758.盾と矛
HPが半分を切った兵器本体は、ゆっくりと宙に浮かび上がっていく。
黒い紋様が刻まれた球体の内部に一度触手を収納し、支え無しの完全浮遊状態に。
そして、ゆっくりと一度回転した後――。
「来ます!」
「本体が特攻してくるの!?」
突然これまでとは違う戦い方に変わり、慌てる四人。
「違うわ!」
大きく跳ねて、メイたちの頭上10メートルあたりで一度赤く点滅。
その全身から触手を出し前方に集合させると、突き刺しにくる。
誘導のかかった攻撃を、メイとツバメは慌てて回避。
まもりはレンの前に立って、盾防御を成功させた。
すると今度は、紋様に黄色の明かりが灯る。
「今度は色が違う! おそらく状態異常液のパターンだわ!」
「わ、わたしのうしろにっ!」
「りょうかいですっ」
噴き出す多量の状態異常液は、水のレーザーのように速く長い距離を駆け抜ける。
しかしこの角度なら、防御に問題はない。
「【天雲の盾】!」
まもりの背にメイが、その背にレンが、その脚にツバメがつかまってしっかりやり過ごす。
「まだよ……ッ!! 二段階噴射!!」
「も、もう一度【天雲の盾】っ!」
これも防御を左盾に変えることで対処。
「ありがとう! まもり!」
「は、はひっ!」
しかし兵器本体は攻勢を強める。
再び伸ばした触手は地に潜り、根のように地面に絡みつく。
次々に成る状態異常液の『実』は猛烈な勢いでふくらみ、炸裂。
「【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】っ!」
ツバメはそのふくらみぶりを見て、必死の逃走。
「あれは……」
『実』の中に一つ、ふくらみ方のおかしいものがある。
他の『実』なら既に爆発してるサイズにもかかわらず、まだ大きくなっている。
誰もが、その盛大な爆発を想起する。
「おまかせくださいっ! 【バンビステップ】【ラビットジャンプ】!」
メイは速い助走から跳び、ふくらみ続ける『実』にそのまま剣を叩き込みにいく。
「【フルスイング】!」
弾け散る状態異常液はしかし、メイには効果なし。
盛大な爆発によってプレイヤーを状態異常の『掛け持ち』に追い込む攻撃を、早い段階で防ぐことに成功。
すると兵器本体は、触手に炎を走らせた。
この炎は本来、状態異常液に濡れたプレイヤーを炎上させるもの。
『実』と『液だまり』は次々に燃え上がり、派手な誘爆の連鎖を巻き起こしていく。
「【加速】っ!
残りHPがすでに2割強まで減っているツバメは、その隙間を必死に回避する。
「ッ!?」
しかし爆炎が次々に巻き起こる中、足元から突き出してきた触手は突き上げる攻撃ではなかった。
「これは……足止めですか……っ!?」
触手が足首をしっかりつかむ。
そしてこの好機を当然、兵器本体は狙いにいく。
触手が集まり形作るのは、巨大なノコギリ。
ツバメを斬り刻みに、高速で迫る。
それは『状態異常の鳥かご』に続く、兵器の『必殺』攻撃だ。
「【かばう】!」
この状況を、まもりは見逃さない。
攻撃役でないという意識がずっとあったからこそ、味方の窮地に気づくのは誰より早かった。
「【コンティニュー・ガード】【地壁の盾】ーっ!」
「「「ッ!!」」」
ギザギザの刃が容赦なく、プレイヤーを削り続けていくという恐ろしい攻撃。
割って入ったまもりの盾が、まばゆいほどの火花を上げる。
金属を削る恐ろしい音が鳴り響き、その勢いに震える観戦者たち。
まもりは、この攻撃に耐え切ってみせた。
「「「う、うおおおおおお――――っ!!」」」
このノコギリ触手削りは、喰らえば大きくダメージを受ける必殺級の攻撃だ。
