558.堕ちる神官
「――――【闇転】」
HPが半分を切り、いよいよその目を血走らせ始めた神官ザケルドが発動するスキル。
その肌が濃灰色になり、赤い血管のようなラインが走り出す。
戦いの様相が、変わる。
「【天使降臨】」
それは戦闘開始時に使用したものと同じスキル。
しかし天使の色が黒に変わり、禍々しく開いた口に赤い光が灯る。
8体の堕天使が、狂犬のような勢いで喰らい付きにくる。
「――趣味の悪いスキル【早駆け】」
「本当ですね【加速】」
「――追って来る」
黒い天使はかわしてもすぐには消えず、追尾を続けてくる。さらに。
「お前らは一足早く、死んじまえよォォォォ!!」
メイスを手に、長い跳躍で飛び込んで来たのはザケルド本人。
「【闇神メイス】ァァァァ!!」
闇をまとうことで大型化したメイスを叩き付け、叩き付け、叩き付ける。
これをかわして左右から距離を詰めに行く、ツバメと雨涙。
するとザケルドはそのまま全力の振り回しへ。
「オラァァァァァァ――――ッ!!」
激しい風音と共に、闇の粒子を激しく散らす。
これを二人は、しゃがむことで見事にかわす。
「オラァ! オラオラオラァァァァ――――ッ!!」
するとザケルドはいよいよ、悪魔にでも乗っ取られたかのようにメイスを振り回し出した。
さらにそこへ、堕ちた天使が追ってくる。
「喰らえぇぇぇぇ――――ッ!!」
全力の叩き付けによって闇の粒子が吹き散らばり、誘爆するかのように堕天使たちも炸裂。
「「ッ!!」」
これはさすがに予想外。
広がる強烈な闇の飛沫に、ツバメと雨涙は地を転がった。
「かわしても、吹き飛ばしの効果があるのですね」
「――ダメージは多くない」
それでも、ほぼ成功と言えるレベルのとっさの回避に成功。
慌てることもなく、二人はうなずき合う。
「次はあれ、いってみてもいいですか?」
「――ツバメは優秀。合わせる」
真正面から言われて、わずかに照れるツバメ。
レンの作戦やメイの異常な能力の後に続くことが多いツバメも、パーティの先頭に立つだけの能力がある。
「――先行する【早駆け】」
単体で駆け出した雨涙は、そのままザケルドのもとへ直行。
「【天使降臨】!」
「――【苗木越え】」
迫る堕天使の喰らい付きをかわし、しっかりとその視線を奪ったところで空へ。
ザケルドを大きく跳び超えていく。
もちろんこれは堕天使たちを引きつけ、ザケルドの視線を奪うだけの行為。
ツバメはその場を動かない。
「【不可視】【投擲】」
視線が切れたのを確認して、【投擲】による攻撃を仕掛ける。
すると作戦会議でレンが提案した通り『見えていない』、または『投じた瞬間を目視できなかった』武器を、敵は認識できないようだ。
防御すらしていないザケルドに、【雷ブレード】が突き刺さる。
「ぐああッ!?」
駆ける雷光に、体勢を崩し硬直。
ここで着地した雨涙が振り返る。
ザケルドまでは距離があり、さらに堕天使たちも空を追ってきている。
狙い通り隙こそ作ったが、今回は追撃が行えない流れかとツバメが思ったところで――。
「――【風遁・爆迅脚】!」
迫る堕天使たちの隙間を縫って、雨涙は跳ぶ。
そのまま空中でコマのように一回転し、爆風を放つ蹴りでザケルドを弾き飛ばした。
「ぐああああああああ――――っ!!」
「蹴りもあるとは、忍者は面白いですね……!」
連携が綺麗に決まり、心地よさを感じながらの着地。
雨涙はこくりと、気持ち良さそうにうなずいた。
「つくづく頭にくるヤツらだ……」
全身を走る赤い光線を明滅させながら、ザケルドは忌々しそうにつぶやいた。
「だが……お前らはこれで終わりだァ」
濃灰色に変わった腕を地に突くと、足元に描かれていく『セフィロトの木』のような光の紋様。
赤く、その色を変えていく。
「【堕天使乱舞】」
紋様から大量の天使が飛び出し黒化、一斉に乱れ飛ぶ。
そしてその全てが、ツバメたち目掛けて殺到する。
「――世界の終末は、きっとこんな光景【早駆け】」
「見るからに恐ろしいスキルです【疾風迅雷】【加速】」
迫り来る堕天使の集団、二人はひたすら回避に徹する。
狙いはわずかな隙を見つけての接近だ。
「――今! 【流刃】!」
