757.vs兵器本体
『回復球体』に続いて二つ目の『魔法球体』も崩れ落ちた。
しかし当然、本体との戦いはここからだ。
いよいよその黒い球体に刻まれた紋様が、煌々と赤く輝き出す。
本体が文様を中心にして一回り外側へふくらむと、『兵器』がまとう触手はさらに増える。
「まだ、出力を上げるというのか……」
それを見て、歓喜の声をあげる黒仮面のリーダー。
「見せてみろ、恐るべき『兵器』の本当の力を……!」
「くるよっ!」
兵器本体が放つ触手は組み上がり刃となり、右から弧を描きながら迫る。
続いて左からも、弧を描く形で迫り来る。
「ッ!?」
そして最後は真っ直ぐ、触手刃の高速射出。
その凄まじい速度に慌てるが、これをメイに放ったのは失敗だった。
二度のバックステップで左右から迫る触手剣をかわし、飛来する刃はしゃがみで難なく回避。
続く触手は追尾。
枝のように広がり、頭上から突き刺しにくる。
「【ラビットジャンプ】【アクロバット】!」
これを後方への跳躍でかわしながら放つ反撃。
「からの――――【ソードバッシュ】だー!」
兵器本体は触手を集め、壁にして防御する。
しかし異常な威力の衝撃波は、一撃で触手壁を消し飛ばす。
すると防御壁を一撃で消し飛ばされた『兵器』は、再生した大量の触手を伸ばしていく。
「えええっ? なにこれっ!?」
その量は、まさに驚異的。
付近一帯を無数の触手が血管のように張り巡らされ、メイたちは全方位を取り囲まれる状況になった。
触手の節々にはブドウのように薄い皮で覆われた、状態異常の液球が無数に生み出される。
「あの溜まりは、どう考えても破裂するわね」
こうなってしまうと魔法も、自由な移動も使いにくい。
それはもはや、『状態異常と刃の鳥かご』だ。
ここで再び、触手刃が動き出す。
「ッ!」
「これを喰らったら【猛毒】、液体の方なら状態異常ガチャかしら……!?」
触手檻の隙間を突き、飛んでくる触手刃。
皆これをどうにか回避していくが、避けた剣はブドウをかすめて破裂を起こす。
「これは……っ!」
次々に飛んでくる触手刃。
それによって飛び散る液体をかわすと、そこにまた迫る触手刃。
「状態異常溜まりが増えて、回避も難しいです……っ!」
当然弾け落ちた状態異常水は、地面に溜まる。
それでもどうにか迫る触手をかわしていくツバメだが、刺突に来た触手にはイバラのようなトゲ。
「まさか……っ!?」
射出されたトゲが、ツバメの斜め上方にあった状態異常溜まりに刺さり炸裂。
「くっ!」
状態異常液を被弾したツバメは、【劇毒】を受けることになった。
「【バンビステップ】! まもりちゃんっ!」
一方メイは、前後両方で弾けた飛沫からまもりを抱えて回避。
「きゃあっ!」
そんな中レンが、飛沫を浴びて【敏捷低下】を喰らう。さらに。
動きが遅くなったことに戸惑うところに、トゲ付き触手がかすめて新たな毒を発症。
【精神毒】は、MPが高速で減る変わり種の状態異常だ。
そして見つけた弱者を、『兵器』は逃さない。
カゴに閉じ込めた鳥を弄ぶように、鋭い触手の刃たちが、前後からの高速刺突でレンを狙う。
「まず……っ!」
【敏捷】の下がった今、即時の回避は不可能だ。
運良く生き残れることを祈りながら、防御に入るが――。
「【かばう】!」
「【裸足の女神】!」
メイとまもりは逃げ遅れたレンを間に置き、背中合わせの形で防御に入る。
「【クイックガード】【地壁の盾】! 盾、盾、盾、盾っ!」
五連続の刺突を盾で弾き、その軌道を変えてみせれば。
「しつれいしますっ! それそれそれそれ【アクロバット】ーっ!」
メイは触手を引き付け、踊るようなステップで完全回避。
最後はバク転で締めてみせた。
「ありがとうメイ、まもり! どうせならこの状況、このまま崩してやりましょう! 狙いはあいつの頭上でお願いしてもいい?」
「なるほどーっ!」
メイは視線を上げると、そのまましっかり狙いを付ける。
「【地壁の盾】!」
そして再び迫ってきた触手刃をまもりが弾いたところで、メイはレンを抱えてその場で回転。
「【ゴリラアーム】! せーのっ! それええええ――――っ!!」
カゴの鳥状態のメイたち。
ぶん投げられたレンは、しっかり触手の檻の『隙間を通る』形で空高く飛んでいく。
そして【浮遊】で一回転して、体勢を整えると――――。
「……さあ、覚悟して!」
予想通り『兵器』は、この位置関係への対応にまごついている。
