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812.密林の帝王

「それでは……いきますっ!」


 帝国の重厚なコンサート会場は、密林へと姿を変えた。

 深い草と木に覆われたホールの中を、【蓄食】で【敏捷】を大きく上げたメイが走り出す。


「【装備変更】!」


 鳴り響く勇壮な音楽の中、頭装備を【猫耳】から【鹿角】へ。

 圧倒的な速さと柔軟性を持ったメイを、ルーデウスは得意の結晶腕攻撃で迎え撃つ。


「朽ち果てろ! 卑しき賊ども! 【爆炎樹晶】ォォォォ!!」


 正面に向けて伸ばした右手が巨木の枝のように広がり、切り裂く一撃が一斉に迫りくる。


「【バンビステップ】!」


 しかしメイは速く柔らかな足使いで、これを当たりまえのようにかわしていく。

 直後、結晶の刃が炸裂して散らばった破片も――。


「【裸足の女神】!」


 急加速で置き去りにして、そのまま一気にルーデウスのもとへ駆け込む。


「【結晶刺突】!」


 凄まじい速度で結晶が刃を作り出し、繰り出される突き。

 メイはこれを走りながら、いよいよ頭の傾け一つでかわしてしまう。

 ルーデウスはそのまま回転斬りに入ろうとするが、その刃の長さゆえに数本の太い樹木に引っかかってしまった。


「それっ! それそれっ!」


 この隙にメイは、剣の三連撃を叩き込む。

 大きくたたらを踏んだルーデウスは、即座に手刀を粉砕。

 速い再構成を終えるのと同時に、大きく一回転。


「【岩晶剛槌】!」


 長い尾の先端を巨大なメイスのように変えての回転撃は、直撃すれば岩をも砕くほどの威力。

 だが尾の中ほどが木に当たってしまえば、それもゼロとなる。


「【バンビステップ】【装備変更】【アクロバット】【尾撃】!」

「「「うおおっ!!」」」


 一方メイはルーデウスのヒザに足をかけ、大きなとんぼ返りを決める。

 猫の尾でアッパーを喰らわせるほどの余裕を見せ、観客たちが思わず歓声を上げた。


「【大剣紫峰】!」


 一気に主導権を握られたルーデウスは、足元から突き上がる結晶で対抗。

 生み出した鱗のような刃で追撃を抑えると、すぐさま向ける左腕。


「【暴風結晶】!」


 結晶の剣山が砕け散るのと同時に、早くもメイたちを苦しめた結晶片の嵐を放つ。


「【バンビステップ】!」


 しかしすでに密林の合間に駆け込んでいたメイには、かすりもしない。

 障害物のない空間での戦いを想定されたそのスキルは、厚い木々の壁に阻まれたこの空間では役に立たない。


「そこだ! 【掌握結晶】!」

「【ラビットジャンプ】!」


 つかみに行くクレーンアーム。

 メイは跳躍一つで樹上に跳び上がり、結晶碗は虚しく木の幹をつかんだ。


「【装備変更】【アクロバット】!」


 ここでメイは枝の隙間を跳び抜け一回転。

 そのまま剣を振り下ろす。


「【フルスイング】だああああ――――っ!!」

「くっ!!」


 放たれる豪快なエフェクトの一撃を、ルーデウスは必死のバックステップでかわす。


「ッ!?」


 しかし下がったその背を止める、一本の大木。

 その事実を確認した時、すでにメイは目前にいた。

 ルーデウスは即座に、防御態勢を取る。


「【装備変更】! 【カンガルーキック】からの……【キャットパンチ】! パンチパンチパンチ!」


 防御は一瞬で、前蹴りによって崩された。

 そして始まる、拳の連打。


「……どうなっている!? これは一体どうなっている……っ!?」


【狐耳】装備のメイが【狐火】で叩き込む連打は、青い火の粉を豪快にまき散らす。

 ルーデウスはついに、焦燥を見せ始めた。


「あれだけの攻撃を完全回避して、一方的に打ち込んでる!」

「森の中のメイちゃん、やっぱ半端じゃねえ!」


 緑に飲まれた会場。

 これまでメイたちを苦しめた技が容赦なく無効化されていく事態に、唖然とする観客たち。


「【命ずる】――――ッ!!」


 拳の連打を受けたルーデウスは、大きく手を上げ強引に魔法陣を展開。


「砕け散れ【極大結晶】――――ッ!!」

「【モンキークライム】!」


 落下してきた大型の結晶塊にヒビが入って炸裂し、破片が散弾のように放たれる。

 しかしメイはすでに樹上へ退避済み。

 紫結晶の破片はやはり、一片たりとも届かない。


「【ラビットジャンプ】からの――――!」


 そして木々の隙間を抜けるような跳躍から、再び剣を振り下ろす。


「【フルスイング】だああああ――っ!」

「ぐああっ!」


 回避は間に合わず、樹上からの回転斬りを右腕で防御するルーデウス。

 弾き飛ばされるも体勢を直し、気合でメイに狙いをつける。


「【装備変更】【バンビステップ】!」


 しかしメイは木々の隙間を縫うように疾走。

