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第14話 あれが新人の動きなの……!?

 

 私はシャルロット。幼馴染のノエルと共に、ちょうど一年前冒険者になった。アルテミシアには地下に巨大なダンジョンを有しており、腕自慢の冒険者達がダンジョンへと足を踏み入れる。


 地下は全部で十階層までとなっており、一階層から二階層に下るには最低でも一年はかかるとされている。地下に潜る程ダンジョンに出現する魔物は強くなる。


 だからこそ、一年という修練を経て次なる新天地へと足を踏み入れるのだ。私達は今日初めて二階層へと行く。


「ふぁぁ……」

「ノエル。何眠そうな顔してるのよ」

「だって、昨日夜更かししたから」


 半分目を閉じた魔女姿の少女の名はノエル。大きめの黒い外套を身に纏い、利き手側には随分と長い杖を有している。魔道具の一種で、魔法発動の補助をするのである。


「そういうシャルこそ、昨日はちゃんと寝た?」

「勿論……って言いたいけど、緊張やら不安やらで途中で起きてから寝れなくなっちゃったよ、たはは」


 私は情けなく頭を搔いた。


 階層が違えば、魔物の数も質も大きく変わる。

 その分収益は今までの比にならない。


「さあ、行こうノエルっ」

「そうだね。覚悟も決めた事だし行こっか」


 準備は万端。回復薬(ポーション)や武器の手入れも怠っていない。やる事は以前と一緒だ。


 ダンジョンの入口には、護衛の騎士が立っている。

 ギルド証を見せると軽く会釈された。


「お気を付けて」

「はい。行ってきますっ」


 階段を駆け下りる。

 靴の音が地下に反響する。


 湿度が高く、空気が一気に冷える感覚。空の明かりが消え、洞窟に光る緑の苔が優しく私達を包み込む。生物の気配、息遣い。その瞬間に、ここが安全では無い事を理解した。


 ダンジョン。


 その一階層。一年通い続けた場所。

 トラップの位置も、宝箱の位置も。

 その全ては脳裏に焼き付くようだ。


 そして、二階層へ続く道も……!


「ねぇ、シャル。あれ見て」

「な、なにもう。せっかく人が行こうとした時に……」


 ノエルが私の肩を叩いて奥を指さした。そこには、まだ初心者と思しき二人の冒険者の姿があった。


 一人は黒髪の少年。もう一人は、彼よりも少し背の低い『猫人種(ケットシー)』のようだった。


 これといった装備もなく、肩に提げた剣だけが唯一の得物に見えた。回復薬(ポーション)等の荷物も見当たらない。そして行く先すらもまるで決めていないように見えた。


 あれは間違いない。

 ちょうど私達が一年前に繰り広げた光景その物だ。

 右も左も分からず、魔物の咆哮ですぐに腰を抜かしていたあの頃。パンツに少し染みがついたのがいい思い出だ。


 あの二人もきっと恐怖するだろう。

 でも、一年後……きっと私達のようになるはずだ。


「行こうか」

「うん、ノエル」


 二人を横目見ながら、私達は二階層へと向かう───。


 その刹那。


「主。ここに隠し通路があるようです」

「ふむ。こんな序盤にか?」

「主。"冒険"心が疼きますね」

「知らん。お宝があればそれでいい」

「つまらない答えですね」

「ほっとけ」


 嗚呼、ダメだ。

 私は叫びそうになった。


 あの道は、相当な観察力が鍛えられてようやく気付く隠し部屋への通路。しかしそこには数多の魔物が連なるトラップが次々と反応し冒険者を襲いかかる。


 故に、あの道に付いたあだ名は……"初心者殺し"。


「行くぞ、ルナ」

「はい……主」


「「っ……!?」」


 止めないと。


「ノエル!」

「うん、分かってる」


 追いかける。

 魔物が出現する気配。


 あの人達は防具を付けていない。もし一撃貰ったら、いくら序盤の一階層だからって致命傷になりかねない。


「二人共……!」


 お願い、生きていて。

 こんな所で死なないで……っ。


 その瞬間、目を疑った。

 風が吹いた。


 疾走し、放たれた一陣の風。

猫人種(ケットシー)』の少女が突き抜ける。


「ルナ。魔物の気配、次々来るぞ。狩りの時間だ……っ」

「はい。スキル『剣術』」


 閃光が迸る。

 壁面から現れ出す『大鬼種(オーガ)』の群れ。

 その僅かな隙に、確実に首を刈り取る少女。


 ……私の目じゃ、追い切れない!?