レンは【銀閃の杖】を構えると、落下しながら魔法を発射する。
「この角度から来るとは、思わなかったでしょう!?」
レンは気づいていた、敵の触手檻は空中が薄くなっているという事を。
「【フレアストライク】! 【フリーズストライク】! 【フレアストライク】! 【フリーズストライク】!」
落下しながら。連続で放つ魔法。
炎砲弾が炸裂し、氷砲弾が砕け散り、再び炎砲弾が炎を巻き上げ、氷砲弾が突き刺さる。
「このまま【魔剣の御柄】で……はああああ――――っ!! 解放っ!!」
「す、すげえ……っ!」
オープンから遊び続けているプレイヤーでも初めて見る、魔導士の落下魔法攻撃に思わず観戦者が叫ぶ。
この一撃でHPを2割ほど減らすことに成功し、レンはそのまま【浮遊】で制動して着地。
「これなら【敏捷】低下でも、関係ないでしょう?」
そう言って二歩、横へ移動。
「【かばう】!」
すれ違う形で跳び込んできたまもりはそのまま、手にした剣を叩き込みにいく。
「やあっ!」
炸裂する鮮烈なエフェクト。
【魔神の大剣】はクリティカルでなければ当たらない武器だが、ここでもしっかり20%を引き当てる。
「ま、まだまだです! 【シールドバッシュ】!」
そのまま盾を振り降ろし、衝撃波を叩き込む。
するとダウンを奪ったことで、付近を覆っていた触手の檻がキャンセルされた。
落ちた触手は乾き切り、そのまま消えていく。
しかし、反撃は早かった。
【シールドバッシュ】によって巻き上がった砂煙が消えるのと同時に、新たな触手がレンとまもりを狙う。
高速で追ってくる触手刃に、相対するまもり。
「【地壁の盾】!」
見事な防御でこれを弾く。
一方レンも【低空高速飛行】で距離を取るが、迫る触手刃をかわすために一度足を付く。
これが失敗だった。
足元、360度から突き出す触手があっという間にレンを取り囲む。
そしてレンの頭上で閉じ、今度は完璧な『鳥カゴ』を形成。
一気に狭まっていくのは当然、逃げ場をなくすためだ。
「飛行はもう無理、でも走って逃げるには――!」
【敏捷】が足りない。
鳥カゴの上部でふくらみ出す節々は、状態異常液を含んだ果実。
その中にはピンクの、『他の状態異常と重複、悪化させる』毒液もあり。
炸裂し、逃げ場のない鳥かごの中に状態異常液が乱舞する状況は、対プレイヤー用のミキサーと言っていい。
「【かばう】!」
「きゃあっ!」
迷わず飛んできたまもりは、そのままレンに体当たり。
鳥カゴの外に突き飛ばし、身代わりを買って出た。
「まもり!!」
その意図に気づき、思わず悲鳴をあげるレン。
いくら【耐久】が高くても、状態異常まみれの状況では生き残れない。
そもそも【耐久】を下げる毒が含まれる可能性もある。
閉じ行く鳥カゴ、死に戻りの覚悟を決めるまもり。しかし。
「【裸足の女神】っ!」
ここに猛スピードで駆け込んできたのがメイ。
「防御してねっ! 【カンガルーキック】!」
カゴが閉まる直前、メイは低いジャンプでまもりの盾を蹴り飛ばし外へ。
直後、鳥カゴが閉じ切った。
「メイさんっ!」
カゴは『マユ』のようになり、すぐに激しく鳴り響く『水音』
そしてまゆの隙間から滲み出してくる汚い色の混合毒液が、その恐ろしさを物語る。
やがて『まゆ』がほどけると、毒液が大量にこぼれ出した。
「「「ッ!?」」」
しかしこの状態でメイ、腕組み一つ。
「――――効きませんっ!」
【原始肉】の効果を失念していて、思わず言葉を失うまもり。
「「「うおおおおおおおお――――っ!!」」」
毒液ミキサーからの無傷の帰還に、掲示板組は歓喜のハイタッチ。
「野生児ちゃんの抗体……半端ねえな!」
身体を猫のように、ブルブル振って毒液を払うメイ。
そしてこんな驚きの状況でも、ツバメは隙を見逃さない。
「【加速】【リブースト】!」
大技直後特有の隙を突き、払いの触手をスライディングでかわして接近。
「【雷光閃火】」
突き立てた刃は火花を起こし、やがて爆発
HPがすでに半分ほどになっていたツバメの一撃は、兵器のHPを2割強ほど削り取った。
クルクルと宙を舞いながら落ちてくる短剣を受け取り、息をつく。
「皆さん、お見事でした」
レンをまもりが突き出し、まもりをメイが突き出す。
ほほ笑むツバメに、自然と笑みがこぼれる。
一方HPが半分を切った兵器本体は、ここでさらにその戦い方を変えてくる。
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