第26話 最初から最後まで謎の女。
「なにっ、なんなの!? おかしい……こんなの!」
女は激しく身体を動かして俺に攻撃を仕掛けてきた。
俺はその全ての攻撃を見て弾いた。
スキルの助力もあるが、殆ど肉眼で視認できる。
「お前、転生前は何してた?」
「は、はぁ!?」
俺の唐突な問いに、明らかに言葉を詰まらせる。
「どうせ自称クラスの一軍女子ですとか何とかいってイキり倒して、就職後も冴えない会社で一生マウント取り続けてたんだろうな、動きで分かる」
「嘘よ」
「嘘だが?」
正しくは知らないし、興味もない。
「だがな、甘いんだよ……その攻撃。その仕草。全部分かってしまう。こう言うのをなんて言うか分かるか?」
「……ッ」
「付け焼き刃って言うのさ」
所詮スキルは飾りだ。
女神が才能を認めた、その証がスキルなら高々百回というなんの根拠もない数値で上がるランク付け等参考に値しない。
「そういうアンタはなんなのよ!」
「俺か。昔剣道とか柔道とかやってたのかなぁ」
「それだけじゃ、絶対ないでしょ!?」
それも知らない。だって俺の記憶が無いんだもの。
俺は一度でも女神に会ったのだろうか。
転移と転生、記憶の有無。その掛け違いは、果たして俺が選んだ事なのか。それも明らかなメリットを二つも捨ててだ。
鍵を握っているのは、ユニークスキル【魅力支配】。
やはりこのスキルに行き着いてしまう。
これにはまだ何か秘密が隠されているはずだ。
転生前の技術で、転生後に得たスキルや能力、魔法を凌駕するというのは所詮詭弁だ。それが出来るのは、異世界二週目を謳歌する者のみの特権だ。
この女が正気を取り戻し、俺に攻撃してきたらひとたまりもなく負けてしまうだろう。
だからその前に、俺はこのスキルを使いこなす。
この女に先手を打たれる前に!
唱えろ、唱えろッ。
俺をここまで導いたスキルの名を!
「この、この、このッ!!」
「───スキル【魅力支配】」
キィィィンンンン……!
俺の目が熱く光る。
桃色の閃光が場を支配していく。
魔力がごっそりと抜かれていく。
代わりに甘くとろんとした香りが溢れ出す。
【ステータス】
名前:レイ レベル:7
HP198/285 MP35/130
「こ、これは……なにっ、股が熱くなって」
なんだ?
あの女、急に頬を赤らめて。
まるで、発情したかのような……。
「ち、力が入らない……っ」
俺の片目が熱く滾る。
彼女の様子がありありと映し出される。
「ふふ、ふはは……」
なるほど。そういう事か。
「ふははははっ!!」
最高じゃあないか!
このスキル、好感度の低い相手を強制的に発情させ、戦闘力を著しく低下させる能力があるのか!
なんという、エ○漫画的シチュエーション。
だが安心しろ、俺は紳士だ。手は出さない。
好感度も代わりに-20となった。
これも能力の代償か? まあいい。
「さて、と。まだやるか?」
「あ、アンタ……卑怯よ」
「なんとでも言え。そもそも俺を一人に孤立させて狙い打とうとした奴はどこの誰だったかな?」
ふはは。この絶対的優位な立場。
愉悦に浸る感触、嗚呼これが俺の求めた世界だ。
弱者として地面を這いずり回る芋虫みたいな生活は、やはり俺には似合わない。他者を従えてこそ俺が輝くのだ。
「お、覚えておきなさい……」
ゆらゆら、と力なく立ち上がる女。
途端、口の中で何かを噛み砕く。
「一流の冒険者はね……」
女の気配が元に戻る。発情が解けた!?
「『状態異常』には敏感なのよ?」
"解毒剤"、奥歯に隠し持っていたのかッ!!