【鹿角】と【蓄食】の効果で、もう狙いもまともに付けられない。


「【裸足の女神】!」

「ッ!?」


 超加速で一瞬で懐に入り込む。

 とっさに防御に入るルーデウスだが、メイは掲げた右手を元気よくその場に突いた。


「【グリーンハンド】【綿毛花】!」


 スキルの発動と同時に伸びた綿毛の花が、一斉に種子を飛ばす。

 視界を埋め尽くされれば、どこに誰がいるのかなど気付く術もなし。


「【電光石火】!」


 直後、木の陰から現れたツバメがルーデウスの腿を斬り抜けていく。


「続いて【グリーンハンド】【痺れ花】!」


 一斉に足元に広がる橙の花畑。

 放つ黄色い煙に、ルーデウスが包まれた直後。


「【フレアストライク】!」


 レンが放つ炎の砲弾。


「【岩晶剛槌】!」


 ルーデウスはこれを、尾で払い飛ばしにいくが――。 


「……うご、かないだとっ!?」


 振ろうとした尾が【部分麻痺】で動かない。


「ぐ、あああああ――――っ!!」


 炎砲弾は炸裂し、ルーデウスは吹き飛ばされる。

 それでもメイは止まらない。


「まだまだいきますっ! 【グリーンハンド】【アイヴィーシード】!」


 一斉に伸びてきた蔦が、凄まじい速度で身体に絡みついていく。

 炎によるダメージで硬直下にあったルーデウスは、初動が遅れて蔦に全身を拘束された。

 そして怒涛の植物攻勢が決まれば、次は動物たちの番だ。


「【装備変更】っ!」


 頭装備を【狼耳】に変えたメイは、勢いよく右手を突き上げる。


「それではご一緒にどうぞ! クジラさん、狼さーんっ!」


 現れる二つの魔法陣。

 視界を塞がれ、尾を封じられ、蔦に拘束されたルーデウスの前に現れるのは、二つの大型魔法陣。


「こ、今度はクジラと狼が一緒なのか!!」


 空中を一回転して飛びかかる巨大なクジラを前に、逃げ場なし。

 体当たりを受けて転がるルーデウスに喰らいつきにいくのは、白煙をまとった白銀の巨狼。

 その牙がルーデウスにめり込み、そのままくわえ上げる。

 すると巻き起こる波が巨狼を飾るように大きく飛沫をあげたところで、口内に輝いていた雪煙が爆発。

 落ちていくルーデウス。

 氷結の波は巻き起こった波飛沫を追いかけ氷の塔と化し、ルーデウスの身体を半分ほどを飲み込んだ。


「すげえ……」


 凍った滝に飲み込まれたかのような光景に、誰もが唖然とする中。


「い、いきますっ」

「了解!」


 まもりもメイが作った時間で、しっかり準備を終えていた。

 凍結したルーデウスにレンが杖を向けるのと同時に、【マジックイーター】による『装填』を終えた盾を共に掲げる。そして。


「――――わたしたちは」

「――――わたしたちは」

「この刻を待ちわびていました」

「この刻を待ちわびていました」

「仮初の祝福と」

「混沌の調律」

「偽りの世界を闇へと誘い」

「来る黎明を虚無に覆いて嗤う」

「「――――目覚めし闇の新たな王よ」」

「深き戒めの輪廻を打ち破る、汝に願う」

「我らが前に立ち塞がりし、虚ろな者共に」

「「永遠の眠りを与えんことを――――【ダークフレア】!」」


 その光景は圧巻。

 動けずにいるルーデウスの前に、収縮していく闇の炎が二つ。

 同時に弾け、紫の爆炎を輝かせる。

 その光量はすさまじく、思わず目を細めるほど。

 その火力は恐ろしく、帝国の空を紫に染めるほど。

 二人放った紫炎が、突き立つ氷の塔を粉々に粉砕する。

 舞い散る氷片は、炎に照らされキラキラと輝いた。


「ちょっと待って! なんでまもりも普通に詠唱してるの!?」

「あ、あの……ツバメさんから台本をもらってまして」

「戦いの準備の時に、詠唱も練習してたってこと!?」


 まもりの詠唱という、まさかの事態に頭を抱えるレン。

 放たれた驚異の一撃に、ルーデウスの残りHPはついに1割を切った。


「いいだろう……ならば全ての力を解放して、貴様らを葬ってやる!!」


 激情の雄たけびと共に目が煌々と輝き、結晶の悪魔は豪速でメイに飛び掛かる。


「死ねェェェェェェ!!」


 伸ばした手が、トゲだらけの荒い結晶塊となる。

 大型化した腕によるつかみ三連発を、メイは高速バックステップで回避。

 砕け散る右腕。

 すると今度は左手を大型化させ、叩きつけにくる。

 その形状はもはや、雑に作られた熊手のようだ。


「【アクロバット】からの【アクロバット】!」


 バク転からのバク宙で、叩きつけからの粉砕攻撃をかわす。

 続けざまに放たれるのは、巨大鉤爪と化した右腕だ。


「っ!」


 真横から同時にくる四本の斬撃を、メイは高跳びのようなプロペラ回転ですり抜ける。

 ルーデウスは、さらにそこから一回転。

 斜め上方から迫る尾はすでに、逆立った結晶の塊と化している。

