743.みんな帰ってきました!
「レンちゃん! ツバメちゃーん!」
高難易度ミッションを見事に乗り越えたメイとまもりは、医者を連れフローリスへと戻ってきた。
「メイたちも戻ってきたのね」
フローリスの南側にあるポータルで、四人は再会。
メイはうれしそうに、尻尾を振ってよろこびを体現する。
「どうだったー?」
「なんとか浄化剤を手に入れられたわ」
「途中アサシンに追われるという、少し変わったクエストもありましたが、これでピンクの毒も消すことができます」
「メイたちは……聞くまでもないわね」
「まもりちゃんと一緒にがんばりましたっ!」
そう言って抱き着くメイと、ガチガチに硬直するまもり。
その背後には医者の姿。
どちらもしっかり、クエストを達成。
メイたちに至っては、防衛クエストとは思えない派手な立ち回りに、観戦者たちが驚きを見せたほどだ。
まさかの無傷は、運営ですら予想しなかっただろう。
「さっそく、お医者さんに見てもらいましょう!」
四人は医者を連れ、天幕の下で苦しむビルダ老人のもとへ。
「おおっ! 戻ってきたか! もしや……その人が」
エンリケがその表情に希望を灯す。
「見せてもらうぞ」
医者はそう言って、さっそくビルダ老人の容態を確認。
見れば手や腕、首筋などに、毒々しい紫の変色が起きている。
顔も青白く、薄命なのは一目瞭然だ。
「……なかなか酷い状態だ。この劣悪な環境の中で、無理をしてきたんじゃないか?」
医者がそうつぶやくと、ビルダ老人が薄く目を開く。
「フローリスを……取り戻すためじゃ」
かすれた声で言うビルダ老人に、医者は静かに息をついた。
「このまま放っておけば長くはなかった。そして医者を呼んだとて助かる見込みはない。それだけの容体だ」
その言葉に、凍り付くメイたち。
医者は真剣な顔つきで、老人と毒について様子を見ていく。
「だが、お前たちの選択は正解だった」
やがて医者は、そう言って息をつく。
「普通の医者ならどうにもならない。だが俺の腕と薬なら、解毒はそう難しくはない」
「やったー!」
「やりましたね!」
「よかったね!」
「は、はひっ!」
その言葉に思わず四人はバンザイ。
レンとツバメは手を鳴らし、メイはまもりに抱き着く。
医者はカバンからいくつかの薬剤を取り出すと、その場で調合。
毒のプロである医者は一つの粉末剤を作り上げると、老人にそれを飲ませた。
「ただ、すでに危険な状態であることに変わりはない。薬が効いて毒が抜けたとしても、そこから生きられるかどうかは本人次第だ」
「なに……ワシなら問題……」
ビルダ老人は言葉の途中で、突然ガクリと気を失う。
「「「「…………」」」」
そして、ピクリとも動かなくなった。
「……眠ったか」
「驚かさないでよ!」
縁起でもない、急な脱力感にさすがに突っ込まずにはいられない。
「さて、どちらにしろ状態がどう転ぶかを知るには少し時間がかかる。浄化の薬剤があるのなら、お前たちは毒の洗浄作業を進めていけばいい。老人の様子は俺が責任をもって見ていよう」
「そういうことなら、やっかいな毒素の浄化も進めちゃいましょうか!」
「りょうかいですっ」
「そうですね」
「は、はひっ」
四人は各々解毒剤を持って、フローリスを一周。
【劇毒】に加えていくつもの状態異常を重ねる、鈍いピンクの毒素に解毒剤を放り込めば、スポンジに吸われるように収縮して消える。
毒々しい色使いの毒だまりを、しっかりと消去。
「これで後々ここで戦うことになっても、ある程度は楽になってくれるはず」
「やはり毒の溜まりがなくなると見違えますね」
「ほんとうだねぇ」
戦闘時に【劇毒】に加えて他の状態異常も『効果を強めた』形で罹患という、最悪な状況からは逃れられそうだ。
こうして四人は街から再び、【劇毒】を引き起こす毒の溜まりを片付けた。
後は、ビルダ老人が回復するかどうかだけだ。
「この時間はおそらく、この大型クエストの成否を分けるための計算の時間ですね」
「ここまで、ミスはないと思うけど……」
「何か見落としの要素がある可能性もありますから、気が抜けませんね」
「……どうか、無事で」
四人は祈るようにしながら、天幕の元へと戻る。
すると医者は振り返り、それからゆっくりと、大きくうなずいてみせた。
「やったーっ!」
メイは大喜びで、まもりに飛びつく。
いつもは一歩引いているまもりも、思わずメイに抱き着いて、それから不意に我に返って赤面。
「も、ももももうしわけありませんっ!」
さらに自分が歓喜で大胆な行動をしたことに自分で驚いていると――。
「ふあああああ!?」
メイに抱き着き返されて沸騰。
「うまくいったわね」
「はい」
レンとツバメも、片手で気持ちいい音を鳴らすいつものハイタッチを決めた。
「峠は越えたはずだ。あとはとにかく回復を注意深く待つことだ」
医者はそう言って、大きく息をつく。
「……フローリスだけでなく……ワシまで助けてもらうことになるとはな。ありがとう、フローリスを救う英雄たちよ……この街に残って良かった……」
「おいおいビルダじいさん、まだフローリスの戦いはここからだぜ」
そう言って、エンリケが笑う。
「その通りじゃな。今度こそ花の都フローリスを復活させる……この街にはたくさんの思い出がある。何より、咲き乱れる花は、ワシらの誇りなんじゃ……」
「ああ、その通りだ!」
「…………頼む」
まだまだ弱弱しい笑みでそう言って、再び眠りにつく老人。
「あとはこの街をこんな風にした黒づくめたち、そして『兵器』の破壊ってところかしら」
「そうなりそうですね」
「次は絶対、花を咲かせてみせようねっ」
メイは両拳を握って、気合を入れる。
「……今度こそ」
まもりがつぶやく。
一度は毒に沈み、失われた花の都フローリス。
立ち直る直前に再びまかれた大量の毒と、街を愛する者の昏倒。
美しい花の都の復活。
立ちふさがるのは『兵器』と、それを手に入れんとする黒の者たちだけだ。
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