886.ターンバトルの定番
雫のフロアを抜けたメイたちは、再び水の廊下を進んでいく。
新たな空間にたどり着いた人魚は振り返り、床に描かれた紋様の上へ。
見ればこのフロアには三つの紋様が描かれており、その中心部には水色の結晶が埋め込まれていた。
残り二つの紋様から、浮かび上がったのは二つの雫。
粘度の高い液体は、その形を人魚に変えていく。
そして、二体の水塊人魚が完成した。
「この子たちを打倒できるかどうか。これが次の試練です……!」
人魚がそう告げると、二体の人魚型は同時にフロア内を泳ぎ出し、攻撃を仕掛けてくる。
自在かつ高速な泳ぎで迫る人魚型の手が、『剣を握った形』に変化。
「【跳躍】!」
泳ぎから放たれるという変わり種の斬り抜けを、ツバメはジャンプでかわす。
もう一体はレンを狙い、手を『ハンマーを持った形』に変えて振り降ろしにくる。
「【かばう】【地壁の盾】!」
もちろんこれを、まもりは見逃さない。
驚くほどに重たい一撃を、それでもしっかり防御する。
するとすぐにハンマーが消え、そのまま退避の体勢に入る人魚型。
しかしまもりは、すでに攻撃体勢に入っている。
「【シールドバッシュ】!」
突き出す盾が生み出す衝撃波に、大きく弾かれた人魚型。
それを見たレンが、すぐさま追撃を行う。
「【フレアバースト】!」
見事に爆炎を的中させ、片方の人魚型を打倒することに成功。
「これであと一体! ……ちょっと待って」
思った以上にあっさり決まった勝負。
しかし粉々になった人魚型の水滴が一瞬で集合し、再び人魚に戻る。
「この感じ、おそらく二体同時に倒さないと、いくらでも復活するやつよ……!」
「その通りです。完璧に息を合わせて戦わなければ、勝利など永遠におとずれません――――っ!」
三つ目のクエストのポイントを、はっきりと宣言する人魚。
速い移動、手の武器を変化して攻撃のタイミングと範囲を変える戦法。
これをほぼ同時に倒すことが必要という条件は、なかなか厳しい。
「【装備変更】! ウォオオオオオオ――――ッ!!」
メイは頭装備を【狼耳】に変更し、【遠吠え】を使うことでこれを同時に引き寄せる。
すぐさま飛来した一体目は手に槍を生み出し、連続突きで攻撃。
これに対して二体目は別角度、距離も離した状態から、手にした短剣を連続投擲。
「うわっと!」
メイも、槍の突きの間に飛んできた短剣をかわすという妙技で対抗。
「【フルスイング】!」
すぐさまその力強い振り払いで人魚型を吹き飛ばすが、二体目の距離感は絶妙で、同時に斬り飛ばす形にはならない。
そしてのこの一瞬で、すぐに復活を果たした。
メイとツバメはここで目配せし、同時に走り出す。
狙いは一体ずつ同じタイミングで敵を討つ形だ。
手をハルバード持ちの形にした人魚型の攻撃に、生まれる烈風。
「【装備変更】【アクロバット】!」
風にわずかに押されながらも、メイは人魚型の豪快な振り回しを飛び越え、剣を振り下ろす。
その一撃は人魚型を斬るが、わずかに風に押されて斬り飛ばすには至らなかった。
即座の追撃で、今度こそ粉々にするが――。
「【加速】【リブースト】【瞬剣殺】!」
この時すでに打倒に成功していたツバメとタイミングがずれてしまい、また復活。
「【フルスイング】!」
また二体になったところで、メイは大きな払いで一撃必殺を決める。
しかしツバメ側の人魚型の攻撃は、なんと魔法。
「【サクリファイス】【電光石火】! っ!」
放たれた雫は、宙に停止する。
それはただの障害物だが、腕を弾かれ速度が低下。
ツバメが人魚型を切り裂いた時には、メイ側の人魚型が復活し、結果二体とも元通り。
2体を合計4度倒すという見事な連続攻撃にもかかわらず、巧みな『ズラし』でわずかに間が合わない。
「このフロアまでたどり着いたのは見事です。ですが先へ進むなら、このくらいの試練は乗り越えられなければ話になりません。個の力など所詮は小さなもの。それを知らなければ、この先へは進めないのです」
人魚はそう言って、厳しい視線を向ける。
どうやらここも、長い時間をもらえるわけではないようだ。
「……私に、任せていただけますか?」
するとこの状況下、ツバメが名乗りを上げた。
絶妙な距離感による同時被弾の回避、攻撃手段を変えることで間を変える戦い方。
さらに空間を自由に使った移動までする敵の、同時打破。
どう考えても一人での攻略は難しい。
だが、反論はなし。
ツバメが自ら前に出ることは少なく、レンたちはむしろワクワクしながら快諾する。
「【連続投擲】!」
メイが下がり、ツバメはまず一体を【ブレード】による攻撃で挑発。
「【加速】
敵が動いたのを確認して、もう一体の方へ向かう。
人魚型の手が曲剣の二刀流になり、踊るような剣撃が迫る。
これをツバメは丁寧な見切りで、しっかり回避。
「【電光石火】!」
すぐさまの斬り抜けはやはり、人魚型を倒すには至らない。
「【反転】」
振り返れば、後を追ってきた一体目がムチでツバメを攻撃。
振り下ろされる一撃を横移動でかわし、続く二体目の曲剣の振り上げをバックステップで避ける。
二体の攻撃を見事にかわし、やって来た反撃の流れ。
「でも、うまく距離感を保ってるわ……!」
【八連剣舞】でも、【瞬剣殺】でも両方は倒せない距離感に、レンが悔しそうにつぶやく。
「【加速】【リブースト】!」
するとツバメはここで、突然二体の人魚から距離を取った。
これを見た人魚型は、嫌らしい時間差を付けてツバメを狙う。
さらに敵は右から一体、左から一体。
攻撃の方向さえズラしてくるという、徹底ぶり。
「……それではダメです。個ではこのフロアを抜けられません……っ!」
順番に倒したのでは、もちろん間に合わない。
そんな光景を見て、ため息と共に首を振る人魚。しかし。
「【反転】」
迫る時間を前に、ツバメはその手を【村雨】に添えた。
「――――【斬鉄剣】」
放たれる剣閃が、大きな弧を描く。
メイが、レンが、まもりが思わず息を飲んだ。
ツバメがカチンという音と共に刀を鞘に納めると、水でできた二体の人魚は同時に真っ二つ。
そのまま盛大に弾け散って消えた。
「た……確かにそのスキルなら、一人で二体同時も不可能じゃないけど……」
あの移動の速さ、加えて別々の軌道と距離感。
それでも二体をしっかり捉えて同時に斬ってみせたツバメに、思わず感嘆するレン。
「一人で……二体同時になんてありえません……っ」
三回連続で、『想定外』のセリフを言わされることになった人魚。
驚きの表情を見せたまま硬直する演出を見るのは、後にも先にもメイたちだけだろう。
こうして四人は、今回のクエストも見事に達成してみせた。
「なんだか最後は、『できません』がフラグのように聞こえていました」
「ふふ、本当ね」
「ツバメちゃんかっこいいーっ!」
「はひっ! これぞ必殺技という感じでした!」
いまだ硬直したままの人魚を前に、メイたちはハイタッチで喜び合うのだった。
誤字脱字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
返信はご感想欄にてっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




