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810.黒き結晶の王

「ククク、ククククク……ハッハッハッハ!!」


 皇帝ルーデウス・ガルデラは笑う。


「ルティアもやるではないか。どこの野良犬とも知れぬ冒険者の分際で、いい腕をしている」


 そう言って取り出したのは、黒いクルミのようなアイテム。

 そこには、遺跡で見たような紋様が刻まれている。


「だが奇跡はここで終わりだ。見せてやろう、我が帝国が手にした大いなる力を」


 ルーデウスはその黒い実のようなものを、そのままバリバリとかみ砕く。

 すると黒い結晶のようなものが体表を覆い、その姿を悪魔のように変えていく。

 高さは3メートルほどになり、頭に『U』字型の大角が生える。

 その外見は、長い尾を生やし顔を悪魔に挿げ替えた、黒いミノタウロスのようだ。

 驚異的な太さの腕と太ももが、迫力を大きく増している。


「ひっ……」


 その姿に、オーケストラの面々が恐怖で硬直する。しかし。


「何人たりとも動くことは許さぬ。貴様らも栄えある帝国の者ならば、この場所を墓標にしたくなければ、最後まで演奏を続けろ」


 その言葉に、慌てて演奏を再開する奏者たち。

 音楽は一層重厚かつ勇壮なものとなり、女性のオペラまで入り出す。


「おお、すごい演出だ……!」

「カッコ良いい……っ」


 建国祭の戦いは、いよいよ観客たちを釘付けにする。

 どうやらルーデウスは、前半戦と後半戦で姿と音楽を変えるボスだったようだ。


「さあ、クライマックスだ。単なる人間ごときでは永遠にたどり着けない王の境地を、貴様らに見せてやる!」

「「「「ッ!!」」」」


 爆発的な踏み込みから、ルーデウスはわずか一歩で距離を詰めてくる。

 立ち向かうのは、敵が姿を変えた時点で自然と先頭に出ていたメイだ。

 振り上げる結晶の腕の先には、鋭くとがった熊手のような手。


「【アクロバット】!」


 振り上げ一つで大きく風が吹くほどの一撃を、メイはバク転で回避。


「【灼熱結晶】!」


 角が煌々と赤く輝き、伸ばした右腕にも熱が伝わる形で赤熱。

 さらに一歩踏み込むと、右の拳を叩きつけにきた。


「【アクロバット】!」


 二度目のバク転を大きなものにしたメイの『目』は的確。

 大きな振り上げからの一撃はそのまま地面を叩き、結晶の腕は赤熱と共に爆発。

 炎を大きく巻き起こし、飛び散る火の粉が頬を焦がしていった。

 砕けたルーデウスの腕の結晶は、即座に組み上がり再生。


「【フルスイング】!」


 メイは着地と同時に踏み込み、剣を全力で振り下ろす。

 ルーデウスはこれを小さなバックステップでかわし、大きく手を引いた。

 続く灼腕の振り上げは、赤光の爪跡を大きく残して炸裂。

 メイはこれを右側へ飛び込んでかわすが、上げた腕に結晶が集結して巨大化。

 角と共に赤熱する巨碗を、真上から叩きつけにくる。


「うわわーっ!」


 メイは起き上がりと同時のバックステップで直撃をかわすも、叩きつけた腕があげた爆炎に弾かれた。

 転がるメイのダメージは1割に満たないほどだが、形状を変える上に赤熱する結晶の身体がいかに強力かを、四人は思い知らされる。

 ルーデウスは攻勢を止めない。

 大きな跳躍から角を輝かせると、踏みつけるような蹴りで後方のまもりを狙う。


「【地壁の盾】! ……【天雲の盾】っ!」


 盾に当たった瞬間は物理防御、そして爆炎の炸裂に合わせて属性防御へと切り替えるまもりの防御は見事。

 弾かれ合う両者。

 先んじたのはルーデウスだ。


「【掌握結晶】」


 まもりは盾を構えて様子を見るが、結晶の腕が突然クレーンアームのように大きく四つに割れた。


「え……っ!?」


 紫の結晶アームでまもりを盾ごと高く持ち上げると、ルーデウスはそのまま一回転。

 レンに向けて投擲した。


「「きゃあっ!」」


 二人は折り重なるように転がり、衝突ダメージを受ける。


「【灼火砲】!」


 向けられる腕が赤熱し、放たれる炎砲弾。


「【天雲の盾】っ!」


