食いつぶすだけの引き籠りだと揶揄している。
とはいえ、だ。
そんな犬猿の仲である二ギルドが力を合わせれば、階層一つをクリアをする事は造作もないだろう?
数には数を。それが俺の戦略だった。
「酷い顔ね。寝不足なの?」
「そっちこそ、可愛い顔が台無しだぜ」
シンシアはふんっ、と鼻を鳴らして。
「あんたが寝かせてくれなかったんじゃない?」
その瞬間、空気がピリッとひりついた。
具体的には、女性陣の視線が……。
「誤解を生むような発言をするな」
「そーね。誰かさんがダウンしていなければ、もっと早くに作戦を遂行できたのだと思うけれど」
「うっ……それを言うのはズルくないか」
明らかに仲が深まった様子の俺達に、シャルやノエルは眉を寄せて訝しむ。すると、それを見兼ねた後ろに控えていたイレイスが補足した。
「魔法だよ、魔法。シンシア様の『通信波』さ」
シンシアの魔法を使えば遠距離通信が可能となる。
それをシンシアに提言して以降、見事魔法を実用化に至らしめたシンシアは夜中になるまで通話していたのだった。
「なるほど……昨日のあれはそういう」
その一幕に出会したノエルは納得したように頷いた。
「これで擦り合わせは十分だ。俺達の作戦じゃ、実際に侵攻するのは明日って話になっている」
「そうなんだ。じゃあ今日は何するの?」
シャルの何気ない一言にッ!!
俺は手をぐんと掲げた!!
「決起会だ」
ウォオオオオ!!!
地鳴りのような声が響き渡る。
「野郎共、今日は俺の奢りだ。明日に備えて沢山栄養を取っていけよッ、ただあんまり飲みすぎるな、二日酔いは勘弁だからなッ!!」
「よく言ったっ、それでこそ期待の新星だ!」
───称号【期待の新星】を獲得しました。
なんか変なの獲得しちゃったよ。
【ステータス】
名前:レイ レベル:15
HP360/360 MP220/220
称号:【期待の新星】
ギルド:《北極星》
ユニークスキル:【魅力支配】【勇猛果敢】
EXスキル:《鑑識眼》C《演算領域》E《二刀流》E《気配遮断》F《処世術》D《全属性耐性》F
スキル:『言語理解』C『料理』F『剣術』G『体術』F『槍術』G『火魔法』F『光魔法』G『土魔法』F『蓄積』F『瞑想』G『詠唱』G『紅魔』G『連携』G『受け流し』G『先見』G『暗視』G『慧眼』G『根性』G『精霊眼』G『スキル譲渡』G『気配察知』G
所持SP:25
そういえば、通話を重ねる事で親密度も28へと上昇し、シンシアから『気配察知』のスキルを獲得した。どうやらこれは、『敵感知』の上位スキルで、味方等の位置も把握出来るらしい。
非常に有用なスキルだ。
そんな俺の事情はさておき、決起会は粛々と準備が進められていく。冒険者ギルドとその酒場に、これだけの人数を収容出来るスペースがあるはずもなく、複数店舗での同時開催が余儀なくされた。
予約は事前に取ってあった。
勿論、俺とシンシアが計画しての事だ。
これから先、少なくとも明日の戦闘までは、全てを想定の範囲とした上で行動する必要がある。
最後の決着、ニルと再戦し、そして勝利するビジョンを含めて、俺は脳内で百以上の手を想像した。
元々不利な戦い。それを覆す道筋はただ一つ。
あらゆる戦局を読み切る。これが勝利条件だ。
第二会場を取り仕切る事となったシンシアが、冒険者ギルドを出て行こうとする。しかしその寸前で何かを思い出したようにこちらを振り返ると、俺の肩をガッと掴んだ。
「ねぇ、あんたさ」
「ん、なんだよ?」
「"残りの戦力"ってあれどういう意味よ。まだなにか隠しているんでしょう、白状しなさいっ」
胸ぐらを掴んで、謎に脅迫された。
例の通話の時の話をここで持ち出してきたか。
「あんたと私の中なら隠し事は無しじゃない?」
「それはお前の傲慢だ。俺は全てを曝け出すつもりはない」
「私のおっぱいまで揉んでおいて、それは卑怯よ」
「「!?」」
ほら。二人が反応しちゃったじゃないか。
シンシアはどうして火種を撒きたがるんだろう。
「ムカつくけど、まぁいいわ」
サッと髪を払って、踵を返す。取り残された俺に取り巻く空気は最悪その物だけど。猛威を振るった台風もどきの少女は、大勢の騎士達を連れて去って行った。
「ねえ、今のどういう意味っ。やっぱり二人に何か!?」
「怪しい。一度拷問をすべき」
シンシアはやっぱり敵かもしれない。
「レイ」
イレイスが俺を呼んだ。
騎士達はもう出かけてしまったけれど。
彼には似合わない重い表情を浮かべていた。まるで命すら賭ける事すら惜しくないと言わんばかりの、覚悟に染まった顔。複雑な感情を織り交ぜて、俺と視線を合わせる。
「僕は……シンシア様を守る」
「いいや、俺が守るさ。いつしかの約束、悪いがここで果たさせてもらうぜ」
事実上の宣戦布告。俺はふっと嗤った。
『シンシア様は僕の物だ』
そう突き付けられたのも随分前の事のようだ。俺がイレイスと同じ土俵に立てているかは怪しい。ステータスでは大幅に遅れを取っているはずだ。
だが───。
イレイスはここ最近でミスを頻発している。シンシアの護衛を名乗りながら、シンシアに敵の接近を二度も許している。その汚名返上を今回の一件で図るつもりなのだろうけど。
「絶対に負けてたまるものか」
「ふはは、受けて立とう」
悪いがイレイスは負ける。
オール・オア・ナッシング。
この戦いに全てを賭けているのは、俺も同じだ。
負ければ、ルナもシンシアも全てを失い。
勝てば、その全てを頂く。
決起会は、順調に進み、料理が次々と出されていく。だが俺は程々に食した後に、会場を離れる。
夜の涼やかな街並みを尻目に裏路地へと入り行く。
そして暫くしてから、懐かしの場へと足を踏み入れた。
「残りの戦力、手に入れるか」
奴隷商館。
俺は不敵に嗤って、戸を開いた。
「いらっしゃい」





