第15話 緊急事態。
俺とルナは並走してダンジョンを突っ切る。
事前に考えていた、一階層の一日攻略。
本来ならば安全に安全を期して、一年はかけるとされる場所を、全速力で突っ走った。まともな装備は剣だけ。生憎と俺は大切にする命など持ち合わせていなかった。
ゲームとかでもそうだ。
高ランクダンジョン、被弾イコール即死という状況で手に汗握りながらコントローラーを操作する瞬間が最も愉しみを感じた。
狂ってる?
違うな。俺はゲーマーではなく、ギャンブラー気質だっただけに過ぎない。知略と戦術を持ってすれば、無課金でも難なく攻略できる。
そうした高度なゲーム性が人々に愛される要因ではないのか。今や十年と続くスマホゲーも多くあるが、長らく生きられているのは、課金以外に攻略方法が用意されていたから。両ユーザーに優しいゲームこそ、神ゲーと呼ぶに相応しい。
この世界の迷宮も一つのゲームだ。
俺にかかれば、造作もない。
「危険ですよ?」
「危険を犯さず冒険とは随分甘ったれた事を言うじゃないかルナよ。大丈夫なのか?」
「こっちのセリフですよ。主は戦えないでしょう」
ルナは面倒そうに俺を睨んで唸っていた。
「ルナ……まだまだだな、お前は。要は戦い方なんだ。スキルだけで人を判断したらいい事ないぞ?」
ルナにはユニークを除いて所持スキルの説明をしておいた。そしてその辺の戦法も幾つか計画済みである。
「これ俺の名言な」
「迷言ですね、分かります」
「分かるな、こら」
ルナには再三言ってある。
「泥棒に盗めない物。それは知識と経験だ。スキルなんて不確定な物を信用するな。信頼出来るのは、ここだけだ」
頭をトンと押さえる。
俺には前世の記憶が無い。
だが染み付いた技術はしっかり根付いている。
俺は武道にも多少心得があったようだ。
お陰で自衛くらいは割と出来る。
「ルナ。作戦通りに行くぞ」
「あーもう、分かりましたよっ」
最初は乗り気では無かったルナもこの通り。
俺を遠慮なく"囮"に使っている。
「スキル『挑発』」
まずはヘイトを俺に向けさせ。
一撃を貰う前に、ルナは死角へと移動。
攻撃。
これで、一階層の雑魚は殲滅出来る。
「魔石、大量ですね……っ」
「ふはは、当然だ。何せこの俺が───」
「はいはい、次行きますよ〜」
『トラップ』
「足元気をつけろ」
ルナの手を掴んだ。
銀の刃が駆け抜けていく。
「……」
おっと危なかった。
「スキル『冷静』」
「現実逃避するな」
ルナが青い顔して身体を震わせている。
その背中を優しく摩る。
「確かに俺達はレベル不足だ。装備も足らん。一撃貰ったら死ぬかもしれん。だがそれがどうした。何の為に二人いる。俺は何も無い場所で足踏みする程、暇じゃないのさ」
目の前に大きな段差なある。
だがそれも二人なら乗り越えられる。
その事をルナに示唆してやる。
ルナに手を差し出した。
「力を貸してくれるな、ルナ?」
14→15
───スキル『剣術』を獲得しました。
「はいっ」
ふはは、計画通り。
危機からの救出。吊り橋効果も相まって効果は抜群だな。地面や壁面のトラップを予め調べておいてよかった。
スキル『鑑定眼』は常時発動型のスキルではない。つまり、前もってトラップを知るなんて芸当は出来ないはずなのだ。だが俺は、トラップの事実をあえて伏せ、ギリギリで救出。
危機を演出する事で、俺の行動が更に美化されていく。
「次からは俺も一緒に戦う」
「主、私の為に……」
「いいから。お前に死なれちゃ困るって言ったろ」
嗚呼困る。大いに困るね。
お前にはこれからも、俺にスキルを提供して貰う。
好感度の上昇が楽しみだ。
「それで、本音は?」
「ん?」
あれ、あれれれれ???
「主が命懸けで金稼ぎって、性にあわないと思うんですよね。てっきり裏があるとしか」
「る、ルナに美味しいご飯を食べさせてやりたくてさ」
「何か早急に必要な理由があるんですよね、ね?」
くそっ、目敏いなこの女!
俺が俺を明かす度、ルナもまた俺を理解しつつある。今の好感度上昇も、俺の心境を読み解いてこそだったのか。
「主、怒らないので答えてくださいよ」
「ええっ……いや、その」
「教えてくれたら、夜のお世話♡ してあげますよ」
えっ。
「新しい奴隷を買おうと思って」
「最低ですね」
15→12。
ああ、やっちまった!