 慌てて起き上がったまもりは防御態勢に入るが、間に合わない。


「「きゃああああっ!!」」


 炸裂する爆炎によってまもりと共にレンも吹き飛び、互いに2割から3割ほどのダメージを受けた。

 ルーデウスはさらに、レンに追撃を仕掛ける。


「【ラビットジャンプ】【フルスイング】!」


 しかしメイの飛び掛かり斬りに気づいて跳び退く。

 そして着地後を狙い、反撃を仕掛ける。

 切り裂く爪の振り上げ、そして振り降ろしから放つ大きな蹴りは、赤熱効果で猛火をまとう。

 喰らえば爆発して高ダメージとなる一撃を、メイはしゃがんでかわす。


「【結晶刺突】」


 続く攻撃は大きな踏み込みからの、右の手刀突き。

 これをバックステップでかわしたメイだが、集結する結晶は腕の形状を変えていく。


「ッ!!」


 頭を狙った突きは伸長し、一瞬で10メートルほどの刃となる。

 メイはとっさに身体を後方に倒し、ブリッジから足を振り上げる形で体勢を直す。

 目の前スレスレを通り過ぎた刺突の驚きに、さすがに尻尾がぶるりと大きく震えた。

 伸びた結晶の刃が砕け散り、ルーデウスの腕は即座に修復。


「【爆炎樹晶】」


 踏み出しから放つ左手は大樹の枝のように分かれて広がり、刃となる。


「攻撃範囲どうなってんのよ!」


 空中にあますことなく広がる、結晶の刃。

 その範囲は広く、隙間を縫うのはあまりに難しい


「【アクロバット】!」


 それでもメイは、わずかに開いた空間を見つけてすべり込む。


「まだ続くの!?」


 しかしこれでは終わらない。

 ルーデウスが角を赤熱させると、伸びた結晶の枝に熱があっという間に伝達。


「うわああああーっ!」


 付近が一体が赤く染まって見えるほどの爆炎からはさすがに逃げられず、2割弱のダメージ受けて転がる。


「メイが押されるほどの攻撃……さすがに強すぎるわね」


 余りにやっかいなルーデウスの攻勢に、思わず息をつく。

 しかし角の赤熱を解除する姿を見て、レンは思い至った。


「なるほど、そういうこと……っ! おそらくフローリスの『兵器』みたいに、部位破壊で赤熱を止めるんだわ!」


 メイが振り回されるような攻勢に、仕掛けがないはずがない。


「狙いはあの角よ!」


 大きくうなずく三人だが、ルーデウスの攻勢は止まらない。

 すぐさまメイのもとへ飛び掛かり、再び始まる灼熱結晶による攻撃。


「【結晶刺突】」


 伸びる刃を右にかわすと、今度は真上からの振り降ろし。

 これも続けて右に回避すると、再び腕を強く引いた。


「【掌握結晶】」

「うわわっ! 【アクロバット】!」


 腕を四つに割って『つかむ』その攻撃を、メイは大きなバク宙で回避。

 すると砕けた結晶アームが再生し、角が一気に赤熱していく。


「――――焼き尽くせ【エンデリヒト】」

「「「「ッ!?」」」」


 エフェクトの派手さに、思わず驚く。

 向けられる手に、煌々と輝く魔力。

 荒れ狂う魔力が猛烈な熱風を巻き起こし、放つは閃熱の魔力光弾。


「【かばう】! 【天雲の盾】!」


 メイの前に飛び込んだまもりが、盾を構えてこれを受た。

 すると弾けた光弾は白黄の輝きを広げ、天を突く塔となる。


「こ、攻撃持続時間が……長いです……っ」


 天に昇る魔力は、一定時間効果を残すことでダメージを与え続ける形の魔法。

【天雲の盾】の効果が切れたところで、ダメージが入り始める。

 そして2割ほどHPを削られたところで炸裂。

 まもりが大きく足をフラつかせたところで、ルーデウスが走り出す。

 慌てて前に出るメイ。

 腕を刃に変えての払いをしゃがんでかわし、大型化しての叩きつけ『粉砕』を【アクロバット】でかわす。


「攻撃しながら、魔力をためているのですか……!?」


 ツバメの予想は正解。

 攻撃が右手だけなのは、左手で【コンセントレイト】に準ずるスキルを使用しているから。


「さっきの大技が来るっぽいわね……」


【エンデリヒト】を溜めた状態から放てば、付近を巻き込む脅威の一撃になるだろう。

 目前で使われて、回避できるような魔法ではない。