「左方向殲滅完了」

「悪いな、上からも三体同時だ」

「了解ッ」


 それにあの男の方。

 的確に敵が来る方向を伝え、狙う場所を指示している。下手をすれば現れる前から事前に察知しているような洞察力。


 まるで……未来視に迫る手の打ち方。


「右3、終わったら……後ろからもだ」

「分かりました」

「遅いぞ、ルナ。このペースじゃ今日中に一階層は無理だぞ?」



 今日中?

 どういう事。あの人達はいつからこの階層に?


 有り得ない、そんな事が。


「討伐完了。魔石回収終えました」

「助かる。奥の宝箱も覗いとけよ」

「はい。……うわぁ、綺麗なローブ!」

「良かったな。ちんちくりんのお前でも着れそうだ」

「な、失礼なっ。私ならなんでも似合います」

「無理無理。お前海でもスク水着てそうな身体してるし」

「どういう意味ですか!」


 ……本当にどういう意味?


 そして、初心者殺しと謳われた道を完全踏破した二人は、肩を解しながら、ちょうど私達が今向かおうとしていた二階層に続く道へと足を進め始めた。


「ね、いつまでこうしておくつもり」

「ひやっ、脇触らないで。私だって隠れるつもり無かったんだよ? でもあんなの気になるでしょ!?」

「そーだけど……」


 物陰に隠れていたノエルが私の脇に触れた。

 退屈そうに、頬を膨らませているのが分かる。


 すると、例の二人は派手に足音を立てて走り出した。


「あー、あんなに音を立てたら」

「……近くの魔物が襲いに来る」


 ダンジョンでは音を立ててはいけない。

 これは冒険者が誰でも知る常識だ。


 走るなんて、交戦時以外では言語道断。

 無駄に交戦を重ねてしまうだけだ。



 私達も密かに追いかけた。


「ルナ。突っ切れ。俺が援護する」

「雑魚は引っ込んどいてください」

「どうして戦いになると口が悪くなるの」


 魔物が次々と現れる。

 二人は剣を構えた。


 男が前に出る。

大鬼(オーガ)』の強烈な一撃が男を吹き飛ばした。剣で辛うじて防御はしているようだが、危なっかしい。派手に砂埃を立てて、男が剣を杖に立ち上がる。


「グァ……!?」


「危ないっ」

「いや……待って、シャル。今のは」


 次の瞬間、襲った『大鬼(オーガ)』は倒れていた。

 ルナという少女が、死角から首を斬っている。早い。


 今度はルナが前に出る。『軽業』のスキルか、計画な動きで即死級の攻撃を捌く。


 男が居ない。一体どこに……?


「はぁああ!」


 大上段からの一撃が『大鬼(オーガ)』に突き刺さる。

 あの動き、あの連携。


 お互いに信頼していないと絶対に出来ない。

 別段強い二人ではない。それは分かる。Aランク冒険者の方が身に纏う雰囲気は格段に上だし、実力もそれに伴って強いだろう。


 でも二人の動きはそれとはまた違う。

 互いを『囮』に獲物を狩る。


 あれは、魔物討伐では無い。狩りなんだ。


 少年が吹き飛ばされたのもわざと。

 少女が逃げに徹していたのもわざと。


 あれは全部、相方に一撃を任せる為……!


「「はぁあああッ!!」」


 両側から脛を切り裂く。巨体が粉塵を上げて、膝を付く。そこに恐怖心は感じられなかった。当たれば致命傷の一撃も、どこか涼しい風を浴びるみたいに端然と"作業"を熟す。


 あれが新人の動きなの……!?


殺人兎(キラーラビット)』が少年の死角に迫る。ちらりと背後を一瞥した少年が剣を構えた。


 左足を後ろに少し上げる。刀身は低く、静かな構えだ。

 王国騎士派の剣技では無い。


 素早い一撃。

 どさり、と肉塊と成り果てて堕ちた。


「今のはなんですか、主」

「剣道……かな」

「なんですかそれ」


 無数の引き出し。

 全てを出し抜く目と知能。

 そして、それをカバーする信頼感。


 私達はとんでもない逸材を今、目にしているのかもしれない。



名前:レイ レベル:3

HP242/250 MP100/100

ギルド:無所属

ユニークスキル:【魅力支配(ヴィーナス)

スキル:『言語理解』E『鑑定眼』F『交渉術』F『礼儀作法』G『挑発』G『料理』G『幻惑』G


名前:ルナ レベル:12 

HP168/180 MP520/520

ギルド:無所属

ユニークスキル:【???】

スキル:『隠密行動』F『剣術』E『体術』F『冷静』F『軽業』F『料理』G『並列思考』G『瞑想』G『敵感知』G

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