 しかしメイは、そのランダムな形状を前にしてもなお横に数センチの移動でやり過ごす。

 振るわれた尾は粉々になって弾け飛び、紫色に輝く。


「ならばこれでどうだァァァ!! 【大粉砕】!」

「っ!!」


 大きなバク転で距離を取ったルーデウス本体に走る、無数のヒビ。

 直後、体表が爆散して大量の破片が弾丸のような速度で飛び散る。

 それは回避など絶対に許さない容赦なき一撃。


「【グリーンハンド】【豊樹の種】!」


 しかしメイは高密度の木々を円形に生やすことで、ノーダメージで防いでみせた。


「すごい……」


 感嘆するプレイヤーたち。

 だが彼らはまだ気づいていない。

 中庭の隅に生えていた一本の樹が、やけに早い伸び方をしていることを。

 本来その場所に、樹などない。

 世界樹は【密林の巫女】で急激に伸び、その空を覆っていく。

 すると豊樹の壁が左右に割れて道を作った。

 城を丸ごと『木陰』にしてしまうほどの巨木から、落ちてくる果実。

 メイは掲げた右手でキャッチして、一口かじる。

 そして【腕力】を大幅に向上。


「いきますっ!」


 向き合う二人。

 ルーデウスは最後の攻勢に出る。


「【命ずる】! 砕け散れ【極大結晶】!」


 天に現れた魔法陣から、隕石のように落下してくるひし形の結晶塊。


「【裸足の女神】【フルスイング】!」


 メイの高速移動斬りによって、爆散前に砕け散る。


「【命ずる】! かみ砕け【獅子結晶】!」


 ルーデウスの前に現れた二体の巨獅子が、猛然と喰らいつきにくる。


「【フルスイング】からの【フルスイング】っ!」


 しかし二体とも一撃で粉砕。

 メイを止めることはできない。


「【命ずる】! 喰いつくせ【結晶竜】!」


 そして現れた紫の巨竜。

 全身を結晶で作られた魔物が、その牙でメイを喰らい――。


「【フルスイング】――ッ!」


 振り上げ一発で砕け散る。

 全ての【命ずる】を打ち破られたルーデウスは手を伸ばし、放つ最後の一撃。


「【極天紫光砲】!」


 放たれた最終奥義。

 これまでのどの攻撃よりも豪快にして、猛烈な結晶片の爆風は――。


「がおおおおおおおお――――っ!!」


【雄叫び】によって、消し飛んだ。


「バカな……」

「【裸足の女神】!」


 そして次の瞬間、メイはもう目前。


「【フルスイング】!」


 その一撃にルーデウスは大きく後退、身体を包む結晶が砕けて弾け飛ぶ。


「【裸足の女神】からの【フルスイング】!」


 大きく弾かれたルーデウスの結晶体が、さらに砕けて散る。


「【裸足の女神】からの【フルスイング】!」


 さらに砕けて舞う、紫の結晶体。

 再生はもう、間に合わない。


「【裸足の女神】からの――――」


 キラキラ輝く紫色の結晶片の中を、駆けてくるメイ。

 手にした剣を、全力で振り下ろす。


「【ソードバッシュ】だあああああ――――っ!!」


 放たれた衝撃波は会場から中央道を抜け、中庭を駆け、城にまで届く。

 転がり倒れるルーデウス。

 すると続いていた演奏もクライマックスを終え、音が止まった。


「お、おお……」

「「「うおおおおおおおお――――――っ!!」」」


 呼吸すら忘れてた観客たちが、思い出したかのように歓声を上げ、万雷の拍手を贈る。


「閣下が……敗れた……」

「ルーデウス閣下が……倒れたぞォォォォ――――ッ!!」


 遅れてやってきた上級兵たちが、事態の急変を叫び出す。

 こうして帝国の未来をかけた戦いは、メイたちの勝利で幕を閉じたのだった。

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【メシマズ大国の料理店~キッチン・みけの店ごと転移譚】~
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[良い点] なんか前から思ってたが水属性が使い勝手が良さそう     水+氷=凍結     水+雷=周辺ダメージ これなら火と使ったら水蒸気でブラインドとかありそう [気になる点] まもりまで染めにき…
[一言] 論理クイズはたとえば「1分」と「8分」のボートで出発したら、川を渡るのに「8分」かかります。 さて、この条件だと最短何分で4つのボートを向こう岸に渡せるでしょうか。 特にヒントはありませ…
[一言] ツバメとまもりと黒少女と他多数の詠唱による、 詠唱オーケストラ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ そして、四六時中頭から、詠唱が離れず、とびっきりの、…
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