899.水色の結晶
迷子ちゃんとの再会は、神殿深部。
その場に待ち受けていたのは、新たな結晶を得たという黒仮面だった。
向けられるのは、水色の結晶を付けたクロスボウ。
「【エイムアップ】……いくぞ」
狙いを大きく向上させ、放つ連射は水をそのまま矢に変えたもの。
「【バンビステップ】」
「【スリップ・フット】」
二人はこれを進みながら回避し、黒仮面への接近を仕掛ける。
「【クイックダッシュ】」
しかし二人を引き付けたところで、黒仮面は移動速度を上昇。
単純な高速移動スキルでしっかり距離を離しつつ、こちらにクロスボウを向ける。
「【ブルーストリーム】」
「「っ!!」」
一撃で15本の水矢を同時発射する、そのスキル。
これを移動しながら放つというのは、なかなかにやっかいだ。
狙われたメイはしっかり見て足を止め、細かなステップで回避する。
「いきます!」
この隙に迫るのは迷子ちゃん。
「【ジェット・ナックル】!」
「【エアトリック】」
蒸気を噴き出しながら迫る拳打を、黒仮面は回転跳躍で回避。
高い跳躍だが、その間に向きを自在に変えられるのが強みのスキル。
振り返りと同時に駆け出す迷子ちゃんに、空中から照準を合わせる。
「【ウォーターストライク】」
「っ!」
炸裂する高圧の水砲弾。
降り際に攻撃を放つことで、接地の瞬間を狙わせない。
まんまと着地に成功した黒仮面は、再びクロスボウをこちらに向けた。
「【ブルーストリーム】」
二人はこれを集中して回避。
そしてメイにとっては二度目の攻撃だ。
迫る15本の水矢の隙間を見て、前進を仕掛ける。しかし。
「【ヘビードロップ】」
水矢の陰に隠すようにして放たれた、ピンポン玉ほどの水弾が遅れて飛来。
メイはこれくらいなら問題なしと、多少のダメージを覚悟して突き進むが――。
「え、わああああああーっ!?」
「きゃあっ!」
それは大型の魔物に突撃されたかのような、冗談のように重たい一撃。
比重を変えた小さな水滴が、メイと迷子ちゃんを一緒に吹き飛ばす。
絡み合うようにして転がった二人が顔を上げると、すでに黒仮面は追撃の体勢に入っていた。
「【バレットレイン】」
放った水砲弾が天井に当たって弾け、降り注ぐ。
「【裸足の女神】っ!」
それを見たメイは、すぐさま迷子ちゃんの手を引きこの場を離れる。
すると直後、降り注いだ雨粒が床にバチバチと深い穴を穿った。
「【スティッキージェル】」
続く黒仮面の攻撃は、飛来する水球。
しかし照準を間違えたのか、メイの前に着弾。
この隙を突き、メイは距離を詰めに行く。
「うええええっ!?」
しかし広がった水たまりに足を踏み込んだ瞬間、駆けるメイの足が止まった。
どうやらかなり粘度の高い水に、足を取られてしまったようだ。
これを見た黒仮面は、クロスボウを構えて足を引く。
「【串刺し水槍】」
碧の光が煌々と輝き、放たれる水の槍。
「させませんっ! 【ジェットナックル】!」
あからさまなメイ狙いの行動に、迷子ちゃんはすでに攻撃体勢に入っていた。
蒸気を噴き出し進む正拳突きで、横から黒仮面を吹き飛ばし、放たれた水槍は軌道をズラされメイの頭上を越えていった。
「ありがとーっ!」
「こちらこそですっ!」
後方で弾け散る水槍の爆音を聞きながら、ようやく解放されたメイが迷子ちゃんとハイタッチを決める。
「いきましょうっ!」
「はいっ!」
バウンドして、派手に転がる黒仮面。
二人は倒れ込んだところを狙って走り出す。
「【バックローリング】!」
しかし黒仮面はめずらしい『転倒からの高速復帰』スキルで後転から華麗に体勢を立て直し、クロスボウを構える。
「【ブルーフラッド】」
放たれるのは一撃30発の水矢を3連続で放つ、必殺スキル。
その勢いに、思わず目を奪われる迷子ちゃん。
しかしメイの足は止まらない。
「いーちゃん!」