一瞬のスキを逃さない。
わずかに道が開いた瞬間を突き、一気に距離を詰め斬撃を叩き込む。
「【聖盾】!」
だがこれは、闇に浸食された光の盾に弾かれた。
「【加速】【リブースト】【アクアエッジ】!」
「【聖盾】ッ!」
続く攻撃も、速い対応で盾防御を決められる。
「この状況で盾を上手に使い出す。これはやっかいです……っ」
「喰らえやぁぁぁぁ――――ッ!! 【蛮神の一撃】ィィィィ!!」
「「ッ!?」」
反撃のメイス振り降ろしは、黒き雷光をまとった狂乱奥義。
炸裂し、闇の衝撃波が荒々しく駆けめぐる。
「ああっ!」
「――ッ!!」
炸裂する波動に、再び弾き飛ばされる二人。
今度はしっかりダメージを喰らい、3割ずつのHP減。
「……雨涙さん、勝負を賭けましょう。私が崩します」
「――承知」
いまだ闇の粒子が舞う中、ツバメは静かに『勝負』の連携を示唆した。
「【疾風迅雷】】【加速】【加速】【加速】!」
先行し、高速移動の連発で隙間を作る。
そして堕天使たちを掻い潜る形でザケルドのもとへたどり着いたツバメが、放つ剣舞。
「【八連剣舞】!」
「【聖盾】!」
ザケルドは盾を構え、狙い通り守りの姿勢を固める。
だがこの剣舞は、盾を出させるための一撃。
何より、剣舞を放ったツバメは――――【分身】だ。
「【加速】【リブースト】」
一瞬で飛び込んで来た本物のツバメの手には、【デッドライン】
「【電光石火】!」
二連撃からの斬り抜け。
敵防御を無視して刺さるその武器は、しっかり身を固めていたザケルドを切り裂いた。
「――【風遁・爆迅脚】!」
即座に続く雨涙。
【爆迅脚】は蹴りを放たなければ、高速跳躍移動スキルとなる。
しっかりと堕天使の隙間を狙って跳躍。
着地はそのまま踏み込みとなり、放つは必殺の一撃。
「――落ちろ……【狂い咲き】!」
刀による美しい斬り抜けは、わずかに遅れて10連の斬撃が一斉に駆けめぐる。
「グアアアアアアア――――ッ!!」
あがる悲鳴。
斬撃の乱舞に弾き飛ばされたザケルドの残りHPは、もうわずか。
「【加速】」
「――【早駆け】」
当然二人はトドメを差しに走る。
もはや雌雄は決した状況だ。
そんな中ザケルドは、静かに手を上げた。
「――――【黒血の聖槍】」
「「ッ!?」」
すでに目前まで駆け込んできている、ツバメと雨涙。
ここまで素晴らしい連携と流れできたがゆえに、勢いが先行。
残りHPが1割を切った際にだけ使用する最終奥義を、カウンターで置かれる形になってしまった。
すでに速度を上げている足は止めることができず、もはやこの一撃の炸裂を止めることはできない。
「――ツバメと一緒の戦いは楽しかった」
「雨涙さん?」
「――あとは、任せる」
そう言って雨涙は、ツバメの前に出る。
そして闇の輝きを放つ必殺の刺突に、容赦なく腹部を貫かれた。
奥義を肩代わりする形で受けた雨涙は、そのままヒザを突く。
「ッ! 【アサシンピアス】!」
その隙を突き、ツバメはトドメの一撃を叩き込む。
「……くっ」
倒れ伏すザケルド。
その身体は、元の人間に戻っていく。
「雨涙さんっ!」
「――悪くない、戦いだった」
そう言って、ゆっくりと倒れていく雨涙。
「ありがとうございました。雨涙さんのおかげで、トドメを刺すことができました」
ツバメはそう言って、雨涙のもとに腰を下ろす。
「――ツバメ。アルティシアを……レクイエムを、よろしく――」
「雨涙さん……」
そして静かに目を閉じた雨涙の肩に、そっと手を乗せた。
「残ってます……HP」
「――え?」
言われてあらためて確認してみれば、雨涙のHPは2だけ残っていた。
自分は死んだものだと、完全なる勘違い。
「――休憩……していただけ」
ツバメを守り、カッコつけながら倒れておいての勘違いはさすがに恥ずかしかったようだ。
そのままうつぶせになって顔を隠した雨涙の耳は、確かに赤くなっていた。
ご感想いただきました! ありがとうございます!
返信はご感想欄にてっ!
お読みいただきありがとうございました!
少しでも「いいね」と思っていただけましたら。
【ブックマーク】・【ポイント】等にて、応援よろしくお願いいたします!