あまりに見ごたえのある戦いに、思わず声を上げる観戦者たち。
しかし、怒涛の攻勢は止まらない。
最終モードの『兵器』は、触手をこれまでにないほど集結させ巨大な『尾』を作り出す。
しかもそれが二本同時。
とがった武骨な尾に、まとう豪炎。
左右から迫る巨大な尾は、メイたちを押しつぶさんと振るわれる。
「……マズいわね」
すでにHPが大きく減っているツバメ、レンの【浮遊】では間に合わないほどの速さと高さを誇る攻撃。
仮に直撃をかわしても、状態異常液に引火して爆発の二段階構成。
行く末は同じだ。
「これマズくないか!?」
「さすがに四人だと……もう犠牲は仕方ないだろ!」
「ここできっぱり犠牲を出すことで、一気に攻勢をかけるしかない」
犠牲者をオトリにして、一気に叩く。
それが正しい判断だ。
「でも、メイちゃんたちだぞ……!」
それでも、数々の奇跡を見てきた掲示板組は可能性を信じる。
「「――――いきます……!」」
重なったのは、メイとまもりの声。
「ド……ド……ド……」
「【不動】!」
メイは右の竜尾、まもりは左の竜尾。
二人は自然と、背を向け合った。
「【ドラミング】だああああ――――っ!!」
「【地壁の盾】ええええええ――――っ!」
メイは両拳でバンバンと胸元を叩いた後、炎の竜尾を素手で受け止める。
まもりは敵の攻撃を受けても動かないスキルを使用し、盾で燃える竜の尾をせき止める。
「ウソだろ……」
聞こえる呆然の声。
なんとメイとまもりは、たった二人で巨龍の尾を押しとどめてみせた。
触手の尾は、焼き尽くされて消える。
状態異常液への引火もなしだ。
思わず見合い、笑みを浮かべるメイとまもり。
そして怒涛の攻撃を繰り出し続けた兵器本体は、ついにここで隙を見せた。
「ここ、勝負所……っ」
メイたちとの間には距離があるため、どちらが優位を取るかで流れが決まる状況。
だが兵器本体はHPがすでに半分ほどであり、『全開』の状態だ。
迫るこれまで以上に速く、大量の触手。
地面を駆ける触手の根は当然、『実』を付けるためのもの。
怒り狂っているかのような攻勢に、観戦者たちはもう声も出ない。
しかしメイも、ここで流れを譲る気はない。
「――――【野生回帰】」
防具を全て外し、インナー装備に装飾品だけの状態になる。
「【装備変更】【バンビステップ】!」
【鹿角】メイは、高速で走り出す。
その美しい足の運びは踊っているかのように、迫る触手を回避する。
すると兵器は大量の状態異常飛沫で、メイの視界ごと潰しにきた。
「がおおおおおおおお――――っ!!」
これを、【雄たけび】一つで消し飛ばす。
続くのは、兵器本体の紋様から吹き出す火山弾。
付近の毒飛沫に引火し、空を焦がすほどの大火となる。
「【装備変更】っ! それも効きませんっ!」
しかしそんな炎すら、【王者のマント】を身にまとってかき消した。
そしてそのまま兵器本体の懐に入り込んだメイは剣を振り降ろし、大きく振り上げる。
これを喰らった兵器本体は強引に後方回転して距離を取り、黒い炎を噴き出した。
その身を漆黒の太陽のような姿を変え、特攻してくる。
「お願いしますっ!」
「【かばう】! 【不動】!」
必殺の特攻は、まもりの盾が阻む。
「【ラビットジャンプ】! 【裸足の女神】【装備変更】からの【フルスイング】!」
そんなまもりの頭上を跳び越え、メイは【狐火】の振り降ろしを叩き込む。
すると大きくHPを減らした兵器本体は、黒く燃える触手刃を突き出してきた。
「【かばう】!」
だが黒炎燃える触手の刃は、再びまもりの盾に阻まれる。
「【加速】【スライディング】【八連剣舞】!」