肩に現れたいーちゃんが放つ突風が、水矢を飛沫に変えて粉砕。
「続きます! 【ロックアーム】!」
続く二陣目の水矢たちを、ブロックの腕で弾き飛ばす。
「【装備変更】【裸足の女神】!」
そしてこの時すでに、メイの準備は万端。
「【カンガルーキック】!」
一瞬で距離を詰め、黒仮面に前蹴りを叩き込む。
すると三発目の水矢たちは軌道が変わり、天井に着弾。
大量の飛沫を降らせる。
「【バスターゲイザー】!」
そこへ砂煙をあげながらの突進してきた迷子ちゃんが、ド派手なエフェクトのアッパーで黒仮面を打ち上げた。
「【装備変更】っ!」
ここでさらに【狸耳】を装備したメイが、【まやかし】で巨大化。
もちろんこれは単なる幻だ。
しかしその姿に目を奪われたことが、勝負を分ける。
「【虎爪拳】! がおおおーっ!」
「な……にィィィィィっ!?」
迫る巨大メイの振り下ろす手が、黒仮面を叩き潰す。
この一撃は判定もダメージも通常の【虎爪拳】だ。
だが、トドメの一撃には十分なダメージ。
メイは最後に二度ほど、ぽんぽこと腹鼓を披露して勝負あり。
二人は見事な共闘で、水色結晶の黒づくめを打倒した。
「ないすーっ」
「ないすですーっ」
二人はハイタッチして、勝利を喜び合う。
「……あ、でも水の柱がなくなっちゃった」
「下階から上に戻ることは容易なので、一度上階を確認しましょう。レンさんたち、真上にいるんじゃないでしょうか」
迷子ちゃんが紋様の上に乗ると、中心の宝珠が輝き水柱が生まれる。
メイは泳いで上階の床に顔を出し、迷子ちゃんが消えないよう何度も振り返りながらレンたちを呼ぶ。
「みんなー! こっちこっち! 早めにお願いしますっ!」
するとすぐに、レンたち三人が駆け寄ってきた。
「おや、迷子ちゃんさん早い再会になりましたね」
「はいっ」
水柱を降り、再会を喜び合う五人。
そんな中、メイの耳がピクリと動いた。
奥の扉から入ってきたのは、三人の黒仮面。
それを見て、倒したばかりのクロスボウ使いもフラフラと立ち上がる。
「ほう、水色結晶を使っても抑えられぬとは……かなりの手練れのようだな」
三人の中心を歩いていた黒仮面は、読みかけの本を片手に告げる。
「引き上げだ」
「……いいのか?」
「ゲートは後回しでいい。ゼティアに必要なのは――――鍵だ」
そう言って中央の黒仮面は、手にした本を軽く持ち上げる。
「アサシン共が『本』を隠したがるわけだな。こいつを読むと、鍵の存在が門を開くとされている。そして今回は新たに水を変化させる結晶を得た。こいつを研究すれば、管理者を怖れる必要もなくなるだろう」
「収穫は十分というわけか」
「その通りだ。かつては世界の破滅を防ぐために戦ったという王たちですら、敵ではないだろう。我らが覇道の邪魔となるのであれば、ナディカごと毒の海に沈めてやる」
「そんなことさせませんっ!」
「それを決めるのは、新たな世界の王たる我らだ。行くぞ」
「はいそうですかと、帰らせると思う?」
転移宝珠を取り出し、立ち去ろうとする黒仮面に杖を向けるレン。
「異世界を目指す我らを、止められる者などいない」
そう言って黒仮面が水色の結晶を輝かせると、生まれる四枚の水壁。
「【フレアバースト】!」
「【ソードバッシュ】!」
レンとメイが、即座に放つ一撃。
しかし水壁が黒仮面を守り、その向こう側で転移宝珠が輝きを見せる。
そのまま黒仮面たちは、姿を消した。
「……一見余裕の感じでしたが、水壁が三枚消し飛んでましたね」
「も、もし破れた場合はどうなっていたのでしょうか……」
そのままここで戦いになるのか、それとも攻撃を喰らって吹き飛ばされながら転移していくのか。
ゴロゴロ転がりながら消えていく黒仮面たちを想像して、少し笑ってしまうツバメだった。
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