第11話 お部屋はお一つで。
「変態」
「不可抗力だ!」
宿の受付で叫ぶ俺。
仏頂面でルナは俺を見ていた。
宿探し。
ルナは奴隷出身。そして俺も転移者。
実家と呼べる場所は無い。
家を買うには金が足りない。
必然的に宿を取る必要があった。
だからと言って、不要な出費は最低限にしたかった。
「ルナは何か希望あるか?」
主の責務として、あくまで事務的にルナに尋ねた。
ルナはうーんと顎に手を当てながら考えていた。
「キッチンとお風呂があって、広々としたリビングがあれば正直どんな場所でも……」
「注文多すぎだろ、舐めんな」
という要領を得ない会話を続けていた。
そんなこんなで宿を探していたら、日が暮れた。少なくとも今日一日は我が儘抜きに泊まれる場所を探そうという結論に至った訳なのだが。
ようやく空き室のある宿を見つけた時、事件は起きた。
「お二人様でよろしかったでしょうか」
「ああ」
宿の店主が俺とルナを交互に見ていた。
若い男女が同じ屋根の下で寝泊まり。
そこに要らぬ配慮を持ち込んだ。
「お部屋はお一つでよろしいでしょうか」
「ああ」
「……!?」
そして、現在に至る。
「やっぱり変態ですね」
「俺達の経済状況を知っての狼藉か?」
「全財産銀貨十八枚。一泊銀貨二枚なので九日で底をつきますね」
「そうだ。なのにルナは二部屋取れと言うのか?」
「盛った主が何をするかわかりませんね」
俺は発情期のサルか。
胸の前でルナは手をクロスしていた。
「その貧相な身体で俺に何するって」
「こ、この人……!」
「店主。一部屋でいいぞ」
「かしこまりました」
ふはは、俺がその身体に欲情するとでも。
それはお前の驕りだ。
「ふふふ……私の身体が、貧相、ですか」
「五年は経って出直してこい、ふはは」
「なら今晩欲情すれば主の負けですね」
「いいだろう、望むところだ」
と、ワーワー叫びながら自室へと向かう俺達。
その後ろ姿を呆然と店主は見つめていた。
「仲いいなぁ」
「ベッドは二つありますね」
「当たり前だろ。何期待してたんだよ」
ここは、ただの宿泊施設であってラブホじゃない。
そういう目的は想定されていないのだ。
「じゃあ俺は窓際で寝るから」
「ずるい。私も窓際がいいです」
「ふはは、早い物勝ちだぁ、負け犬はそこで寝てろ」
「私はどちらかというと猫ですが!」
ふしゃぁ、とルナは全身の毛を逆立てた。
「なら一緒に寝ますか?」
「え、まさかさっきの真に受けてたの」
「違うんですか、それとも臆したんですか?」
ルナがあからさまに俺を挑発する。
髪をくるくると弄りながら様子見ていた。
俺も男だ。
この手の挑発を無視できない。
所詮は今日会ったばかりの他人。
しかも可愛げのある女の子だ。
今後も付き合いがある以上、自重はしていたが仕方ない。
舐められたままにしておくのは危険だ。
理解らせてやる。
「どうぞ、スペースは空いてるぜ?」
「なっ」
俺はベッドのシーツをポンポンと叩く。
途端、ルナは顔をカーッと赤らめた。
「どうした、威勢だけはいいんだな?」
「え、今のは……その」
「ふはは、所詮は子供。少々刺激が強かったか」
「ぐっ……この主は」
「んー? どうした?」
「いいでしょう」
「へ?」
「一緒に寝ましょう!」
さて。
そんなほぼ放送事故とも言えるやり取りの後。
俺とルナは、ベッドが二つあるにも関わらず、同じベッドで肩を寄せ合っていた。女の子特有の柔らかさで全身が満たされ、温もりが安息を与える。
俺の胸に顔を埋めるようにルナはぴったりと抱き着く。
顔を万が一にも合わせたくないといった様子だった。
控えめながらも確かにある胸の感触が伝わってくる。
やはりこれはいけない。
ルナをからかい過ぎた。
仕方ない、そろそろ謝って解放してもらおう。
「ルナ。悪かった。俺が退くから……」
すーすー。
可愛らしい寝息が聞こえてくる。
「ルナ?」
安心した顔で眠っていた。
律儀に俺の服を握り締めて、だ。
「おいおい、勘弁してくれよ」
そう文句の一つも言ってやりたかった。
でも、ルナはきっと俺以上に疲れていたんだ。
彼女に何があったのか知らない。あれこれと悩みを感じさせないように必死に振り回した結果、自然と年相応の笑顔を出すようになった。彼女の過去を無条件に背負える程、俺はルナを知らない。
好感度以前に、まずは信頼を勝ち取らないと。
ルナの髪をゆっくりと撫でた。
温かい風呂にも入らせてやりたいな。
ぐぅ。腹の虫が鳴った。
嗚呼、畜生。その前に腹減った。
夜も結局何も食べてない。
まだまだ、やる事は山積みだ。
俺は明日に備えて眠りについた。
名前:月乃 玲
ギルド:無所属
ユニークスキル:【魅力支配】
スキル:『言語理解』E『鑑定眼』F『交渉術』F『礼儀作法』G『挑発』G『料理』G『幻惑』G