□■□
「この魔石、幾らになるんでしょう」
ずっしりと重たそうに麻袋を掲げるルナ。
戦闘をするにも少し重たそうだ。
ダンジョンに入って、四時間程が経過した。
片っ端から魔物を倒し、魔石を集めていたが散策する場所も限られてきたと思われる。
「階層主ってのが居るらしいな」
「ですね、注意事項で言っていました。それを倒さないと次の階層には進めないと」
ボスの情報を抜きに倒しに行くか。それともここで一旦引き返し、得た金で情報を買うか。悩ましいところだ。
体力も疲弊している。休憩も取っていない。特にルナは前線で剣を振るっている分、体力の損耗が激しいはず。
「ルナ。正直に言ってくれ、ボスは行けそうか?」
「大丈夫です……このくらいは」
ルナは肩で息をしていた。
「やっぱり引き上げよう。無理する事はない」
「で、でも……」
オオオオオオォォォ……。
「なんだ!?」
ダンジョンにこだまする声。
冒険者を呪い殺す怨嗟の叫び。
不気味にも空間を震撼させる。
「あ、主……」
「緊急事態だ」
階層主の声なのか。
いや、違うだろう。何故なら声は俺達の後ろから聞こえているからだ。声に従って、魔物達が次々と覚醒する。
十体、二十体じゃない。もっと沢山の数。
声に影響されて、魔物達がその地に産まれ落ちる。
「ルナ、走るぞ」
ルナの手を握る。
ここから判断を間違えれば……死ぬ。
確かルナのスキルに、
名前:ルナ レベル:12
HP152/180 MP520/520
ギルド:無所属
ユニークスキル:【???】
スキル:『隠密行動』F『剣術』E『体術』F『冷静』F『軽業』F『料理』G『並列思考』G『瞑想』G『敵感知』G
「ルナ。『敵感知』を使え。近くの敵だけでいい」
「分かりました」
ルナがスキルを発動し、目を閉じた。
その間導くのは俺の役目だ。
今は接敵を防ぎ、逃走経路を確保する。
一ヶ所に留まり続けるのは危険だ。
「ここは……」
「どうしたルナ」
ルナが怪訝な顔をして眉を寄せた。
「一ヶ所だけ、魔物がいない場所があります」
「きっと安全域だ」
迷宮のどこかに存在するという安全域。そこでは一切の魔物が湧かず、冒険者達の休憩場所と呼ばれている。
『敵感知』を使いながら巧妙に交戦を避け、回廊を走っていく。随分と長い距離を走ってきた。正直元に戻るのは難しいだろう。
多数の足音が鳴り響く。
敵がすぐ後ろまでやって来ていた。
「なっ」
二手の分かれ道だ。
まるでこれは運命の岐路。
「どっちだ」
「右」
「オーケーだ、スキル発動……『幻惑』」
魔物の群れが二分され、渋滞を起こす。先頭の魔物に俺達が「左に走って行った」という『幻惑』をかけておいた。全部の魔物に『幻惑』を見せるのは熟練度的に不可能だ。だが、こうも細い道だとその迷いが一瞬の命取り。前方の一体にさえ『幻惑』を見せれば、大渋滞の完成だ。
「主、もう少しです」
重厚な扉が俺達を出迎える。
極太の柱に、メラメラと燃える蒼い焔の松明。
俺とルナは迷わずその場所に飛び込んだ。
暗い。何も見えない。
片手に女の子の温もりがある。
それだけが、安らぎを与えた。
強く握り込む。
決して離さない。
ルナの息遣いが近くで聞こえた。緊張している。
俺もだ、死の淵を彷徨って恐怖していた。
だが、ルナの手前怯える事は出来ない。
俺はルナを導く立場にあるのだから。
歩を進めた。靴音が遠く響く。
瞬間、焔が空間を包み込んだ!
ボウ、ボウ、ボウ……!
「なんだ?」
「主、まさかこれは……!」
暗がりの中、天井に至らんばかりの巨躯が顕になる。
分厚い鋼のような胸筋、血管が浮いた腕。三メートルはあろうかという木製の棍棒。
ギンッと鋭い双眸が開かれた。
名前:『巨大鬼』
備考:第一階層主
「階層主……まさか、ここはボス部屋だ!」
名前:レイ レベル:3
HP238/250 MP100/100
ギルド:無所属
ユニークスキル:【魅力支配】
スキル:『言語理解』E『鑑定眼』F『交渉術』F『礼儀作法』G『剣術』G『挑発』G『料理』G『幻惑』G
名前:ルナ レベル:12
HP152/180 MP520/520
ギルド:無所属
ユニークスキル:【???】
スキル:『隠密行動』F『剣術』E『体術』F『冷静』F『軽業』F『料理』G『並列思考』G『瞑想』G『敵感知』G