やられた。今の発動を見られた以上、次は通じない。
それに……待てよ。
【魅力支配】の下の欄。
『鑑定眼』に見覚えない数字の羅列がある。
『CT 23:59:38……』
「クールタイムだとッ」
まずい、まずい、まずい……。
「さっきは良くもやってくれたわね。おかげで下着もびっしょびしょ。これまでにない恥をかかされたわ」
『並列思考』を使って何か代案を……。
いや無理だ、他に起死回生の一発は無い!
鞭に火が熾る。刹那、俺の髪の毛がチリッと焦げる。
速すぎて……攻撃が見えなかった!
本気にさせてしまった。
十数年、いや下手をすれば二十年とこの世界で生き延びた転生者を俺は本気にさせてしまった。
死ぬ……。
───HP188/285 MP35/130
───HP178/285 MP35/130
───HP168/285 MP35/130
「地獄で懺悔なさいッ!!」
───HP158/285 MP35/130
───HP148/285 MP35/130
───HP138/285 MP35/130
死ぬ……!
───HP128/285 MP35/130
───HP118/285 MP35/130
───HP108/285 MP35/130
「はぁああああっ!!」
神速の勢いでルナが茂みから飛び出す。
ブシャッと血が勢いよく飛び出す。
女の片手が……無くなっていた。
「いやぁあああ!?」
「あるじ……主、生きてっ」
ボスッと俺の懐に飛び込んでくる。
目が充血して、涙の跡で肌がめちゃくちゃだ。
ルナが助けにやってきた。
「はぁ、はぁ……っ。本当にいた」
「凄い、ルナの言った通り……」
「これがお二人の絆っ!」
皆……皆、俺の元に。
シャルロット、ノエル、クレアまで。
やった。俺は賭けに買ったのだ。
「そ、そんな……」
女は鞭を残った片手に持ち替えながらも呆然としていた。既に戦意は喪失している様子。放置してもすぐに失血死で死ぬ。
彼女が今考えている事は俺には見え透いていた。
「どうしてそんなにも合流が早いか、とでも考えているのだろうがそれを見抜けないようではまだまだだな?」
俺は背後の燃え盛る木々を指さした。
「俺が最初に『火球』を放った理由。お前に向けた牽制とでも思ったか? 正解は、二層のどこかにいるであろうルナ達に俺の居場所を合図する為だ」
最初から迅速な合流を図る一手は打っていた。
「な、ならつまり……今までの行動は全て」
「時間稼ぎの茶番だが?」
俺は剣を片手に女へと歩み寄る。
こいつの名前も知らない。『隠蔽』で隠されて、俺の『鑑定眼』では情報すら掴めない。
最初から最後まで謎な奴だ。
「『剣術』を使って防戦を装っていたのも、【魅力支配】を使って出し抜いたように見せたのも、このタイミングへの布石だ。攻撃し、痛み付ける事にご執心だったお前は周りが見えていなかったのさ」
ぼとり、と武器を落とした。
俺は安心して女に近づいて行く。
やはり転生者は「痛み」と「絶望」に弱い。
片手を失っただけでギブアップか。
本来のステータスならここからでも巻き直せるだろうに。
ステータスに驕った奴の末路だな。
「さて。死力を賭して尚も勝てない相手がいる気分はどうだ。お前の人生は俺のたかが一ヶ月だ。だが、俺を追い詰めたその実力は高く評価してやるよ」
剣を首に宛てがう。
もう躊躇する理由は無い。
「最後に言い残すことは?」
女は涙ながらに答えた。
「アンタ、最っ高♡」
-20→5
───スキル『表示』を獲得しました。
ザンッ。
…… 最初から最後まで謎だったな。
名前:レイ レベル:7
HP108/285 MP35/130
ギルド:《北極星》
ユニークスキル:【魅力支配】
スキル:『言語理解』D『鑑定眼』E『交渉術』E『礼儀作法』F『剣術』F『挑発』F『料理』G『幻惑』F『隠密行動』G『体術』G『並列思考』G『火魔法』G『逆境』G『蓄積』G『冷静』G『麻痺耐性』G『痛覚耐性』G『表示』G