盾を構えたまもりの足元から、滑り出してきたのはツバメ。
【デッドライン】による、低HP時攻撃力増加効果で斬り刻む。
隙の大きなこの攻撃、当然兵器本体は反撃にくる。
放たれるは、状態異常液のレーザー噴射。
「【かばう】【天雲の盾】!」
しかしこれも、まもりは盾で弾き飛ばす。
「それでは――――何卒よろしくお願いいたします!」
メイは高く手を掲げる。
空中に現れた魔法陣から飛び出してきたケツァ―ルは、そのまま飛行蹴りを叩き込む。
蹴り飛ばされた兵器本体は転がるが、すぐに体勢を回復。
反転して放つのは、超高速の【串刺し】だ。
「【かばう】【地壁の盾】!」
だがこれも、まもりは容赦なく弾き返す。
「【魔眼開放】」
「ムルトース・フォルトゥーナ・リーベラット・ポエーナー・メトゥー・ネーミネム。運命という名の、恐怖に囚われよ――――」
「――――【魔力蝶】!」
レンの構えた【銀閃の杖】から放たれた無数の蝶は、その黒い羽根の中心を魔力に青白く輝かせながら兵器本体に群がり炸裂。
花の消えた街に飛び交う蝶が、HPを削り取っていく。
「つ、ついにラテン語の詠唱を……っ!」
ついにこの時が来てしまったかとばかりに、苦渋の面持ちのレン。
そんな中、残りHPが僅少になった兵器本体が宙に浮く。
黒の触手の全てを前面に展開し、放つのは付近一体をまとめて切り刻む斬撃の嵐だ。
これは完全な、範囲殲滅攻撃。
「【かばう】! 【クイックガード】【爆火盾】!」
それでもまもりは止まらない。
再度の【かばう】で、先頭にいたツバメの前へ。
迫る触手に、意識を全力で集中する。
「いちにさんし、ごろくななはち! ににさんし、ごろくななはち! さんにさんし、ごろくななはちっ!」
そして最後の【突撃】は、黒い太陽が落下するかのごとき。
「これで、さいご!」
それはわずかに遅れて来る、必殺奥義。
受け止めた次の瞬間、【爆火盾】が爆炎を噴き出した。
『兵器』の黒い表面が割れ、粉々に弾け飛んだ。
剥き出しの内部は、黒い大きな粘着液の塊だった。
「お見事です! 【加速】!」
「完璧ね! 【低空高速飛行】!」
「まもりちゃんすごーい! 【バンビステップ】!」
重なる声。
鈍い金属光沢のようなものを放つその黒液球のもとに、同時に踏み込んだメイは、ツバメは、レンは、剣を向ける。
「――――【アクアエッジ】【八連剣舞】!」
「――――【フリーズブラスト】【解放】!」
「――――【ソードバッシュ】!」
水刃の八連で切り裂くと、広がる水刃は飛沫となる。
【魔剣の御柄】の振り降ろしから放たれた氷嵐は、飛沫を巻き込み白く凍結。
そして駆け抜ける猛烈な衝撃波が、白の氷片をフローリスの大空へと巻き上げた。
「「「三人……一緒?」」」
これまで連携は順番だったものが、まもりという軸が生まれたことで同時攻撃となった。
吹き飛ばされた黒い液体球は砕け散り、そのまま粒子になって消えていく。
「まもりちゃーん!」
「やったわね!」
「三人同時に近接に向かうなんていう事もあるのですね!」
三人に抱き着かれて、思わず硬直するまもり。
しかし今度は遅れない。
四人両手を上げると、そのままハイタッチ。
そのまま一緒にピョンピョンと飛び跳ねて、フローリスを崩壊へ追い込んだ『兵器』からの解放を喜ぶ。
いつか誰かとパーティを組めた時、迷惑にならないようにと続けた特訓は、最高の防御でメイたちを助けることになったのだった。
誤字報告、ご感想ありがとうございます! 適用させていただきました!
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