「さ、さらに火力を上げるってことか……?」


 観客たちは来たるその瞬間を想像し、息を飲む。


「……でも、それは悪手よ」


 腕部の輝きは増し、限界を迎えた。

 誰もが恐れるその瞬間を、しかしレンは好機と判断。

【コンセントレイト】は確かに恐ろしいが、同時に「これから魔法を打ちますよ」という合図みたいなものだ。


「メイ!」

「りょうかいですっ! 【装備変更】! ウォオオオオオオ――――ッ!!」


 メイは確実に自分に魔法を使わせるため、【遠吠え】でターゲットを奪う。

 そしてそのまま、ルーデウスを待ち受ける。


「【エンデリヒト】」


 高速の特攻から突き出された左手、

 放たれる強烈な魔力光が、メイに向けて発射される。

 強化版はやはり、回避ができるような攻撃ではない。しかし。


「【アクロバット】!」

「【かばう】!」


 メイは後方へ向けてバク宙。

 その下をくぐるようにして、飛び込んできたまもり。

 普通のパーティなら全滅しかねない窮地すら、まもりにとっては最高のエサだ。


「【マジックイーター】!」


 盾は容赦なく閃熱の魔力光弾を『喰らい』、そのまま撃ち返される。


「【エンデリヒト】!」

「グ、アアアアアアアア――――――ッ!!」


 近距離で放たれれば、回避などできない魔法。

 白黄の魔力光が天を突き、まばゆいほどの閃熱にルーデウスが焼かれる。

 そしてメイたちは、まもりがこの反撃を決めてくれることを確信していた。


「【加速】【リブースト】【電光石火】!」


 すでにツバメは走り出している。

 一気に距離を詰め、そのまま切り抜ける。そして。


「【反転】【稲妻】!」


 すぐさま振り返り突進、その背を【村雨】を斬りつけた。

 だがこれでは終わらない。


「【スライディング】」


 最速のタイミングで使う【スライディング】でルーデウスの足元を潜り抜け、そのまますれ違う。

 その相手はもちろん――。


「【裸足の女神】からの【フルスイング】だああああああ――――っ!!」


 時間差で追ってきたメイが、正面から振り下ろす豪快な剣撃。

 全力で放った『縦』の一撃はルーデウスを叩きつけ、高くバウンドさせた。


「――――外せません……っ」


 ツバメは息を静かに息をつき、【村雨】を構える。

 緊張の中しっかり狙いをつけ、落下してくるルーデウスに向けて抜刀。


「【斬鉄剣】!」


 超高速の剣撃は閃きと共に白い剣の軌跡を描いて、再びその鞘に収まる。

 カチンという納刀の音と共にルーデウスの長い角の片方が飛び、石畳の隙間に突き刺さった。


「「「う、うおおおおおおおお――――っ!!」」」


 鳴り渡るオーケストラの中、凄まじい前後の連携にあがる歓声。

 角の赤熱は、静かに消えていく。

 つばめとメイはハイタッチの後、振り返ってまもりに手を振る。

 これにはレンも、拳を握って歓喜。

 見事な『部位破壊』によって、狙い通りルーデウスの【灼熱結晶】を止めることに成功した。

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【メシマズ大国の料理店~キッチン・みけの店ごと転移譚】~
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[一言] 論理クイズ幼女と4つのボート行きますね 問題 幼女の目の前に川がある。 川のこちら側にはボートが4つある。 ボートは川を渡るのにそれぞれ1分、2分、4分、8分かかる。 向こう岸にすべて…
[良い点] 部位破壊で行動を減らしてくとか、どこのモンスターハンターかな? クエスト報酬は、皇帝の食べた黒いクルミとか? そしてそれをメイが食べる事により、体長3mの黒いゴリr……霊長類の姿に変身!…
[良い点] 偶然見つけた借り物の力で我が力とは笑止千万! こちとら年単位の研鑽やぞ! [気になる点] あー!ゴリラアーム真似っこしたー! 大人げなーい! [一言] カウンターからの前衛陣の完璧な連携!…
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